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最近、GAAJ-ZENHOKYO Labに鉛ガラスの含浸処理が施された各色サファイアが鑑別依頼で持ち込まれた。これらは、拡大検査におけるフラッシュ効果や扁平した気泡の存在が鑑別の手掛かりとなり、レントゲン(X線透過性)検査や蛍光X線分析などのラボラトリーの技術により確実に看破が可能である。 |
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2004年の始め頃から、鉛ガラスが含浸されたルビーが見られるようになった。この処理は同年12月以降急速に宝石市場に広がり、GAAJ ZENHOKYO Labをはじめ国内外の鑑別機関から様々なアラートが報告された。その後、過度の含浸が行われたものが見られるようになり、重量への影響や耐久性などが懸念されるようになった。この現状を憂慮したJJA((社)日本ジュエリー協会)とAGL((社)宝石鑑別団体協議会)は、鉛ガラス含浸処理ルビーに対する鑑別の表記を2009年7月1日付けで改定し、業界への警鐘を鳴らした。 また、鉛ガラスの含浸処理は、ルビーに留まらず、ブラック・スター・サファイアやブルー・サファイアにも適用されるようになり、含浸される物質もPb(鉛)だけでなく、Bi(ビスマス)も使用されたものが見られるようになった。この鉛ガラス含浸処理に関する一連の記事は、弊誌ジェモロジィに適宜掲載されている。 さて、今回報告するのは、既報のルビー、ブラック・スター・サファイアあるいはブルー・サファイアではなく、その他の各色サファイアに鉛ガラスが含浸されたものである。新たに鉛ガラスの含浸処理を確認した色相は、ピンク、淡緑、淡黄、無色などである。鑑別依頼で供された際は、9点のサファイアがセッティングされた1本のネックレスであった。図-1は、個々のサファイアを製品から外してルースにした状態である。重量は5.23ct〜11.85ctで、サイズは大きいもので18.4mm×13.3mm×4.5mm、小さいもので15.3mm×10.0mm×3.6mmである。どの石も総じて扁平な形状にカットされていた。
宝石顕微鏡による拡大検査では、従来報告されている鉛ガラスが含浸されたルビー同様に(1)フラッシュ効果や(2)潰れた気泡が観察される(図-2)。(1)が確認できるケースでは、含浸処理の第一の警鐘となるが、今回検査した無色のサファイア2ピースには明瞭なフラッシュ効果は認められなかった。(2)は、今回検査したすべての含浸処理サファイアに認められたが、加熱されたコランダム中のボラックスなどの残留物やコランダム本来の二相インクルージョン中の気泡などと混同しないよう、注意が必要である。
蛍光X線による組成分析では、コランダムの主元素であるAl(アルミニウム)以外に、含浸されたガラスに由来するPbが相当量検出されている(図-3)。 また、含浸の程度および分布を確認するためにレントゲン(X線透過性)検査を行った結果、石全体に鉛ガラスが含浸されていることが観察される(図-4)。
以上のように、鉛ガラスが含浸処理された各色サファイアは、従来の含浸処理ルビーと同様に、拡大検査などの標準的な鑑別手法で含浸の手掛かりを得ることができるが、含浸物質が鉛ガラスであることの確証を得るためには、蛍光X線による組成分析などのラボラトリーの技術が不可欠である。 このような各色の含浸処理サファイアがGAAJ-ZENHOKYO Labに持ち込まれたのは今回が始めてであるが、これまでの鉛ガラス含浸処理ルビーの急速な広がりを鑑みると、この新たな色相のサファイアに対する鉛ガラスの含浸処理も、今後広がりをみせることが憂慮される。 *なお、これらの含浸処理されたサファイアの鑑別表記は、従来の含浸処理ルビーと同様です。 詳細については、(社)宝石鑑別団体協議会のホームページをご覧ください。
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