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GAAJ Lab. ALERT 2004.03.15
鉛ガラスが含浸されたルビー
全国宝石学協会 技術研究室
最近、フィッシャーおよびフラクチャーからフラッシュ効果を示すルビーに遭遇した。分析の結果、鉛系ガラスの含浸が行われていることが分かった。以下にその詳細を報告する。

 ダイヤモンドではクラリティ(透明度)の改善を目的にクリベージやフラクチャーに高屈折率ガラスを含浸する処理が知られている。このような処理は1987年頃から市場で見られるようになり、海外では一般にガラス"充填"と呼ばれている。また、処理業者の名前から"Koss"処理あるいは、"Yehuda"処理と呼ばれている。これらの処理が施されたダイヤモンドのクリベージやフラクチャーにはフラッシュ効果と呼ばれる虹色の独特の光が現われる。
これはダイヤモンドの分散度と含浸物質の分散度が異なるために生じる光の効果であるが、両者の屈折率がほぼ重複していないと生じない。換言すると、母体の宝石と含浸物質の屈折率が極めて近似するものの、分散度が異なるとフラッシュ効果が現われる。

 さて、最近になってファセット・カットされたルビーに、このようなフラッシュ効果が見られるものに遭遇するようになった。Photo-1に示すのは13.220ctのルビーで、内部特徴および分光分析等から加熱されたアフリカ産等の広域変成岩起源と考えられる。このルビーはファセット・カットされているものの、内部から研磨面に達する多数のクラックが認められた。このクラックからは通常の薄膜干渉とは異なる青色〜紫色の不自然な光の効果(フラッシュ効果)が観察された(Photo-2)。
ルビーには、しばしば加熱に伴う残留物がフラクチャーやキャビティに見られることがあるが、これらは屈折率がルビーよりはるかに低く、フラッシュ効果が見られることはない。フラッシュ効果の存在はルビーに重複する屈折率を有する物質が含浸されている兆候である。その物質の同定と含浸の程度を確認するためにX線レントゲン検査と蛍光X線分析を行った。
Photo-3はそのレントゲン写真である。白くコントラストの高く見える幾つもの筋はルビーに発達したフラクチャーの分布に対応する。レントゲン写真で均一に白く写るのは母体のルビー(Al2O3)より原子量の大きな元素の存在を意味している。

Figure-1はこの表面に達したフラクチャー部分の蛍光X線分析による測定結果である。ルビーの主元素であるAlと一般的な微量元素以外にPb(鉛)の検出が際立っている。この蛍光X線分析ではホウ素等の軽元素は検出不可能であるため、これらの軽元素の存在は現時点では否定できない。

以上の観察および分析結果から、最近見かけるようになったフラッシュ効果を示すルビーは、アフリカ産等の多数フィッシャーやフラクチャーを有するルビーに、透明度を改善する目的で屈折率の近似する鉛系のガラスを含浸したものと考えられる。

Photo-1:鉛系ガラスが含浸された13.220ctのルビー。

Photo-2:フィッシャーやフラクチャーからフラッシュ効果が見られる。

Photo-3: レントゲン写真。
白くコントラストの高く見える筋はフラクチャ-の分布に対応する。
Figure-1:蛍光X線によるフラクチャー部の分析結果


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