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緊急レポート 2008.10.9
鉛ガラスが含浸されたブラック・スター・サファイア
(株)全国宝石学協会 技術研究室

 最近、鉛ガラスが含浸されたブラック・スター・サファイアを鑑別した。これまで鉛ガラスが含浸されたコランダムは主にルビーであったが、今後は他のコランダム変種においても注意が必要である。以下にその詳細を報告する。
 2004年の始め頃から宝石市場ではルビーの鉛ガラスの含浸処理が見られるようになった(鉛ガラスが含浸されたルビーをご参照ください)。これらは瞬く間に急速な広がりを見せ、日本国内のみならず、海外のラボからも深刻な現状が報告されるようになった。さらにスター・ルビーやビーズのネックレスにも含浸処理は波及し、ルビーの鑑別の現状は大きく変化した(鉛ガラスが含浸されたルビー 〜最新事情〜をご参照ください)。
 さて、今回鉛ガラスの含浸処理がブラック・スター・サファイア(写真-1)にも見られたので以下に報告する。この石は53ctのバフトップ・カットが施されたルースで、やや不明瞭なアステリズムを有していた。褐色で針状の内包物(おそらくヘマタイトであるが未確認)を豊富に含んでおり、山高にカットされていれば明瞭なスター石になると思われる。

写真-1:
鉛ガラスの含浸処理が施されたブラック・スター・サファイア。
 屈折率はスポット法で1.77であった。紫外線下では長波・短波共に不活性であった。拡大検査において針状インクルージョンおよび液体インクルージョンが見られたが、透明度が低いため観察には強いファイバー光源が必要である。含浸された液膜部分には、平面的につぶれた気泡が分布しており(写真-2)、カット面の頂部付近にはガラスが充填された反射率の低い領域が見られた(写真-3)。このガラスの露出した箇所を狙って蛍光X線による組成分析を行った。図-1に示すように多量のPb(鉛)、Si(珪素)およびAl(アルミニウム)が検出されたが、Alは母体のコランダムに由来すると考えられる。したがって、含浸されたガラスの化学組成はSiO2とPbOで、そのモル比率はおよそ3:1であった。また、含浸の程度および分布を確認するためにX線透過性検査を行った。写真-4の白く見える領域が鉛ガラスの含浸されている箇所に相当する。
写真-2:
含浸された液膜には平面上につぶれた気泡(写真中の白く光った部分)が分布。
写真-3:
反射率の低い領域はガラスが充填された部分に相当する。
図-1:
鉛ガラス含浸処理ブラック・スター・サファイアの蛍光X線組成分析結果。
写真-4
レントゲン写真。白くコントラストの高い領域が鉛ガラスの含浸された部分に相当する。
 全国宝石学協会ラボにおいて、ブラック・スター・サファイアに鉛ガラスの含浸処理が発見されたのは今回が初めてであるが、今後他のコランダム変種を含めて含浸処理に関してさらなる注意が必要であろう。

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