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Research Lab. Report 2004.12.21
鉛ガラスが含浸されたルビー 〜最新事情〜
技術研究室  北脇 裕士、阿依 アヒマディ、岡野 誠
 鉛ガラスの含浸によりクラリティの改善が行われているルビーが急速な広がりを見せている。含浸されたフラクチャーに以前は見られた特有のフラッシュ効果が、最近のものには見られないことが多い。また、スター・ルビーやビーズのネックレスなどの商品にもこの処理が見られるようになった。以下に詳細を報告する。


 ジェモロジィ2004年5月号に既報の通り、ルビーに透明度を改善する目的で屈折率の近似する鉛系のガラスを含浸する処理が見られるようになった。これらは同年12月以降、急速な広がりを見せ、日本国内のみならず、海外のラボからも深刻な現状が報告されている。
既報の含浸処理はファセット・カットされたルビーにフラッシュ効果(通常の薄膜干渉とは異なる青色〜紫色の不自然な光の効果)が見られるものであった(PHOTO-1)。また、含浸されたフラクチャー部には平面状に閉じ込められた気泡なども見られた(PHOTO-2,3)。
PHOTO-1:フラッシュ効果を伴う含浸処理 PHOTO-2:フラクチャーに平面状に閉じ込められた気泡
PHOTO-3:フラクチャーに閉じ込められた大型気泡
ルビーにはしばしば加熱に伴う残留物がキャビティやフラクチャーに見られることがあるが、これらは屈折率がルビーよりはるかに低く、フラッシュ効果が見られることはない。フラッシュ効果の存在は、ルビーに重複する屈折率を有する物質が含浸されている兆候である。蛍光X線分析の結果、この表面に達したフラクチャー部分からはPb(鉛)が検出されており、さらにLA−ICP−MS分析では数千ppmのB(ホウ素)が検出されている。
 さて、最近になって、これらの含浸処理に加えてフラクチャーにフラッシュ効果を伴わないタイプが急増してきた。PHOTO-4は鉛ガラスの含浸処理が施されたスター・ルビーである。既報のファセット・カットされたルビーは色の改善を目的とした加熱がすべてに行われていたが、これらのスター石は色改善やアステリズムの改善を目的としたいわゆる高温下での加熱の兆候は認められない。また、フラクチャーにはフラッシュ効果は見られず、わずかに平面状に残された気泡などから含浸処理の兆候が伺える(PHOTO-5)。
PHOTO-4: 含浸処理が施されたスター・ルビー
(4.888ct、3.720ct)
PHOTO-5:フラッシュ効果が見られないフラクチャー
このようなスター石への含浸処理は最近増加してきたが、全宝協では1997年の5月には既に確認しており、処理法そのものは新しい技術ではないと思われる。
 PHOTO-6はルビーのビーズのネックレスである。個々の石は4×3mm程度であるが、ほとんどすべてに含浸処理の痕跡が認められた。PHOTO-7はその反射光による観察で、表面に達したフラクチャーは反射率がやや低い。PHOTO-8はそのレントゲン写真である。白くコントラストの高く見える幾つもの筋は、ルビーに発達したフラクチャーの分布に対応する。レントゲン写真で均一に白く写るのは母体のルビー(Al2O3)より原子量の大きな元素の存在を意味しており、元素分析の結果、含浸された鉛ガラスに対応している。
PHOTO-6: 含浸処理が施されたビーズのネックレス
PHOTO-7: 反射光による観察;含浸された部分は、レリーフがやや低い 
PHOTO-8: レントゲン写真;コントラストの高い筋は含浸されたフラクチャーに対応
 既報のフラッシュ効果が見られる含浸処理では蛍光X線およびLA−ICP−MS分析の結果、含浸物質は高純度の鉛ガラスであったが、最近増加しているフラッシュ効果を伴わない(若干屈折率が低い)含浸物質は数パーセント程度のSiおよびCaと数千ppmのNa、K、BおよびLiを含有した鉛ガラスである。
 昨年来、ルビーのクラリティ改善を目的とした鉛ガラスの含浸処理が広く見られるようになってきた。中でもフラッシュ効果を伴わないタイプは視覚的には識別が困難な場合がある。このようなケースではレントゲン検査や蛍光X線分析による確認が必要である。


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