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◇紫外線蛍光
  今回観察したCVD合成ダイヤモンドすべてに、特徴的なオレンジ色の紫外線蛍光が観察された(図-11)。これらは概して短波紫外線よりも長波紫外線下で明瞭であった。これらの蛍光色はN-V0センタ(575nm)によるもので、CVD合成ダイヤモンドでは成長速度を高めるための窒素ガスの導入と、その後の放射線照射とアニール処理により形成されたと考えられる。天然ピンク・ダイヤモンドは極めて稀にオレンジ色蛍光を発するものがある(タイプIIaの一部)が、ほとんどのものは青白色蛍光を発する。放射線照射処理された天然およびHPHT合成ダイヤモンドもN-Vセンタによるオレンジ色蛍光を発する。

図-11:
CVD合成ピンク・ダイヤモンドに観察される長波紫外線蛍光下の鮮やかなオレンジ色蛍光。

◆ラボラトリーの技術
◇紫外-可視分光分析
  0.1ct程度以上の13ピースについて紫外-可視分光分析を行った。すべてのサンプルに637 (N-V-)、595および 575nmセンタの吸収が観察された(図-12)。これらに加えて非常に弱い741 (GR1)、503 (H3)、392 (ND1)、271 と 268 nm (孤立型単原子窒素)センタなどが認められたものもあった。これらのうち、741および595nmセンタは照射関連のピークで、これらのCVD合成ダイヤモンドに放射線照射が施されたことを示唆している。637および575nmセンタに伴う500nm付近を中心とした幅広い吸収がこれらのピンク色の原因となっている。測定条件は温室で行われたため、Si-V(シリコン-空孔)関連である737nmの吸収は全ての試料において検出できなかった(Zaitsev 2001, Wang 2009)。
 天然ピンク・ダイヤモンドには塑性変形に由来する550nmを中心とした幅広い吸収帯が見られ、さらにほとんどのものにN3センタ(415nm)が認められる。
 放射線照射およびアニールが施された天然およびHPHT合成のピンク・ダイヤモンドにもCVD合成ピンク・ダイヤモンドと同様に637および 575nmの吸収が観察され、前者にはN3センタが認められる。

図-12:
CVD法によるタイプIIa合成ピンク・ダイヤモンドの代表的な紫外-可視-近赤外分光スペクトル。

◇赤外分光(IR)
  48ピースすべてについて赤外領域の分光分析を行った。すべてのサンプルはダイヤモンドの窒素領域に明瞭な吸収を示さないタイプIIaのカテゴリーであった。分解能を1 cm-1にして積算回数を増やしても、孤立型単原子窒素に由来する1344 cm-1の吸収は認められなかった。
  また、Wang (2009) 等にCVD合成ダイヤモンド特有のものとして報告されている3123 cm-1の吸収は、すべてのサンプルにおいて明瞭なピークとしては認められなかったが、3150〜2700 cm-1の範囲で29試料に、一本または数本の極弱い吸収 (3136、3118、3107、3028、2947、2925、2901、2885、2855、2846、2837、2788、2773、2747、2724 cm-1.) が認められるものがあった(図-13)。これらの吸収は、炭素Cと水素Hの結合による伸縮振動に由来すると考えられる。水素由来の吸収として天然ダイヤモンドによく見られる3107 cm-1も、わずかな吸収として数点試料にしか検出されなかった。

図-13:
CVD法によるタイプIIa合成ピンク・ダイヤモンドの代表的な赤外分光スペクトル。

◇フォト・ルミネッセンス(PL)
 514.5 nm(緑色)、633 nm(赤色)、325 nm(紫外)の各波長のレーザーを励起源に用いて48ピースすべてについてそれぞれ測定を行った。
 514.5 nmレーザーによるPLスペクトルは、637および 575 nmが48ピースすべてに検出された(図-14a)。この場合、常に637の方が575nmのピークより強く、5〜10倍の強度を有している。Si-V関連の737 nmピークは4ピースにのみ検出された。741 nm(GR1)は1ピースにのみ検出された。しかし、He-Neの633 nmレーザーによるPLスペクトルでは、741(740.9と744.4 nmのダブレット)と737nmピークがそれぞれ48ピースすべてに検出された(図-14b)。0.25ct試料の場合は、5ヶ所の分析点の内、一ヶ所のみにごく弱い737nmの励起線が現れる。He-Cdの325 nmレーザーによるPLスペクトルは、503.1 nm(H3)が48ピースすべてに検出された(図-14c)。また、496.1 nm(H4)が31ピースに検出された。また、505と 498.3 nmの一対のピークが48ピースすべてに見られた。415.2にごく弱いピークが検出されたものが6ピースあった。415.2nmでの励起線は天然ダイヤモンドによく見られる一般的なN3センタと同様な欠陥であると思われるが、同励起位置にN3CVDと呼ばれる欠陥がCVD合成ダイヤモンドの薄膜に見られる場合もある(Zaitsev 2001)。389 nm (409、 411.7、 413と439nmが付随)のピークが48ピースすべてに検出された。これらのピークは照射に関連するものと思われる。

図-14a:
CVD法によるタイプIIa合成ピンク・ダイヤモンドの633nm波長のレーザー励起源によるフォト・ルミネセンスの分光スペクトル。

図-14b:
CVD法によるタイプIIa合成ピンク・ダイヤモンドの514.5nm波長のレーザー励起源によるフォト・ルミネセンスの分光スペクトル。

図-14c:
CVD法によるタイプIIa合成ピンク・ダイヤモンドの325nm波長のレーザー励起源によるフォト・ルミネセンスの分光スペクトル。
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