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◇蛍光X線分析 蛍光X線分光法による元素分析の結果を表-2に示す。
海水産および淡水産を含むすべての貝殻核からは貝の主成分であるCa (カルシウム)が検出された。淡水産二枚貝であるドブガイとヒレイケチョウガイの核からは微量元素としてMn (マンガン)とSr (ストロンチウム)が検出された。しかしながら、ドブガイ核とヒレイケチョウガイ核の相違を見出すことはできなかった。ドブガイ張り合わせ核にもMnとSrが検出されたが、接着剤由来の元素は検出されなかった。シャコ、シロチョウガイおよびブラウン・シェルの海水産二枚貝の核からは微量元素としてSrのみが検出され、貝の種類を示唆する特徴は見出せなかった。また、蛍光増白剤やロンガリットなどの処理が施された核からは、化学処理に由来すると思われる元素は検出されなかった。貝以外の材質であるバイロナイト核には、CaとMg (マグネシウム)が主元素として検出され、少量のAl (アルミニウム)と微量なFe (鉄)とSrが検出されている。これらの検出元素と赤外分光分析の結果から、バイロナイト核は鉱物起源のドロマイトと考えられる。セラミックス核は、3種類の主元素Si (珪素)、Al、Mgと少量のK (カリウム)から構成されており、CaとFeは微量元素として検出された。これらの検出元素と赤外分光分析の結果から、セラミックス核はカオリナイト起源と推定される。 ◇LA-ICP-MS分析 LA-ICP-MS分析による微量元素の測定値を表-3に示す。
今回検査した貝殻核のすべて(淡水産二枚貝核、海水産二枚貝核および海水産巻貝核)においてLi (リチウム)、 B (ホウ素)、 Na (ナトリウム)、 Mg、 P (リン)、 K、 Mn、 Fe、 Co (コバルト)、 Ni (ニッケル)、 Ga (ガリウム)、 Ge (ゲルマニウム)、 Sr、 Ag (銀)、 Sn (錫)そしてBa (バリウム)が微量元素として検出されており、これらの元素は貝殻核に共通するものと考えられる。 海水産二枚貝核(シャコ核、シロチョウガイ核)および海水産巻貝核(ブラウン・シェル)に含まれるNa、Mg、SrおよびAgは、淡水産二枚貝核(ドブガイ核、ヒレイケチョウガイ核)に比べて高い値を示す。逆にMn、Fe、GaとBaなどは淡水産二枚貝核の方が海水産の貝殻核に比べて高濃度であった。 淡水産二枚貝核のうちドブガイ核はヒレイケチョウガイ核よりもSrおよびBaがやや高濃度であった。しかしながら、全て検出された微量元素はそれぞれのドブガイ核の産出地を示唆する有意な差異は認められなかった。 海水産貝殻核のうちシャコ核はシロチョウガイ核や巻貝核よりもB、 P、 FeおよびBaの含有量がやや多く、NaおよびCoはやや少ない傾向にあった。シロチョウガイ核と巻貝核を比較した場合、シロチョウガイ核にはMgとMnの含有が多い傾向にあった。海水産貝殻核については分析個数が少ないため、今後更なる検証が必要である。 また、蛍光X線分析で検出できなかった張り合わせ核に使用された接着剤由来の元素および化学処理に使用された蛍光増白剤やロンガリット由来の元素は、今回のLA-ICP-MSによる微量元素の分析においても検出することができなかった。 LA-ICP-MSによる微量元素の測定において、Sr、 MnおよびBaの3つの元素はそれぞれの貝殻核において濃度変化が見られたため、図-8にSr-Mn-Baの化学組成比三角ダイアグラムを示した。淡水産二枚貝であるドブガイ核とヒレイケチョウガイ核はMnとBaに富んだ広い領域にプロットされ、海水産二枚貝であるシャコ核およびシロチョウガイ核と海水産巻貝核はSrに富んだ領域にプロットされる。また、Mn-Ba領域では、ドブガイ核はBaに富む領域に、ヒレイケチョウガイ核はBaに乏しい領域にプロットされる。
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◆まとめ 養殖真珠の核として現存する種々の素材について宝石学的検査および元素分析を行った。これらのサンプルには貝殻から成形された核(淡水産二枚貝、海水産二枚貝、海水産巻貝)、加工を施した核(蛍光増白剤処理、ロンガリット処理、張り合わせ)、貝以外の材質の核(バイロナイト、セラミック)が含まれる。 核そのものの外観および拡大検査の結果、淡水産および海水産二枚貝にのみいわゆる“ギラ"現象が認められた。張り合わせ核はその組み合わせた構造が明瞭であった。紫外線蛍光検査では、蛍光増白剤処理およびロンガリット処理された核に特徴的な蛍光反応が認められた。比重測定ではドブガイ核よりもシャコやバイロナイト核はやや高い値が得られ、張り合わせ核とセラミックス核は低い値が得られた。紫外-可視領域および赤外領域の分光分析において、貝殻核と貝以外の素材では明らかな相違が認められた。また、化学処理を施した核あるいは有機質を多く含む核にも特徴的な吸収が認められた。蛍光X線分析において、貝殻核と貝以外の素材では明らかな相違が認められた。また、MnとSrの量比において貝殻核の海水産と淡水産の識別は可能である。LA-ICP-MS分析では貝殻核の海水産と淡水産の識別に加えて、Sr-Mn-Baの化学組成比から淡水産のドブガイ核とヒレイケチョウガイ核の識別も可能である。 |
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◆おわりに 真珠養殖に様々な核が何の情報開示もなく使用され始めたという現状において、鑑別機関として非破壊で核の材質が判別できるかという新たな命題が与えられた。今回の報告はその基礎研究として、現存する種々の核の材質そのものを調査したものである。したがって、一般鑑別検査で得られた所見や各種分光分析および蛍光X線分析で得られた知見は真珠層が取り巻いて真珠製品になったものにはそのまま適用することができない。しかしながら、LA-ICP-MS分析では、レーザーを連続的に照射しながら測定することにより、真珠層より順次深さ方向を分析し、内在する核の分析を行うことが可能である1)。今後さらにこの研究を発展させ、真珠製品の核の素材が判別できる手法を確立したい。 参考情報 1)ジェモロジィ2004年12月号:『LA-ICP-MS法の真珠核判別への応用』 |
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