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●紫外-可視分光分析
  860 から220 nmの波長範囲の吸収スペクトル測定を行った結果、チベット産赤色アンデシンには、320 nm を吸収端としてそれより波長が短い範囲を吸収するほか、565nm付近に銅コロイドによる顕著なブロードの吸収および380 nm 付近にFe3+による弱い吸収が認められた(図-25)。コンゴ産赤色アンデシン/ラブラドーライトとオレゴン産赤色ラブラドーライトにも同様な分光吸収があると報告されている(A. N. Hofmeister and G. R. Rossman, “Exsolution of metallic copper from Lake County labradorite,” Geology, Vol. 13, 1985, pp. 644-647; M. S. Krzemnicki, “Red and green labradorite feldspar from Congo,” Journal of Gemmology, Vol. 29, No. 1, 2003, pp. 15-23)。近赤外分光光度計によって800?2500 nmの波長範囲の吸収スペクトル測定では1,260nm付近にFe2+による弱いブロードの吸収ピークが存在することがわかった(図-26)
 内モンゴル産黄色アンデシンの分光スペクトル測定の結果、紫外?可視領域において、450、420、380nmの3ヶ所に吸収が認められた。特に380nmの吸収は最も強く、420nmの吸収は半値幅の広い吸収特徴を示し、Fe2+とFe3+の電荷移動によるものと思われる(図-25)。また、1,260nm付近に強いブロードの吸収が認められた(図-26)

図-25:
チベット産赤色アンデシンと内モンゴル産黄色アンデシンの紫外-可視領域分光特徴
図-26:
近赤外領域にFe+2によるブロードな吸収が見られ、内モンゴル産黄色アンデシン(黄色線)よりも強い吸収を示すチベット産赤色アンデシン(赤色線)

●EDXRF組成分析
 チベット産と内モンゴル産アンデシンの主要元素としてはSi(55-56wt.%;SiO2)、Al(26-27wt.%;Al2O3)、Ca(10wt.%;CaO)と少数元素としてNa(5.8-6.2wt.%;NaO)が検出された。また、微量元素としてK、Mg、Ti、FeおよびSrが検出されたほか、チベット産赤色アンデシンには0.06-0.10wt.% の含有量のCuOが測定された。両産地の化学組成値は非常に近似し、Cu以外に特異な元素は検出されなかったが、An%の計算値は47-50%となり、Kの含有量が低いため、斜長石シリーズ中のアンデシン/ラブラドーライトの化学組成境界付近にプロットされる。EPMA(X線マイクロアナライザー)による文献値では、An%が50-51%を示し、Kを除いた場合52-53%となっている(Y. Cao, “Study on the feldspar from Gu Yang County, Intermongolia and their color enhancement,” Master thesis, 2006, Geological University of China)。
●LA-ICP-MSによる成分分析
 両産地のアンデシンのさらに詳細な組成分析を行った。主元素と少数元素であるSi、Al、Ca、Na以外に、16種類の微量元素が検出された。含有量の高低順にK(2200-3600 ppm)、Fe (1000-3200 ppm)、Sr (700-1000 ppm)、Mg (330-620 ppm)、Ti (400-510 ppm)、Ba (120-160 ppm)、Mn (20-40 ppm)、Ga (20-30 ppm)、Li (10-60 ppm)、Sc (5-15 ppm)、B、V、Co、Zn、Rb、Sn、Ce、Euは各々3ppm以下であった。チベット産赤色アンデシンと内モンゴル産黄色アンデシンにCu元素以外に有意な元素の差異は見られず、赤色アンデシンはCu (300-600 ppm)が高含有量を示し、黄色アンデシンは低いCu (<3 ppm)が含まれていた。ほかに、Liはチベット産アンデシンにやや高めに含まれていた。
◆まとめ
 チベットおよび内モンゴルのアンデシン鉱山を視察した。その結果、チベットからは天然の赤色アンデシンが産出していることが確認できた。一方、内モンゴルからは淡黄色のみのアンデシンが産出されており、これらは中国国内において、Cuの拡散加熱処理の原材にされているという確かな情報を得ることができた。また、これらの淡黄色のアンデシンは、濃色化を目的にコバルト60による照射処理も行われているという新たな情報も得ることができた。
 今回現地で入手したチベット産の赤色アンデシンと内モンゴル産の淡黄色アンデシンをLA-ICP-MSを用いて詳細な成分分析を行ったところ、Cu以外の元素はほぼ同範囲内の含有量を示し、明確な差異が認められなかった。
 今後、チベット産の赤色アンデシンとCuの拡散加熱処理が施されたモンゴル産のアンデシンを識別するために、さらなる調査と研究が必要と思われる。
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