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今月の鑑別室から 2008.12.12
チベットおよび内モンゴル産アンデシン
(株)全国宝石学協会 技術研究室?阿依アヒマディ(理学博士、FGA)

 宝石業界において長石の変種であるアンデシン/ラブラドーライトの色の起源(天然か拡散加熱処理か)と産出地の真偽に関心が寄せられている。筆者はこれらの真実を確かめるべく、チベットと内モンゴル自治区の鉱山を調査した。その結果、チベットでは、赤色のアンデシンが産出していることを確認した。一方、内モンゴルの固?(GuYang)県では、アンデシンが産出するものの色相は淡黄色のみで、これらが拡散処理の原料に利用されている。以下に、産地調査報告と採集試料の宝石学的特徴をご紹介する。

◆はじめに
 赤色や緑色を呈する透明な宝石質のラブラドーライトはアメリカのオレゴン州に産出し、稀少石として広く業界に受け入れられている(A.N. Hofmeister and G,R, Rossman, “Exsolution of metallic copper from lake county labradorite,” Geology, Vol.13, 1985, pp.644-647; C. L. Johnston et al., “Sunstone labradorite from the Ponderosa mine, Oregon,” Winter 1991 Gems & Gemology, pp. 220-233)。2002年頃、アフリカのコンゴ共和国産といわれる、赤色のアンデシン/ラブラドーライトがマーケットに登場したが、産地に関する確かな報告は一切なされなかった(Spring 2002 Gems News International, pp.94-95)。2005年後半に、“Tibetan Sunstone”と呼ばれる赤色アンデシンがDo Win Development Co. Ltd., Tianjin, China (http://www.tibetansun.com)によって販売され、産出地はチベット中部にあるNyima(Nyemo)と紹介した(Winter 2005 Gem News International, pp.356-357)。その後、2007年2月にアメリカで開催されたツーソン・ジェム・ショーにおいて、同様のチベット産アンデシンが“Lazasine”の名称でKing Star Co., Ltd. (香港)とM. P. Gem Corp. (日本) によって販売された(図-1)。2008年のツーソン・ジェム・ショーでは、北京オリンピックの公式宝石に認定されたとして、中国産と称する赤色のアンデシンが大量に販売されていた(図-2)。しかし、上述したコンゴ産、チベット産および中国の他の産出地からの未処理といわれる赤色のアンデシンに対して、拡散加熱処理の疑いを唱える人々が現れた。このような背景において、筆者は2008年10月中旬と11月初旬の2回にわたり、チベットと内モンゴル自治区の両産地を視察するに至った。
 今回の調査は、チベットアンデシン鉱山の出資者であるKing Star社のWong Ming氏とM. P. Gem. Corporation社のChristina Iu氏の積極的な協力と、チベットの鉱山主であるLi Tong氏および内モンゴル自治区の鉱山主であるWang Gou Ping氏のご好意によって実現することができた。なお、チベットの鉱山調査には筆者の他、日独宝石研究所の古屋正貴氏、Jewelry Television (JTV)タイ支部のBBJ Bangkok LtdからDavid Chiang氏、LITTO Gems Co. LtdからMarco Cheung氏が同行した。

図-1:
“Lazasine”の名称でKing Star Co.およびとM. P. Gem Corp.が販売するチベット産赤色アンデシン
図-2:
“オリンピック認定石・サンストーン”と称する赤色アンデシン(2008年ツーソン・ジェム・ショーにて)

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