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◇カソード・ルミネッセンス(CL)
 ダイヤモンドの成長履歴を観察できるカソード・ルミネッセンス法はダイヤモンドの起源を知る上で最も有効な手法である。今回の研究にはルミノスコープELM-3と電子顕微鏡に分光器を組み合わせた2種類を用いた。前者は直接発光色を観察でき、後者はCL像の分解能が高い。DTCが開発したダイヤモンド・ビューはCL法の電子線の代わりに波長の短い紫外線を用いたもので、原理はルミノスコープに非常に近いものである。ダイヤモンド・ビューは操作性に優れているが、蛍光像のイメージはCL法が優れている。
 天然ダイヤモンドのCL像には種々のものがあり、個体識別にさえ応用できる(写真-10)。高温高圧法合成ダイヤモンドはセクター・ゾーニングが見られ(写真-11)、天然との識別が容易である。
写真-10: 天然ダイヤモンドのCL像(ルミノスコープ);天然ダイヤモンドには種々のものがあり、
個体識別にさえ応用できる(左;タイプ
Ia無色/右;タイプIbイエロー)。
写真-11: 高温高圧法合成ダイヤモンドのCL像(ルミノスコープ);明瞭なセクター・ゾーニングを示す。
 CVDダイヤモンドは多くのものがオレンジ色のCL色を示し、やや湾曲した線状模様が特徴的である(写真-12,13)。蛍光色はNVセンタ(575nm)によるもので、線状模様はCVD特有の積層成長に由来すると考えられる。
 タイプ
IIの天然ダイヤモンドは、たいていの場合、バンドAと呼ばれる暗い青色の発光色に斑点状もしくはディスロケーションによる線状模様が観察される(写真-14)。稀にNVセンタによるオレンジ色の発光を示すものもあるが、CVDダイヤモンドには見られないモザイク状のパターンが見られる(写真-15)。

写真-12: CVDダイヤモンドのCL像(ルミノスコープ);オレンジ色のCL色を示し、やや湾曲した線状模様が特徴的である。
写真-13: CVDダイヤモンドのCL像(電子顕微鏡);3つのファセットにまたがって連続する線状模様が特徴的である。
写真-14: 天然タイプIIダイヤモンドのCLに特徴的な、暗い青色の発光色に斑点状もしくはディスロケーションによる線状模様。
写真-15: 天然タイプIIダイヤモンドのCLにまれに見られるNVセンタによるオレンジ色の発光とモザイク状模様。
◇フォト・ルミネッセンス(PL)
 PL法はダイヤモンドの原子レベルの欠陥を捉えるのに宝石鑑別ラボで用いることのできる最も鋭敏な分析手法である。今回の分析には514nm,488nm,633nm,325nmの波長のレーザーを励起源に用いて、サンプルは−150℃以下に冷却して測定した。
 CVDダイヤモンドは514nm,488nmレーザーを用いると、すべてにおいてNVセンタ637nm,575nm、H3センタ503nmが検出された。このように赤外分光において窒素含有のないタイプUであってもPL分析では窒素関連のピークが検出できる。633nmおよび514nmレーザーを用いるとすべてのApollo Diamond inc.のサンプルに737nmのピークが検出された。これはシリコンに起因する発光であり、プラズマを発生させるシリコン・チューブに由来するものと考えられる。このピークは天然ダイヤモンドやHPHT合成には見られないため、CVDダイヤモンドの指標となる。しかし、Element Sixのサンプルにはこのピークは検出されなかった。また、514nmレーザーを用いると540nm,563nmに、 325nm レーザーでは533nmにピークが検出された。これらの3つのピークは、我々の経験では天然ダイヤモンドには見られたことがない。したがって、もしこれらのピークがあればCVDダイヤモンドの鑑別特徴になると思われる。

結 論
 CVD合成ダイヤモンドの宝石学的研究を行った。一般的な鑑別検査のみでこれらを天然ダイヤモンドと識別するのはたいていの場合困難である。しかし、その特徴的なオレンジ色の紫外線蛍光と、タイプUの天然ダイヤモンドに普遍的に見られる“タタミ・マット”パターンの歪複屈折の欠如が合成起源の重要な手がかりとなる。極低温化によるフォト・ルミネッセンス(PL)分析では、いくつかの天然ダイヤモンドには見られない特徴が見出されることがある。カソード・ルミネッセンス(CL)分析ではCVDダイヤモンド特有の成長構造により、天然ダイヤモンドと明確に識別することができる。
 CVDダイヤモンドの宝飾品への利用は始まったばかりであり、今のところ生産は限定的であるが、CVDダイヤモンドの幅広い工学的応用の可能性がある現在、更なる技術開発が予想される。本稿で述べた識別特徴は、現時点の製品に対するものであり、宝石鑑別ラボはこのような新しい素材に対する鑑別技術の開発に常に努力を払わなければならない。

◆謝 辞
 DTC Research CentreのSimon CLawson博士とPhilip M. Martineau博士にはElement Six 製のCVDダイヤモンドを分析する機会をいただいた。また、European Gemological Laboratory(EGL)のBranko Deljanin氏からはApollo Diamond inc.製のCVDダイヤモンドのサンプルを貸与いただいた。物質材料研究機構の神田久生博士には電子顕微鏡によるCL観察にご協力いただいた。ここに記して感謝いたします。

◆文 献
 本稿を記すにあたり、多くの文献を参照しました。以下に主なものを掲げます。
Priddy S. (2003) Appolo Diamond to release CVD diamonds in Q4. Rapaport News,<date accessed:04/13/04>.
Wang W., Moses T., Linares R., Shigley J.E., Hall M., Butler J.E. (2003) Gem-quality synthetic diamonds grown by a chemical vaper deposition (CVD) method. Gems & Gemology, vol.39, no.4, pp.268-283.
Philip M. Martineau, Simon C. Lawson, Andy J. Taylor, Samantha J. Quinn, David J.F.Evans, and Michael J. Crowder. (2004) Identification of synthetic diamond grown using chemical vapor deposition(CVD). Gems & Gemology, vol.40, no.1, pp.2-25.
茶谷原昭義、杢野由明、堀野裕治、藤森直治.(2004) CVDダイヤモンドの高速成長. NEW DIAMOND vol.20, no.4, p26-p27.
八田章光、住友卓、平木昭夫、伊藤利道.(2000) プラズマCVD法による高品質ダイヤモンドの合成. プラズマ・核融合学会誌 第76巻第9号 P833−P841.
吉川昌範.(1991) やさしいニューダイヤモンド 工業調査会

※ AGLの規定では合成ダイヤモンドのグレーディングは行わない。
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