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◇カソード・ルミネッセンス(CL) ダイヤモンドの成長履歴を観察できるカソード・ルミネッセンス法はダイヤモンドの起源を知る上で最も有効な手法である。今回の研究にはルミノスコープELM-3と電子顕微鏡に分光器を組み合わせた2種類を用いた。前者は直接発光色を観察でき、後者はCL像の分解能が高い。DTCが開発したダイヤモンド・ビューはCL法の電子線の代わりに波長の短い紫外線を用いたもので、原理はルミノスコープに非常に近いものである。ダイヤモンド・ビューは操作性に優れているが、蛍光像のイメージはCL法が優れている。 天然ダイヤモンドのCL像には種々のものがあり、個体識別にさえ応用できる(写真-10)。高温高圧法合成ダイヤモンドはセクター・ゾーニングが見られ(写真-11)、天然との識別が容易である。
タイプIIの天然ダイヤモンドは、たいていの場合、バンドAと呼ばれる暗い青色の発光色に斑点状もしくはディスロケーションによる線状模様が観察される(写真-14)。稀にNVセンタによるオレンジ色の発光を示すものもあるが、CVDダイヤモンドには見られないモザイク状のパターンが見られる(写真-15)。
PL法はダイヤモンドの原子レベルの欠陥を捉えるのに宝石鑑別ラボで用いることのできる最も鋭敏な分析手法である。今回の分析には514nm,488nm,633nm,325nmの波長のレーザーを励起源に用いて、サンプルは−150℃以下に冷却して測定した。 CVDダイヤモンドは514nm,488nmレーザーを用いると、すべてにおいてNVセンタ637nm,575nm、H3センタ503nmが検出された。このように赤外分光において窒素含有のないタイプUであってもPL分析では窒素関連のピークが検出できる。633nmおよび514nmレーザーを用いるとすべてのApollo Diamond inc.のサンプルに737nmのピークが検出された。これはシリコンに起因する発光であり、プラズマを発生させるシリコン・チューブに由来するものと考えられる。このピークは天然ダイヤモンドやHPHT合成には見られないため、CVDダイヤモンドの指標となる。しかし、Element Sixのサンプルにはこのピークは検出されなかった。また、514nmレーザーを用いると540nm,563nmに、 325nm レーザーでは533nmにピークが検出された。これらの3つのピークは、我々の経験では天然ダイヤモンドには見られたことがない。したがって、もしこれらのピークがあればCVDダイヤモンドの鑑別特徴になると思われる。 結 論 CVD合成ダイヤモンドの宝石学的研究を行った。一般的な鑑別検査のみでこれらを天然ダイヤモンドと識別するのはたいていの場合困難である。しかし、その特徴的なオレンジ色の紫外線蛍光と、タイプUの天然ダイヤモンドに普遍的に見られる“タタミ・マット”パターンの歪複屈折の欠如が合成起源の重要な手がかりとなる。極低温化によるフォト・ルミネッセンス(PL)分析では、いくつかの天然ダイヤモンドには見られない特徴が見出されることがある。カソード・ルミネッセンス(CL)分析ではCVDダイヤモンド特有の成長構造により、天然ダイヤモンドと明確に識別することができる。 CVDダイヤモンドの宝飾品への利用は始まったばかりであり、今のところ生産は限定的であるが、CVDダイヤモンドの幅広い工学的応用の可能性がある現在、更なる技術開発が予想される。本稿で述べた識別特徴は、現時点の製品に対するものであり、宝石鑑別ラボはこのような新しい素材に対する鑑別技術の開発に常に努力を払わなければならない。 ◆謝 辞 DTC Research CentreのSimon CLawson博士とPhilip M. Martineau博士にはElement Six 製のCVDダイヤモンドを分析する機会をいただいた。また、European Gemological Laboratory(EGL)のBranko Deljanin氏からはApollo Diamond inc.製のCVDダイヤモンドのサンプルを貸与いただいた。物質材料研究機構の神田久生博士には電子顕微鏡によるCL観察にご協力いただいた。ここに記して感謝いたします。 ◆文 献 本稿を記すにあたり、多くの文献を参照しました。以下に主なものを掲げます。
※ AGLの規定では合成ダイヤモンドのグレーディングは行わない。 |
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