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一般鑑別
◇外 観
 Apollo Diamond inc.が合成したCVDダイヤモンドの結晶原石は天然ダイヤモンドの原石とはまったく異なる外観を有している。すなわち、天然ダイヤモンドの多くは八面体をベースとした結晶形態であるが、CVDダイヤモンドは平板状である(図-2/前ページ)。この結晶形態は従来の高温高圧法合成ダイヤモンドの六−八面体の形状とも異なっている。今回検査した原石は2ピースとも基板は完全に除去されていた(Apollo Diamond inc.では基盤に高温高圧法の合成ダイヤモンドを用いており、CVD結晶を育成後、レーザーで除去している)。結晶原石の外縁部には黒褐色の品質の悪い部分が見られるが、これらは非ダイヤモンド構造炭素である(写真-3/前ページ)。
 Element Sixの2ピースとApollo Diamond inc.の1ピースはファセット・カットされていた。後者はHPHT処理が施されており、透明度が損なわれファセット表面は荒れていた(写真-4/前ページ)。EGLのBranko Deljanin氏によるとこの石はHPHT処理によって若干褐色味が除去されたとのことである。

◇内包物
 今回検査したCVDダイヤモンドはおおむねクラリティがよく、Element Sixのファセット・カットされた2ピースはVSクラスであった※。Apollo Diamond inc.の板状研磨石に10倍の拡大下で少数のピンポイントが観察された(写真-5)。これらを拡大すると黒褐色の不定形で、非ダイヤモンド構造炭素と考えられる。
 CVD合成では金属溶媒を用いないため、高温高圧法合成ダイヤモンドにしばしば見られる金属インクルージョンは存在しない。したがって、従来合成ダイヤモンドの簡易識別法として公表されている磁性も見られない。
写真-5: Apollo Diamond inc.の板状研磨石に10倍の拡大下で観察された少数のピンポイント。

◇カラー・ゾーニング
 今回検査したCVDダイヤモンドはElement Sixのほぼ無色の1ピースを除くとすべてがブラウン系の色調である。これらはファンシー・ライト・ブラウン〜ファンシー・ブラウンにグレードされ※、わずかにイエローの色調を帯びている。CVDダイヤモンドの褐色の色分布は石全体にほぼ均等に見られる。しかし、一部には褐色の線模様が数本観察された。これはおそらく{100}に平行で、結晶成長時の温度変動やガス圧の変化による要因で非ダイヤモンド構造炭素が析出したものと思われる。
 天然ダイヤモンドに観察される褐色の色帯は地下深部で生成して地表に到達するまでの間にこうむった塑性変形によって形成されるもので、通常1方向もしくは2方向に交差する褐色の面状の色帯(ブラウン・グレイン)として観察される。
 また、CVDダイヤモンドの褐色線模様は後述する歪複屈折と無関係のようであるが、天然ブラウン・ダイヤモンドの褐色色帯はたいていの場合干渉色のある歪複屈折を伴っている。

◇歪複屈折
 今回観察したCVDダイヤモンドには特徴的な筋模様の歪複屈折が観察された。これらは結晶の成長方向に平行に伸びており、平板状結晶の成長面と垂直方向(主にガードル方向)からの観察で明瞭になる。これらは結晶成長時の線状欠陥(ディスロケーション)によるものと思われる(写真-6)。
 天然ダイヤモンドに観察される歪複屈折は成長時によるものと塑性変形によるものに大別され、特に後者の存在は天然起源を強く示唆する。塑性変形による歪み複屈折の典型がタイプ
IIのいわゆる“タタミ”構造である(写真-7)。CVDダイヤモンドもタイプIIのカテゴリーに属するが、この“タタミ”構造は見られない。ただし、CVDダイヤモンドでも成長方向に平行な方向(たいていはテーブルに垂直方向)から観察すると、一見“タタミ”構造風に見えるので注意が必要である(写真-8)。
写真-6: 交差偏光下において見られる特徴的な筋模様の歪複屈折。これらは結晶の成長方向に平行に伸びており、平板状結晶の成長面と垂直方向(主にガードル方向)からの観察で明瞭になる。
写真-7: 天然ダイヤモンドに観察される“タタミ”構造と呼ばれる歪複屈折。
写真-8: CVDダイヤモンドに見られる一見“タタミ”構造風の歪複屈折(成長方向に平行な方向から観察)。

◇紫外線蛍光
 今回観察したCVDダイヤモンドのほとんどに特徴的なオレンジ色の紫外線蛍光が観察された(写真-9)。これらは概して短波紫外線よりも長波紫外線下で明瞭であった。しかし、蛍光強度の弱い場合は完全な暗室内で観察する必要がある。これらの蛍光色はNVセンタ(575nm)によるものと考えられ、タイプ
IIの天然ダイヤモンドには稀なものである。CVDダイヤモンドでは成長速度を高めるための窒素ガスの導入と、またディスロケーションの発生に伴う空孔の生成がこのNVセンタの形成に関与していると考えられる。
写真-9: CVDダイヤモンドに見られる特徴的なオレンジ色の紫外線蛍光。

ラボラトリーの技術
◇紫外−可視分光

 室温における紫外−可視領域の分光分析では検査したほとんどのサンプルが長波長側から短波長側へ緩やかに吸収が強くなっている。紫外域の吸収端は220〜240nmで、典型的なタイプ
IIのスペクトル・パターンである。褐色味のあるサンプルでは500nm〜550nm付近にかけてブロードな吸収が見られた。この吸収の強さと褐色の濃さは比例しており、ほぼ無色のサンプルにはこの吸収は認められなかった。また、一部のものには270nmにわずかな吸収が見られた。これは孤立型単原子窒素に由来するものである。
 天然ダイヤモンドのほとんどに見られるN3センタ(415nm)は認められなかった。

◇赤外分光(FTIR)
 室温における近赤外〜赤外領域の分光分析を行った。赤外分光ではほとんどがダイヤモンドの窒素領域に吸収を示さないタイプ
IIのカテゴリーであった。
 分解能を1cm−1にして積算回数を増やすと一部のものには1344cm−1に非常に弱い吸収が見られた。これは孤立型単原子窒素に由来するもので
Ibタイプに典型的なものである。近赤外領域では7354cm−1にわずかな吸収を示すものが見られた。Wuyi Wang他(2003)によるとCVDダイヤモンドには積算回数を1024回にして分析すると8753、6856、6425、および5564cm−1にもおそらく水素不純物に関連する吸収が見られるとしている。
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