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リチウムを含む新鉱物 murakamiite 村上石の発見

リチウムを含む新鉱物 村上石の発見


平成28年12月12日

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*本記事は山口大学にて行われたプレスリリースの同時配信です。
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概要

 山口大学大学院創成科学研究科の今岡照喜教授、永嶌真理子准教授、加納隆名誉教授、 海洋研究開発機構の木村純一上席技術研究員、常青(Qing Chang)技術主任、ジェムリサーチジャパン株式会社の福田千紘課長らの共同研究グループは、 リチウムを含む新鉱物を愛媛県上島町岩城島で発見しました。発見された鉱物は著名な鉱物学者・岩石学者でもある村上允英(山口大学名誉教授)にちなみ「村上石」と命名されました。
 これは国際鉱物学連合 (International Mineralogical Association)*1 の新鉱物・命名・分類委員会(Commission on New Minerals, Nomenclature and Classification)*2 により新種として2016 年10 月7 日に承認され,11 月29 日にイギリスの学術雑誌「Mineralogical Magazine」のNew Minerals リストに 掲載されました。
 「村上石」はLiCa2Si3O8(OH)という化学式で表されるリチウムを多量に含む珍しい鉱物です。そして本鉱物が属するペクトライトグループには,このような組成を持つ鉱物が存在するに違いないと世界中の鉱物学者が予測しておりましたが,長らく空位のままでした。今回の「村上石」の発見は,このミッシングピースを埋める成果であり、大変貴重な発見といえます。

背景

 愛媛県上島町岩城島には特異な“エジル石閃長岩”を産することが古くから知られ、岩石学者の関心を集めていたようです。1944 年に九州大学の杉健一と久綱正典によって“エジル石閃長岩”が記載され、1968 年3 月8 日に愛媛県の県指定天然記念物に指定されています。その後、この岩石より村上允英先生によって1976 年には新鉱物の「杉石」が、1983 年には2つ目となる新鉱物の「片山石」が発見されました。片山石の発見から四半世紀以上の年月が経過し、その間の分析技術の進歩は目覚ましく、また、鉱物や岩石の研究者は誰も研究対象にしなかったことなどから、同研究グループは、オンリーワンの研究を目指して“エジル石閃長岩”を再検討することとしました。
 再検討にあたっては、“エジル石閃長岩”は県指定の天然記念物であるため、まずは上島町教育委員会を通じて、愛媛県教育委員会に現状変更等許可申請書を提出するところから研究は始まりました。

内容

 研究を進める過程で、これまで“エジル石閃長岩”と呼ばれてきた岩石(写真1)は火成岩ではなく、交代作用によって形成された岩石であり、また、アルバイトを主成分鉱物とする岩石であることから、アルビタイトと呼ぶべきものが判明しました。さらに過去の研究を振り返ると、杉石や片山石はともに数パーセントオーダーのリチウムを含む鉱物であることが分かりました。このことから、準輝石にしばしば知られているナトリウムとリチウム置換がペクトライトに見られるのではないか、という仮説を立てました。幸いペクトライトは岩石全体に3%程度含まれるので、ペクトライトを単独分離し、その化学組成と結晶構造および光学性を詳細に調べたところ、ナトリウムよりもリチウムに富むものが存在することが明確となりました。写真2の中央の無色透明な結晶が村上石/ペクトライトです。化学分析なしに村上石とペクトライトは区別できません。

写真1 村上石を含むアルビタイト.黒い鉱物がエジリン、抹茶色の鉱物は杉石、白い鉱物はほとんどがアルバイト(長石)で岩石の約80%を占める.


写真2 中央の無色透明な鉱物が村上石/ペクトライト

 表1はペクトライトグループに属する鉱物の主な元素の関係をまとめたものです。長らく世界の鉱物学者の間では,ペクトライトやセラン石のナトリウムをリチウムで置き換えた種が存在することが予想されており,今回,その最後のミッシングピースであったリチウム卓越型のペクトライトである「村上石」の発見に至りました。




 つまり村上石は、ペクトライトという鉱物に含まれたナトリウムがリチウムによって半分以上置き換わっているもの(Li > Na)を指します。図1は村上石の原子配列を示した結晶構造です。解析した村上石にはリチウムが約60%, ナトリウムが約40%含まれていました。通常,本産地のペクトライトはリチウムを30%程度含みますが,リチウム含有量がナトリウムよりも多いもの(=村上石)は珍しいと言えます。


図1 村上石[理想式 LiCa2Si3O8(OH)]の結晶構造


 以上の内容を国際鉱物学連合の新鉱物・命名・分類委員会へ申請しました。審査によって新鉱物であることが正式に承認され「村上石」(IMA No. 2016-66)と命名されました。「村上石」の名称は本学名誉教授であり、鉱物学や岩石学に顕著な功績のある故村上允英先生(1923‐1994)にちなむものであり、奥様の了解を得て命名されました。

まとめと今後の展開

 村上石の発見によって、この岩石の特異性はさらに明確となりました。村上石は今まで検討した岩石試料のうちわずか1 試料しか見つかっていません。非常に稀有な鉱物です。村上石を含む岩石と含まない岩石の違いもまだ、未解明です。また、村上石やそれを含む岩石の形成年代や成因は不明です。すでにそれらの問題の解明を目指して取り組んでいます。

謝辞

 愛媛県教育委員会および上島町教育委員会には天然記念物の“エジル石閃長岩”の採取の許可をいただきました。山口大学理学部には、地球科学標本室に収納されている鉱物標本の一部をリチウム分析用の比較試料として活用させていただきました。また、結晶構造解析では、島根大学総合理工学部地球資源環境学学科所有のX 線回折装置を使用させていただきました。記して関係各位に感謝の意を表します。

*1国際鉱物学連合 (International Mineralogical Association): 38カ国の鉱物学』関連学会の合同により組織される鉱物学における唯一の国際連合。鉱物に関する取り決めを一手に担っている。

*2新鉱物・命名・分類委員会(Commission on New Minerals, Nomenclature and Classification):国際鉱物学連合の中にある委員会の1つで、新種の鉱物の審査と承認を行う重要な委員会。新種の鉱物を確立するにはこの委員会の厳しい審査をパスする必要がある。



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