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ジェムリサーチジャパン株式会社は、宝石・宝飾品の鑑別・グレーディングを主業務とする会社です。

NEWS

無色石の鑑別

FTIRの反射スペクトルを用いた識別


ジェムリサーチジャパン株式会社 福田千紘


平成27年6月27日に山梨県甲府市のやまなしプラザにて宝石学会(日本)総会および講演会が行われました。当社からは1件の一般公演を行いましたのでその概要を報告いたします。


 無色石は宝飾品の脇石として、 特に小粒のダイヤモンドはメレとして最もよく使用されています。 無色の脇石には意図的にダイヤモンド以外の無色石が使用されたり、ダイヤモンドの脇石にダイヤモンド以外の無色石が混入するケース(写真1)が散見されます。ダイヤモンドとダイヤモンド以外の無色石を識別することは比較的容易ですが、ダイヤモンド以外の無色石がどの様な素材であるかの識別は手間がかかります。 これらを効率よく識別する手法を模索していました。



写真1 メレダイヤモンドに混入したキュービックジルコニア 画像左右1cm


 ダイヤモンドとそれ以外の宝石の識別においては一般的な鑑別手法として、 拡大検査(インクルージョンの種類と有無・ファセットエッジのシャープさ)や偏光検査(単屈折であるか否か、裏面の被覆があれば検査不可)、紫外線蛍光(類似石はダイヤモンドとは異なる蛍光を示すものが多い)を組み合わせて行ったり、場合によっては 熱慣性テスター(比熱の違いを利用、一部の類似石に誤判定が有ります)や軟X線の透過性(類似石は炭素より重い元素で出来ていることを利用、裏面の被覆があると検査不可)を用いるケースもあります。ルースでの検査に限定すれば比重の測定も適応可能です。

しかし、 ダイヤモンド以外の無色石の識別となりますと一般鑑別手段だけでは対応できないケースが多くなります。より高度な検査としてラマン分光法や組成分析(蛍光X線分析など) が上げられ、前者は同質異像の相の同定も可能 な長所があり、後者は組成の差による固溶体の分類や、天然・合成の判別も可能となります。これらの手法はセッティングやチャンバーの真空化など下準備や測定にも多少の時間がかかる点が欠点です。


 今回はFTIRの反射スペクトルを用いた識別方法の有効性を検討しました。この手法は以前から特定の鉱物の識別に広く使用されています。利点としては、枠にセットされた状態でもある程度の大きさまでは検査可能で、表面に面が一つ露出していれば測定可能な点です。研磨面が荒れていたり 、平面でなくとも測定できます。また短時間・リアルタイムに測定でき下準備が特に不要な点もメリットです。

しかしその反面、欠点として、異方性のある素材の場合は測定する箇所や方向によってスペクトルが変化することが上げられます。また表面の汚れや被膜(樹脂など)により得られるデータが変化しますが、これば事前に表面の状態を検査し清掃することで対応可能です。


 今回の測定では使用機材はFTIR-8400s、 使用ステージはDSR-8000(拡散反射)を、測定範囲波長は500-2000cm-1、分解能は4cm-1に予察的に設定しました。

 光学的等方体(結晶の場合は等軸晶系)以外では反射スペクトルも異方性により変動します。検証の結果、面、方向に関係なく出現するピーク・バレイがあり、実用上は問題ない範囲で変動していることがわかりました。今回掲載したスペクトルの中で光学的異方性のある物質のスペクトルは代表例として一つのみ掲載しています。

 まず ダイヤモンド類似石として使用される人造・合成石の識別が可能かどうか検証するために以下の試料を準備しました。合成ルチル、合成モアッサナイト(6H)、人造チタン酸ストロンチウム、人造キュービックジルコニア、人造GGG、人造YAGです。これらの反射スペクトルを測定した結果が図1です。

 比較したダイヤモンド類似石はピーク、吸収の位置やスペクトルの形状が大きく異なり容易に識別が可能です。また枠にセットされた無色石もφ2mm程度の物までは適応可能であることを確認しました。



図1 ダイヤモンド類似石の反射スペクトル


 次に天然の無色石 として写真2の試料を準備しました。



写真2 左上から順に、ジルコン 、サファイア、クリソベリル、グロッシュラーガーネット、スピネル、スポジュメン、フォルステライト、エンスタタイト、トルマリン、ダンブライト、トパーズ、ベリル、クォーツ、スカポライト


これらのスペクトルを図2〜10に示します。今回比較した天然の無色石はいずれも明瞭な違いが認められ容易に識別が可能です。


図2 スカポライトとクォーツの反射スペクトル



図3 クォーツ、ベリル、トパーズの反射スペクトル


図4 トパーズ、トルマリンの反射スペクトル



図5 ダンブライト、トパーズの反射スペクトル



図6 エンスタタイト、フォルステライト、スポジュメンの反射スペクトル



図7 スピネル グロッシュラーガーネットの反射スペクトル



図8 スピネル、サファイアの反射スペクトル



図9 クリソベリル、サファイアの反射スペクトル



図10 ジルコンの反射スペクトル


 次にガラスのスペクトルの比較を行いました。宝飾品として使用されるガラスとして、ペースト(Na-K系珪酸ガラス)、クリスタルガラス(鉛ガラス)、SWAROVSKI®(鉛フリー)を、身近にあるガラスとしてN-BK7(光学ガラス)とBoro3.3硼珪酸ガラス(耐熱ガラス)を準備しました。

 その結果を図11に示します。いずれも1100-1000cm-1に一つのピークがあり大まかなスペクトルの形状は類似しています。ピークの位置は組成の差が関係していると考えられます。ガラスのスペクトルも前述の様々な無色石とは大きく異なる特徴を示し識別が可能です。



図11 各種ガラスの反射スペクトル


 反射スペクトルでは天然・合成の両方が存在する素材の場合それぞれの識別は困難な場合が多いようです。今回は火炎溶融法による合成スピネルと天然スピネルにのみ明瞭な差が認められました(図12)。しかしフラックス法合成スピネルと天然スピネルは類似しています。サファイア、クォーツ試行しましたがも天然・合成に明瞭な差は認められませんでした。


図12 天然・合成スピネルの反射スペクトル、赤色が火炎溶融法の合成スピネル


 最後にまとめますと、FTIRの反射スペクトルを用いることである程度まで 物質の特定を行うことが可能です。 またこの手法は無色石以外の色石にも応用可能です。 この手法では一部の例外を除いて天然・合成、組成の違う同じグループに属する鉱物同士の識別は困難です。そのため他の検査・分析手法と組み合わせる必要があります。



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