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ジェムリサーチジャパン株式会社は、宝石・宝飾品の鑑別・グレーディングを主業務とする会社です。

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エチオピア産の処理オパールの原状


ジェムリサーチジャパン株式会社

福田千紘 宮ア智彦

Hanmi Gemological Institute Laboratory

Lee Bo-Hyun



エチオピアからは1990年代よりオパールの産出が知られていました。2006年にはwollo地区で豊饒なオパールの鉱床が発見され大量のオパールが市場で流通するようになりました。2013年初めには原石のままでの輸出が禁止されました。現在、様々な処理を施されたエチオピア産オパールが流通しています。

はじめにオパールが見つかったのはshewa地区です。エチオピアのほぼ中央部に位置し複数の地点で採掘されており、この産地の産状は流紋岩質溶結凝灰岩中の厚さ3m程度の層からノジュールとして産出すると報告されています。(Johnson et al.,1996)

 次にオパールが見つかったのはwollo地区です。位置関係としてはshewa地区よりも北側に位置しています。流紋岩〜安山岩質の火山砕屑岩中の1mに満たない薄い層からオパールが産出しています。(Rondeau et al.,2010)

図1 エチオピア産のオパール


エチオピア産のオパールは透明度は半透明〜不透明で半透明のものが多く、大半は白色ですが黄色や褐色系の色相を呈するものもあります。斑は大きくメキシコ産に比べると透明度は低いものが多く見られます。また紫外線蛍光は弱い青白色の蛍光を呈し燐光は認められない点がオーストラリア産オパールとは異なります。他の産地のオパールに比べて多孔質で環境変化で重量が変動するのも特徴の一つです。

 エチオピア産オパールには様々な処理が施されたものが存在しますが、はじめに確認されたのは樹脂含浸処理が施されたオパールでした。樹脂含浸処理の検出には近赤外分光分析が有効で1680nm付近と2300nm付近に樹脂起源の吸収が認められます。

 次に確認されたのは黒色化処理を施されたオパールでした。形状は厚みのあるカボションカットやファセットカットで、小さなサイズはなく数カラット以上の大きなルースが多く、暗黒色の地色に大きな斑が見られるのが外観上の特徴でした。

紫外線蛍光は長波、短波共に不活性で、透過光は赤色〜赤褐色を呈し、スクラッチ状、スポット状の色だまりが認められます。一部の試料を切断したところ切断面は外縁部が最も濃い黒色で内部に向かって徐々に淡くなる色の分布が確認されました。カット形状に沿った色の分布はある程度カットしてから処理を行っていることを示唆します。

分光分析の結果、近赤外領域では未処理のオパールとの差は認められませんでした。紫外可視領域では処理オパールに730nm付近から強い吸収が見られ700-600nmにかけて2つの吸収;640nm、595nmが認められました。

ラマン分光分析では炭化処理を行ったオパールには1150cm-1に非晶質炭素起源のピークの出現が知られています。本研究においてもこれを追認しています。



図2 黒色化処理の施されたエチオピア産オパール



次に様々な色調に着色処理されたオパールが登場し、ピンク色系、オレンジ色系、青色系の試料を入手して様々な分析を行いました。ピンク色系、青色系は天然には存在しない色調です。紫外線蛍光はピンク色は長波:オレンジ色、短波:白濁、オレンジ色は長波:黄濁、短波:不活性、ブルーは長波:短波共に不活性で、着色に用いられた色素に起因すると思われる蛍光を示す試料がありました。拡大検査では明瞭な色だまりは認められません。近赤外分光分析では樹脂含浸の痕跡は認められませんでした。よって有色樹脂の含浸処理ではなく色素を用いた着色処理と考えられます。


天然のファイアオパールと重複する色のオレンジ色の処理オパールは可視分光分析にて630nm付近から短波長側にかけてブロードな吸収が見られました。これと紫外線蛍光の差で識別可能と思われます。




図3 様々な色調に着色されたエチオピア産オパール


合成オパールの中には有色のポリマーを用いて着色されたものがあります。使っている色素に共通点が見られるか比較を行いましたが、紫外可視分光分析の結果、色調は同様に見えても色素起源と考えられる吸収は異なり共通点はみられませんでした。



















図4 様々な色調の合成オパール


ここまでで処理の諸特徴は前述の通りですが実際に2種類の処理を行い着色されるかどうかと拡大検査で流通している処理オパールと同じような特徴を示すか実験して検証しました。処理の手法は@黒色化、A色素による着色です。処理の原材としてエチオピア産オパールのビーズ・ネックレスを用いました。

 サンプル購入元からの情報で砂糖液と酸を用いて処理をしたとの情報を得ました。そこで室温において飽和状態のスクロース水溶液と濃硫酸を用いて処理を試行しました。試料はスクロース水溶液に浸漬しただけのものと断続的に煮沸したものの2種類を準備しました。化学反応の原理としては濃硫酸の強力な脱水反応を利用してスクロースから炭素を生成する反応の応用です。

 実験の結果、スクロース水溶液に浸漬するとオパールは完全に透明になり遊色はほとんど目立たなくなりました。200時間経過後に取り出して表面を純水で洗浄し、しばらく空気中に放置すると完全に白色不透明に変化し遊色は再び認められる状態に戻りました。濃硫酸に浸漬し50時間経過後に取り出してアルカリ水溶液で中和洗浄しました。処理の過程で濃硫酸は黒色に変色し、オパールは黒色不透明〜半透明に変化しました。遊色は中和洗浄後は殆ど見られない状態でしたが乾燥すると認められるようになりました。外観と拡大検査では流通している黒色化処理オパールと同じ状態の結果が得られました。表面には濃淡の色むらがあり、スポット状、スクラッチ状の色だまりは明瞭に確認できません。また表面は処理の過程で若干平滑ではなくなりました。これはリカットの必要性とリカットに伴う色だまりの出現の可能性を示唆するものと考えています。また煮沸した試料の方がより黒くなりました。スクロースがより多く、深部まで浸み込んだためと考えられます。






















図5 上段:実験で得られた黒色化処理オパール 下段:黒色化処理の施されたエチオピア産オパールの切断面


次に着色処理の実験を行いました。どのような色素、溶媒で着色処理を行っているか事前情報が入手できなかったため水性、油性の両方の溶媒を用いた着色処理を試行しました。色素は身の周りにあり入手しやすいボールペンのインク(10色)、蛍光染料(蛍光ペンインク5色、蛍光染料アンプル6色)、食品添加物(食品色素3色)を使用しました。また身の周りのものでオパールが汚染され色が付いた事例も報告されているので食品(赤ワイン、醤油)も試行しました。溶媒は油性インキにはトルエン、蛍光染料には2-プロパノール、食品添加物には純水を用いました。200時間室温で浸漬した後取り出して同一の溶媒で表面を洗浄し付着している溶液などを取り除いてから乾燥させ観察しました。

 実験の結果、いずれの色素、溶媒の試料も着色されました。特に油性インクが最も濃く着色されました。拡大検査では研磨面ではない荒れた部分、糸穴などに色だまりが認められます。溶媒で濡れている状態では遊色は目立たなくなり、溶媒が蒸発し乾燥すると遊色は再び認められるようになりました。更に一度着色したオパールは再び同様の溶媒に浸漬し洗浄しても脱色することは出来ませんでした。食品で汚染された場合も元に戻すことは不可能で、着色の場合は色素が褪色しない限り顕著な色落ちはしないと考えられます。


以上により内容を簡単にまとめると、


@エチオピア産オパールは顕著な多孔性のため水よりも分子量の大きな有機染料やスクロースでも表層だけにとどまらず比較的内部まで浸透したと考えられます。


A黒色化処理を施されたエチオピア産オパールの識別には色だまりの確認と非晶質炭素の確認が有効です。実験の結果から黒色化処理はスクロースと濃硫酸で処理されていると推定されます。


B様々な色調の着色されたオパールは紫外線蛍光と分光分析により天然の同色のものと識別が可能で着色された合成オパールとは異なる色素を用いていると考えられます。色々な色素、溶媒で着色が可能であり今後新たな色調の処理オパールが現れる可能性は高いと考えられます。




















図6 実験で得られた着色オパール




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