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ジェムリサーチジャパン株式会社は、宝石・宝飾品の鑑別・グレーディングを主業務とする会社です。

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南極大陸セール・ロンダーネ山地から産出したアマゾナイトの特徴

〜平成24年度宝石学会(日本)講演会 一般講演より 201269日 於伊勢観光文化会館〜


ジェムリサーチジャパン株式会社 福田 千紘 宮ア 智彦

島根大学総合理工学部地球資源環境学科 亀井 淳志


201269()に伊勢観光文化会館において平成24年度宝石学会(日本)講演会・総会が開催され弊社からも1件の一般講演を行いました。当日の講演では豊富な写真や詳細な数値データを交えた内容でしたが紙面の都合上講演内容を以下に簡単に要約し報告といたします。


1:ジェニングス氷河上からのアマゾナイト露頭の遠景
 


2:アマゾナイト露頭付近の様子


 1912128日は白瀬中尉率いる白瀬南極探検隊が日本で初めて南極点を目指し、南緯805分、西経15637分の地点に到達した日であり、今年でちょうど100周年を迎えます。これを記念し各所でさまざまな式典やイベントなどが開催されています。

 第50次日本南極地域観測隊、セール・ロンダーネ山地地学調査隊が2008年〜2009年にかけて現地調査を行いました。20091月の調査では新鉱物であるマグネシオヘグボナイト-2N4Sを発見し国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物命名分類委員会により新鉱物として認定されていますShimura et al.(2011)。マグネシオヘグボナイト-2N4Sは青色のコランダム(サファイア)と共生するなど宝石となる鉱物もみつかっており、セール・ロンダーネ山地では他に宝石質のバナジウム着色のグリーングロッシュラーガーネットなども産出が知られていますが極地での開発や採掘は南極条約という国際条約の制限を受けるため手付かずのまま保護されています。


3:セール・ロンダーネ山地の地質図


 セール・ロンダーネ山地の地質は大きく3つの地層に分けることができます。古い順に約10億年前の変成花崗岩、約6億年前の高度変成岩、約65億年前の花崗岩です。このうち約6億年前の高度変成岩中に含まれる花崗岩質の岩石試料には淡青色の粗粒な結晶が含まれているものがありました。これは既に長石(アマゾナイト)として存在が知られており予察的な分析で追認できました。


4:セールロンダーネ山地で採取されたアマゾナイトを含むペグマタイト、写真の左右5cm

5:アマゾナイト結晶の偏光顕微鏡写真, 長さ約1cm (:分析用に30μmより厚い薄片にしています)


 


 セール・ロンダーネ山地から産出するアマゾナイトは花崗岩質の岩石中にあるペグマタイト部分に淡青〜青色の結晶として点在し、形状は半自形のものが多いようです。岩石中のやや祖粒な部分に集中する傾向がみられます。結晶は明瞭な壁開面が観察され顕微鏡下では双晶面に規制された方向にラメラ構造が認められます。また偏光顕微鏡による観察で直交ニコルでは格子状のマイクロクリン双晶が顕著に見られます。分析の結果、カリウム、ナトリウムに富み微斜長石(マイクロクリン)に分類されます。主要な構成成分のほかに着色要因として鉄、鉛が少量検出されました。また着色にはあまり影響しないと思われる微量成分としてRb,Sr,Cs,Ba等が最大数1000ppm程度と比較的高い濃度で含有されていました。

 本研究ではセール・ロンダーネ山地で採取された南極産のアマゾナイトと世界各所から産出が報告されている他の産地のアマゾナイトとの組成や特徴を比較をおこないました。比較対象はかつてゴンドワナ大陸として超大陸を形成し現在は分断されている南米大陸よりブラジルのミナス・ジェライス州産とペルー産、アフリカ大陸よりモザンビーク産とマダガスカル産、ユーラシア大陸から採取されたものとしてはロシア・コラ半島産、北米大陸から採取されたものとしてはアメリカ・コロラド州産、沈み込み帯の島弧である日本から採取されたものとして長野県産と滋賀県産を準備しました。


 色調は南極産が最も青色寄りで他の産地はやや緑色を帯びる傾向がみられます。またロシア・コラ半島産には最も大きな白色のアルバイト成分に富むラメラが見られます。これはこの産地のアマゾナイトを形成したメルトが他の産地に比べてNaに富む組成であったためと考えられます。

 主要な成分であるKNaの含有量を産地ごとに比較してみましたが特に大きな差や傾向は認められません。これはアマゾナイトの形成された時の温度、圧力条件に大きな差がなかったことを示していると思われます。

 微量元素については、着色要因とされているFePbの分布ではPbの含有量に産地による差が現れ、Feの含有量には同一試料内でばらつきがみられました。またこれらの元素の含有量と色の濃度には相関性が認められません。これは含有される着色要因となる元素の一部しか着色に関与していないためと考えられます。

 着色にはあまり影響しないと考えられる微量元素であるRb,Srの分布ではRbの含有量は産地ごとの差が見られSrの含有量は各試料ごとにばらつきがありますが特に南極産で変動幅が大きい特徴が見られました。Csはモザンビーク産、マダガスカル産のすべての分析試料から検出され他の産地のものは殆ど検出されないものが多い結果となりました。Baは殆ど検出されない産地や検出量にばらつきのある産地がありましたが明瞭な傾向は認められませんでした。

 以上の結果から最も産地ごとに差の現れた元素であるRbPbの含有量の分布を検討した結果、産地ごとにそれぞれ重複しない集合を形成し、産地の特定に応用できる可能性が示唆されます。しかしこれらの集合が産地の差として現れたものか同じ産地でも鉱床ごとの差として現れたものかの判別はより試料を増やして検討する必要があります。


 かつて南極大陸はゴンドワナ大陸としてオーストラリア大陸、インド大陸、スリランカ、アフリカ大陸を構成する複数の地塊、マダガスカル、南米大陸を構成する複数の地塊とつながっていたと言われています。これらの大陸、地塊には65億年前の衝突変成帯起源の変成岩が分布している地域があり、これを起源とする宝石種の中には共通するものが存在します。

 セールロンダーネ山地のアマゾナイトもこの変成岩の中に入っている花崗岩質の岩石が母岩でありゴンドワナ大陸を形成していた他の産地のアマゾナイトと共通する特徴が存在する可能性があるため検討してきました。しかしながら母岩の花崗岩類や周辺の変花崗岩の岩石学的な研究が進行中であるため今後も継続的な研究を行う予定です。



6:比較検討に使用した世界各地から産出したアマゾナイト
上段:左よりブラジル・ミナス・ジェライス州産、ペルー産、モザンビーク産、マダガスカル産
下段:左よりロシア・コラ半島産、アメリカ・コロラド州産、長野県産、滋賀県産














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