パライバトルマリン レビュー2011
〜平成23年度宝石学会(日本)講演会 一般講演より 2011年6月4日 於つくば国際会議場〜
ジェムリサーチジャパン株式会社
福田 千紘 但馬 秀政 宮ア 智彦
2011年6月4日(土)につくば国際会議場エポカルつくばにおいて平成23年度宝石学会(日本)講演会・総会が開催されジェムリサーチジャパン株式会社からも1件の一般講演を行いました。講演内容を以下に要約し報告いたします。
2010年に含銅リディコータイトが市場に出現し、国際的にパライバトルマリンの定義についての議論が再燃しました。本報告では含銅トルマリンの産地ごとの外観および化学分析値の特徴を総括し、新たに出現した含銅リディコータイトの詳細な化学分析の結果を報告します。
図
1:バターリャ鉱山の全景。右端の緑の部分がバターリャ市街地
1980年代はじめにブラジルのパライバ州で彩度の高い青色を呈する含銅トルマリンが発見され、パライバトルマリンとしてツーソンジェムショーをきっかけに一躍有名となりました。その後隣接するリオグランデ ド ノルテ州の鉱山からも供給されるようになりました。ブラジルの含銅トルマリンの鉱山は最初に発見されたパライバ州のバターリャ鉱山とその北部リオグランデ ド ノルテ州のムルング鉱山とキントス鉱山です。
バターリャ鉱山は3人の地権者が鉱区を分割して所有しています。坑道はペグマタイト中に含まれるトルマリンを得るためペグマタイト脈を追いかけるように掘られています。母岩は変質が進みカオリナイト化した軟質の土壌で、パライバトルマリンの鉱石は白色の長石、石英と共存ししばしば紫色部分を伴って産出します。
バターリャ鉱山産の化学分析値の特徴は、CuOの含有量は通常2%程度で緑色が強くなるにつれてMnOの含有量が高くなります。またグリーンにはFeOとZnOが含有されているのが特徴です。
リオグランデ ド ノルテ州のキントス鉱山はドイツの会社が経営しており地元ではジャーマンと呼ばれています。含銅トルマリンの鉱山としては最も近代的な手法で採掘されており、縦坑から何段にも分かれた横坑が掘られていましたが、現在この鉱山は閉山しています。
日本国内に輸入されていたキントス鉱山のパライバトルマリンには銅の含有量が少なく色調の淡いものもあります。また緑味の強いものも多いのですが完全な緑色はほとんどありません。
CuOの含有量は個体差が大きいのですが通常は1%以上は含まれており緑味が強くなるとMnOの含有量が高くなり、ZnOを含有します。
リオグランデ ド ノルテ州のムルング鉱山はある一定期間、この地で産出するパライバトルマリンのほとんどが日本国内に輸入されていました。現在でも小粒のパライバトルマリンの殆どがムルング鉱山産と思われます。母岩は硬質のペグマタイトでありこの産地のものは殆どが最初から青色を呈しており加熱の必要がありません。
ムルング鉱山産のパライバトルマリンは色の濃さによってランク分けされ販売されています。色の濃さはCuOの含有量にほぼ比例しています。
図
2:バターリャ鉱山産のパライバトルマリン原石
2000年頃、アフリカのナイジェリアからも含銅トルマリンが発見されました。
ナイジェリアの含銅トルマリンは流通段階でタイプ1とタイプ2と呼ばれる2種類に分かれていました。タイプ1は青から緑まで幅広い色調を呈し色の濃いものはCuOの含有量は高く、緑味が強くなるに従ってMnOの含有量が増加します。外観および蛍光X線による分析ではブラジル産との区別は困難です。
ナイジェリア産のタイプ1含銅トルマリンにはしばしば酸化鉄により褐色を呈する管状インクルージョンが観察されます。これはブラジル産のトルマリンには見られない特徴です。この褐色の管状インクルージョンはブラジル産の含銅トルマリンがペグマタイトから産出するのに対しアフリカ産の含銅トルマリンは二次的に堆積し部分的に酸化した赤褐色の漂砂鉱床から採掘されているため観察されます。
タイプ2は色調や分析値でブラジル産と区別が可能であったため当初はパライバトルマリンとはされなかったタイプです。
図
4:ナイジェリア産タイプ1のトルマリンに見られる褐色の管状インクルージョン
化学分析値はタイプ1はCuOの含有量がたいてい1%以下ですが2%を超えるものもあり、MnOの含有量が高い傾向にあります。タイプ2はCuOの含有量が大抵0.5%以下でPbOが検出されるのが特徴です。
2005年頃からモザンビーク産の含銅トルマリンが市場に出現しました。ナイジェリア産は産出量が少なかったもののモザンビーク産はのちにブラジル産を席巻することになります。
モザンビーク産の含銅トルマリンは殆どが色調が淡く銅の含有量も低くなっています。しかし大粒でクリーンなものが多いのも特徴です。淡色のため小さくカットするとアクワマリンに似た外観になります。
淡青色のものはCuOの含有量が大抵0.6%以下でBi2O3を多く含有するのが特徴です。緑味の強いものはMnOの含有量が高くなる傾向にありますがこの産地のものは緑色でもZnOを含まないことを特徴とします。
各産地の含銅トルマリンのCuOとMnOを用いて比較すると概ね産地ごとに集合が形成されることから産地ごとのデータを蓄積することによって蛍光X線による分析でも大まかな産地の推定が可能な場合があります。
ブラジル、ナイジェリア、モザンビークの含銅トルマリンには前述のような化学的特徴が見られますが蛍光X線レベルでは確実な識別が困難であることから慎重な議論の末、2006年5月より産地に関係なく含銅トルマリンをパライバトルマリンと呼ぶことになりました。この当時は分析した含銅トルマリンはすべて鉱物学的にはエルバイトであったため定義上は含銅エルバイトとされました。海外でもGILCやLMHCなどの国際的なラボや業界代表者により議論され同様なパライバトルマリンの定義が決定されました。
2010年の9月頃から含銅リディコータイトが日本国内で見かけられるようになりました。モザンビークで産出していると言われています。視覚的にはこれまでのモザンビーク産の色調の淡い含銅エルバイトとは区別できません。
トルマリングループには多くの端成分が知られています。これまでの含銅トルマリンはすべてエルバイトでしたがCaが多くなると鉱物学的にはリディコータイトになります。パライバトルマリンは含銅エルバイトと定義されていたためリディコータイトについて改めて議論されることとなりました。
図 5:左から2個はリディコータイト、他の3個はエルバイト。
含銅リディコータイトの化学分析値の特徴はNa2Oに比べてCaOの含有量が明らかに高いことです。蛍光X線分析において従来の含銅エルバイトと区別が可能ですが、Naは比較的軽い元素で分析に使用する機器によっては感度が低下し正確なデータが得られない場合がありますので慎重な分析が必要です。CuOの含有量は0.3〜0.5%で少量のPbOを含有するのが特徴です。
含銅トルマリンの詳細な分析にはLA-ICP-MSが有効です。Ahmadjan他(2006)の研究により蛍光X線分析では不可能な産地鑑別にLA-ICP-MSが応用できることが示されています。色に影響するCu、Mnだけでなく微量に含まれるBe、Mg、Ga、Zn、Pbを分析しダイヤグラムにプロットすることによりブラジル、ナイジェリア、モザンビーク産の産地の区別が可能とされています。
今回は各産地の含銅エルバイトと微量元素の比較を行うため既存の産地の含銅エルバイトに加え含銅リディコータイトのLA-ICP-MS分析を行いました。分析は自社のAgilent ICP-MS 7500a及びNew Wave Research UP-213を使用しNIST-612SRMを用いて定量を行った結果、特徴的な微量元素としてBe、Mg、
Sc、Ga、Ge、Pb、Biが検出されました。Ga、Sc、Pb、Biが多くMgを欠く点はモザンビーク産の含銅エルバイトの微量元素の特徴と調和的な結果が得られましたがBeは含銅リディコータイトの方が少ない結果が得られました。
今回分析した含銅リディコータイト試料の数は含銅エルバイトに比べてはるかに少なくすべてのが同じ特徴を示すかどうかは今後の継続したデータ収集と分析によって明らかにしていきたいと思います。
(表記の分析数値は全て通常トルマリンに含有されるLi、B等の軽元素を除いたNa〜Uまでの元素の含有量を示す数値です)
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