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■紫外線蛍光
 エメラルドは産地によってクロムによる赤色蛍光を発することがありますが、鉄などの不純物元素の存在により無蛍光(不活性)になります。樹脂が含浸されるとしばしば青白色〜微青白色蛍光が見られることがあります。また、オイル含浸されたエメラルドでは明るい黄緑色の蛍光が見られることがあります。しかし、含浸物質の種類によってはまったく蛍光を示さないものも多いので、特徴的な蛍光が見られた場合にだけ手がかりになります。

■FTIRによる分析
 FTIRはフーリエ変換赤外(Fourier Transform Infra-Red)の略称です。FTIRは赤外領域の分光光度計で、光源からの光を干渉計により合成波とし、試料に当てて得られた波形についてフーリエ変換と呼ばれる周波数解析を行うことで吸収スペクトルが得られます。FTIRでは物質の分子振動が得られるため、結晶中の水、水酸基あるいは樹脂・オイルなどの分析に有効です。
 FTIR分光装置では、通常エメラルドのテーブル面を下にスリメンミラー(試料台)に載せて拡散反射法で測定します。エメラルドのパビリオン側から入射した光はエメラルドの内部を通過してスリメンミラーで反射し、再び石の内部を透過して検出器に入ります。このようにFTIRによる分析では石全体からの情報が得られるので分析前にフラクチャーの位置を特定する必要がありません。しかしながら、樹脂やオイルが含浸されたフラクチャーが小さく、入射光がその領域を透過しないと検出できないため、サンプルをスリメンミラーの上で360°回転することが必要です。
 FTIRで測定するとエメラルド自体の広い吸収帯があります。したがって、限られた範囲の透過帯(3200〜2400cm-1)での含浸物質のスペクトルを検出しなければなりません。図-1に未処理のエメラルドのFTIRのスペクトルを、図-2に樹脂およびオイルが含浸されたエメラルドのスペクトルを示します。

図-1:
FTIR分析(未処理のエメラルド)
図-2:FTIR分析
青-樹脂が含浸されたエメラルド
赤-オイルが含浸されたエメラルド

■顕微ラマン分光法による分析
光を物質にあてて散乱させる時、散乱光の中にその物質に特有な量だけ波長が変わった光が混ざってくることがあります。この現象は発見者に因んでラマン効果と呼ばれており、この現象を利用して物質の同定や分子構造を解析する手法がラマン分光法です。ラマン効果で得られる散乱光は通常極めて弱いため、照射する光は強いレーザー光線が用いられ、高感度の検出器が必要となります。
ラマン分光法では顕微鏡を用いた空間的に高い分解能をもつため、局所分析や微小領域の分析、そして表層付近であれば宝石内部のインクルージョンを分析することも可能です。
エメラルドの含浸物質の検出においては、含浸された可能性のあるフラクチャー等を顕微鏡での拡大下で捕らえて局所的に分析することが出来ます。
図-3にフラクチャーに含浸された樹脂の検出例を示します。 

図-3:
顕微ラマン分光分析(緑―未処理のエメラルド、青―樹脂が含浸されたエメラルド)

≪まとめ≫
 エメラルドの含浸の有無を調べるためには宝石顕微鏡における諸特徴の観察が重要です。照明法を工夫した条件下で見られるフラッシュ効果はエメラルドの屈折率に近似する樹脂等の含浸の特徴です。含浸に伴う扁平な気泡の存在や変質した(褐色化や白色化)残留物の存在は含浸の痕跡となります。
 紫外線下において青白色や黄緑色等の特異な蛍光色は含浸物質に由来することがあります。
 FTIR分光法は物質の分子振動が得られるため、含浸された樹脂・オイルなどの検出に有効です。この手法では石全体を分析することができるためおよその含浸物質の量(含浸の程度)を知ることが可能です。
ラマン分光法では顕微鏡を用いた空間的に高い分解能をもつため、含浸された可能性のあるフラクチャー等を顕微鏡での拡大下で捕らえて分析することが出来ます。





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