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≪はじめに≫
“傷のないエメラルドはない”といわれることがあるように、エメラルドはどこの産地のものでも一般に内包物(インクルージョン)を有しています。また、採鉱時には、結晶にすでにフラクチャーが生じたものも多く、さらにはカット・研磨、ジュエリー加工などの段階での不用意な取り扱いでこれらのフラクチャーが拡大する可能性があります。このようなエメラルドの表面に達する特徴を目立たなくするために、透明材の含浸が昔から慣習的に行われてきました。 氷を透明な水の中に漬けるとその輪郭が見え難くなるように、エメラルドのフラクチャーに屈折率の近い物質が含浸されるとフラクチャーが目立たなくなります。エメラルドの屈折率はおよそ1.57〜1.59なので、この屈折率に近似するオイルや樹脂が含浸されています。含浸物質には種々のものが知られていますが、現在最も広く利用されているもののひとつはシダーウッドオイルです。このオイルは数種類の針葉樹、特にビャクシンから採取されています。また、1980年代後半から急速に普及したのがエポキシ樹脂です。オイルに比べると樹脂は屈折率がエメラルドにより近いため、見かけのクラリティ(透明度)向上に効果があります。業界で知名度の高いオプティコンは商標名でエポキシ樹脂の一種です。 ≪含浸物質の検出≫ ■拡大検査による特徴 宝石顕微鏡による拡大検査にさまざまな照明法を組み合わせることにより、エメラルドの含浸についてのいくつかの重要な情報を得ることが可能になります。 1.フラッシュ効果 含浸されたフラクチャーには、しばしばフラッシュ効果が観察されます。これはエメラルドと含浸物質の屈折率が近似しながらも分散度が異なるために生じます。例えば、背景が明るい状態(明視野)で含浸されたフラクチャーを観察した際にブルー〜バイオレットの分散色であったものが(写真-1)、石を傾けて背景を暗く(暗視野)すると分散色がオレンジ色に変化します(写真-2)。色の変化はこの逆の組み合わせもあります。オプティコンのようなエポキシ樹脂はオイルよりも屈折率がエメラルドに近いため、含浸されている場合にはたいていこのフラッシュ効果がみられます(写真-3, 4)。フラッシュ効果を観察するには、暗視野照明とファイバー光源を組み合わせるとより効果的です。
2.気泡・残留物質など 含浸されたフラクチャーにしばしば閉じ込められた気泡が見られることがあります。未処理のエメラルドにも二相インクルージョン(キャビティの液体中に気体)や三相インクルージョン(キャビティの液体中に固体と気体)として気泡が観察されることがありますが、これらの気泡は丸くてレリーフが低いのに対し、含浸に伴う気泡は扁平であることが多く(写真-5)、レリーフが高いのが特徴です(写真-6)。オイル含浸に見られる気泡は小さくその頻度も低いのですが(写真-7, 8)、樹脂含浸の場合は不自然な形態で大きさもさまざまです。 含浸が完全であればそのフラクチャーは事実上見えなくなりますが、含浸物質が変質(乳化や酸化など)することにより、明瞭な残留物質として観察できるようになります。白色物質は樹脂にも見られますが、オイルが含浸されたフラクチャーに頻度高く観察されます(写真-9)。 また、オイルが含浸されたフラクチャーはしばしば酸化により、明視野で褐色味を帯びて見えることがあり(写真-10)、残留物が樹枝状に観察されることも特徴のひとつです(写真-11)。
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