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◇処理ダイヤモンド
 最近、図-9に示したようなピンクのダイヤモンドを検査する機会を得た。これらのダイヤモンドは、紫外線下でNVセンタに起因する強いオレンジの蛍光を示すほか、拡大下でバンド状の色むらやグラファイトが観察される。検査結果を総合的に判断すると、「Wang, et. al, Gems & Gemolog, Spring 2005, pp 6-19」でも紹介されているような、HPHT処理を行った後照射を施し、アニーリングした多段階処理のダイヤモンドであると考えられる。
 DiamondViewTMを用いてこのようなダイヤモンドを観察したところ、色むらに対応する顕著な明暗のバンドや、H3センタに起因する黄緑色の発光が成長層に沿って分布しているのが観察された(図-10)。従来の照射+アニールを受けたピンクのダイヤモンド(ジェモロジィ1995年4月号参照)は、このようなバンド状の発光強度の明暗は見られず、H3センタの発光はセクターとして見られ、内部に多数のスリップラインが観察される場合がある(図-11)。このように、HPHTと照射を含む多段階処理を受けたダイヤモンドと、従来の照射処理のものでは蛍光パターンに差異が見られ、DiamondViewTMによる観察は処理されたダイヤモンドに対しても有効であることが確認された。

図-9:
多段階プロセスによって処理されたピンクダイヤモンド

図-10:
多段階プロセスによる処理ピンクダイヤモンドのUV-ルミネッセンス像

図-11:
従来の照射+アニールによる処理ピンクダイヤモンドのUV-ルミネッセンス像

◆DiamondViewTMとCL (カソードルミネッセンス)との比較
 ダイヤモンドの成長累帯構造を観察することによってその成長履歴や生成起源などを推定するための有効な手法として、CL(カソードルミネッセンス)法がある。当技術研究室では、合成ダイヤモンドの識別法を確立するために、1990年代前半からCLの研究を継続的に行ってきた。この手法は、電子線を試料に照射して蛍光を見る方法であるが、電子線の影響は表面から数百nm以下で、表面から数ミクロン程度入り込む紫外線に比べてさらに表層付近にとどまるため、より2次元的で鮮明な蛍光像が観察される。図-12に、同じ試料のDiamondViewTMによるUV-ルミネッセンス像と、CL像を並べて示す。基本的には同様のパターンが観察されるが、CL像のほうがセクター境界がはっきりとしており、より詳細な解析を行うことができる。

図-12:
高温高圧合成ダイヤモンドのUV-ルミネッセンス像(a)およびCL像(b)

 しかし、CL法により観察を行うには、ある程度の時間をかけて試料室を真空にする必要がある。一方、DiamondViewTMは真空を必要とせず短時間で観察を行うことができるとともに、サンプルをセットしたまま回転してさまざまな角度から観察することも可能であるため、操作性が非常に優れている。従って、日常のルーチンワークにはDiamondView TMの方が適している。さらに、燐光のイメージをキャプチャーすることができるのも、DiamondViewTMの利点である。DiamondViewTMと、CL像を撮影するのに用いるLuminoscopeの特徴の比較を、表-1に示す。

表-1:
DiamondViewTMとLuminoscopeの比較

◆まとめ
 当研究室では、従来CL法を用いてダイヤモンドの蛍光像を観察し、合成ダイヤモンドの鑑別や生成起源の推定などに役立ててきた。しかし、CVDダイヤモンドが市場にあらわれるなど合成ダイヤモンドの比率が増し、脇石やセットされたジュエリーに用いられている現状においては、より簡便で操作性のよい手法が求められる。今回、最新式のDiamondViewTMを用いて天然、合成および処理ダイヤモンドの観察を行った結果、CL像に匹敵するほどの蛍光像が得られ、これらの判別や、個体識別となるフィンガープリントなどの撮影に十分利用できることがわかった。DiamondViewTMは操作性がよく短時間で観察ができるため、日常のルーチンワークにおける利用価値は非常に高い。
 その一方で、CL法の方が鮮明なイメージを得られるために詳細なセクターの解析には適しており、依然その有効性を失っていない。この両者を目的に応じて使い分け、他の宝石学的手法や分光分析と組み合わせることで、ダイヤモンドの起源をより効率よく正確に判別することができる。(おわり)

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