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平成20年度“宝石学会(日本)"講演会から 2008.10.25
最新のDTC-DiamondViewTMを用いたダイヤモンドの観察
株式会社 全国宝石学協会 技術研究室
川野 潤(理学博士)、阿依アヒマディ(理学博士, FGA)

 全国宝石学協会技術研究室では、2007年12月に最新式のDiamondViewTMを導入し、合成ダイヤモンドの鑑別やダイヤモンドの個体識別となるフィンガープリント などのレポートの発行に利用している。本稿では、最新のDiamondViewTMの特徴とそれを用いた観察例を、平成20年度宝石学会(日本)一般講演における発表内容を中心にご紹介する。


◆DiamondViewTMの原理と特徴
 ダイヤモンドに紫外線を照射すると、原子レベルの欠陥や微量な含有元素の影響で蛍光を発することがあり、その特徴は鑑別上欠かせない情報として利用されてきた。さらに微視的に研磨面を見た場合、欠陥や微量元素の濃度が成長バンドやセクター間でわずかに異なるために蛍光強度に差異が生じ、成長パターンが観察できる。このような成長構造はダイヤモンドの成長履歴を反映するために、天然と合成では明確なパターンの違いがみられ、その判別を行う上で非常に有効な手がかりになり得る。
 DiamondViewTMは、この特徴を利用し、ダイヤモンドの合成と天然を識別することを目的として、1996年にDiamond Trading Company (DTC) により開発された装置であり、ダイヤモンドの研磨面に225 nm以下の波長をもつ強い紫外線を照射することによって、表面付近に励起された蛍光像を観察することができる(C.M. Welbourn, et. al, Gems & Gemology, Fall 1996, pp 156-169)。この蛍光像のパターンは、ダイヤモンドの成長構造に対応する。この装置を用いれば、ルースおよびジュエリーにセットされたダイヤモンドのUV-ルミネッセンス(紫外線蛍光)像を非常に感度よく短時間で観察できる。

図-1:
最新のDiamondViewTMの外観


◆DiamondViewTMの操作性
 2007年末に市場投入された最新式のDiamondViewTMは第3世代にあたり、初代のものに比べると本体が小型化したと共に、サンプルのセッティング方法や紫外線の照射方向が変わっている(図-1)。ルースの状態で観察する場合、キューレットあるいはテーブル面を下にしてホルダーにセッティングし、ポンプで吸引することで固定する(図-2a, b)。これにより、テーブル面の観察も、パビリオン側からの観察もできる。また、リングやペンダントもステージに固定することで観察が可能である(図-2c)。マニュアル上は、観察可能な大きさは0.05 ct 〜 10 ctとされているが、装置の制約上フォーカスを合わせきれないほど小さいルースであったり、ステージに固定しきれないほど大きい製品でない限りは観察できる。ステージはつまみによって回転したり、傾きを変えたり、水平垂直方向の位置を変えたりすることが可能であり(図-2a)、試料の観察方向を容易に変えてあらゆる方向から観察することができる。

図-2:
DiamondViewTMの試料ステージ


 最新式のDiamondViewTMは、このような観察方法を採用することにより、初代のものと比べて観察できる試料の大きさや形状の幅が広がり、ステージの可動範囲も増しているため、操作性が大幅に向上していると思われる。また、紫外線のエネルギー強度も初代のものより高くなっており、イメージの質が向上していると期待される。
 試料室奥にはCCDカメラが装着されており、イメージをパソコンのディスプレイ上に表示して観察する。得られる画像の倍率・画質は一定であるが、フォーカスを調整しやすいように画面上で拡大することが可能になっている。観察には可視モード、蛍光モード、燐光モードが用意されており、照射する紫外線の強度は制御ソフトウェアを用いて自由に調整することができる。また、燐光を発するダイヤモンドを見落とすことがないように、蛍光モードでUV-ルミネッセンス像をキャプチャーしたとき、自動的に燐光像も撮影されるようになっている。

◆DiamondViewTMによるダイヤモンドの観察例
◇天然ダイヤモンド
 天然のダイヤモンドをDiamondViewTMで観察すると、地下深くで形成されて地表まで上昇してくる過程で成長・溶解を繰り返した履歴が、成長バンドとして観察される。図-3に示したのはIa型の無色のダイヤモンドのUV-ルミネッセンス像で、基本的には八面体として成長しながら、何度か溶解を受けている履歴が見てとれる。天然の場合、成長履歴はひとつひとつのダイヤモンド原石ごとに異なるため、蛍光パターンはそれぞれのダイヤモンドに固有のものであり、フィンガープリント(指紋)の役割をはたす。したがって、カットされた2つのダイヤモンドが、お互いに似たUV-ルミネッセンス像を持っていた場合、もともと同じ一つの原石からカットされたことを示している。[このような原理に基づいて、全国宝石学協会では1994年より、2つのダイヤモンドが同一の原石からカットされたことを証明するフィンガープリント・レポートを発行している。]
 また、図-4Ib+IaA型のイエローのダイヤモンドのUV-ルミネッセンス像であるが、このように歪みによる多数のスリップラインが観察されるのも、天然の特徴である。さらにIIb型のダイヤモンドの場合、わずかに含まれるホウ素の影響で燐光を発する。

図-3:
天然無色ダイヤモンド(Ia)のUV-ルミネッセンス像
図-4:
天然イエローダイヤモンド(Ib+IaA)のUV-ルミネッセンス像


◇合成ダイヤモンド
(1)高温高圧法
 高温高圧法で合成されたダイヤモンドは、主として六面体と八面体を組み合わせたような六八面体として成長するため、図-5のような明瞭なセクター構造を示すものが多い。図-5に示したのはIb型のイエローのダイヤモンドで、{100}面で成長したセクターと{111}面で成長したセクターに加えて、他の指数の面で成長したセクターも観察される。また、図-6はII型の合成ダイヤモンドで、六八面体のセクター構造を示すUV-ルミネッセンス像が得られるが、燐光像においても同様のセクター構造が観察される。これは、わずかなホウ素が{111}面に濃集しやすいため、{111}セクターのみが燐光を発していることによる。

図-5:
高温高圧合成イエローダイヤモンド(Ib)のUV-ルミネッセンス像
図-6:
高温高圧合成無色ダイヤモンド(II型)のUV-ルミネッセンス像(a)および燐光像(b)

(2)CVD法
 2008年初め頃から、宝飾用にカットされたCVD(気相成長)合成ダイヤモンドが市場に見られるようになった。この方法では、ダイヤモンドは種結晶上に層状に積み重なって成長するため、DiamondViewTMによる観察でも、層状の構造が見られるのが特徴である(図-7)。さらに図には、キューレット付近に蛍光の色が異なる部分が観察されており、ここが種結晶の部分であると考えられる。そのほか数点のCVDダイヤモンドをDiamondViewTMで観察した結果、蛍光の色や燐光の有無は、製法によって異なるようである(Martineau, et al., Gems & Gemology, Spring 2004, pp 2-24 などに記載例がある)。また、CVDダイヤモンドはジュエリーにセットされたものとして流通する場合も多いと思われるが、そのような場合もDiamondViewTMによる観察は可能であり、その識別に有効なツールとなりうる(図-8)。

図-7:
CVD合成ダイヤモンドのUV-ルミネッセンス像
図-8:
アポロ社製CVD合成ダイヤモンドを用いたペンダント(a)およびUV-ルミネッセンス像(b)

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