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◇標準的な鑑別手法 カバンサイトとペンタゴナイトのカボションカット石はともに青色のガラス光沢を呈し、また多結晶の原石からカットされているため、半透明である。そのため偏光器及び二色鏡を用いた観察では明確な結果が得られなかった。紫外線の蛍光反応およびカラーフィルターの反応は両者ともに不活性で、分光器を用いたスペクトル観察ではともに青色部から緑色部の光を透過し、黄色部から赤色部の領域の光は吸収される。屈折率はスポット法上ではともに1.53〜1.54付近である。以上のことから、一般的な鑑別手法では両者に明確な差は見られない(表-1)。そのためこれらの鉱物が宝飾品用にカットされて結晶の外形が失われている場合は識別が困難である。したがって、分析機器を利用した高度な分析が必要になってくる。ただし、両者は同質異像の関係であることから、蛍光X線分析によって検出される主要な元素はともにCa、V、Siであり、これらの組成とその比率の比較のみでは当然のことながら識別は不可能である。そこで各種の分光光度計で両者のスペクトルを検証してみることにした。
◇近赤外-可視-紫外分光スペクトル 可視領域のスペクトルでは、カバンサイトとペンタゴナイトはともに450-560 nm付近の青色部から緑色部の領域を特に透過し、400nm付近に幅広い吸収が認められる。さらに、可視光の黄色部から赤外領域にかけての広い領域(560-950nm)が吸収される。これらの鉱物はともに4価のVの着色であると思われる。Vに起因するブルーの着色はゾイサイト(タンザナイト)の例があるが、一般的な宝石のブルーの着色原因としては比較的珍しい例である。紫外領域ではカバンサイトは320nm付近を透過するのに対し、ペンタゴナイトにはカバンサイトほどの明確な透過が見られない。近赤外領域では両者はともに1160、1420、1920nm付近に強い吸収が見られ、さらにカバンサイトの場合は2160、2230nm付近に弱い吸収を伴う。これらの吸収は、両者の結晶構造に含まれる水分に由来していると考えられる(図-5)。
◇FT-IRスペクトル 反射スペクトルでは両者は主に1000-1100cm-1付近にSi-Oの結合に由来する伸縮振動のピークが顕著に現れる。この部分スペクトルを精査すると、カバンサイトの場合は1000-1040cm-1付近に幅広いピークが、960、1080、1120cm-1付近の小さなピークを伴って現れるのに対し、ペンタゴナイトの場合は1050cm-1付近の鋭いピークが980、1200cm-1付近の小さなピークを伴って現れる。また、透過スペクトルにおいても1650cm-1および3600cm-1付近に結晶構造中の水分に由来する吸収が見られる。 精査の結果、カバンサイトのスペクトルには3500-3650cm-1の範囲にかけて複数の吸収ピークとして存在していることが分かり、さらに赤外スペクトルでも確認された小さな吸収が4470、4620cm-1付近に確認できる。これに対し、ペンタゴナイトのスペクトルには3600cm-1付近の幅広いピークが確認できるのみである(図-6)。
◇ラマン分光スペクトル ラマン分光スペクトルでは、両者はともに970-980cm-1付近のピークが現れるが、両者のピークの分布にわずかな差が生じる。カバンサイトの場合は最も強いピークは980cm-1付近に現れ、570、670、930、960cm-1付近の小さいピークを伴う。ペンタゴナイトの場合は最も強いピークが970cm-1付近にシフトし、650cm-1付近の小さなピークを伴う。さらに、3600cm-1付近にFT-IR透過スペクトルで確認された水分の吸収がより明瞭に確認できる。カバンサイト場合は3500、3540、3600、3650cm-1付近に複数のピークが明瞭に確認できるのに対し、ペンタゴナイトの場合は、3530cm-1付近に幅広いピークが現れるのみである(図-7)。
■まとめ カバンサイトとペンタゴナイトは原石の外観が酷似しているが、結晶の集合状態や結晶の形態にわずかな差が見られるため、注意深く観察をすれば識別は可能である。また、カットされることによって結晶の外観が失われている場合は一般的な鑑別手法のみでは識別は困難であるが、近赤外‐可視‐紫外分光光度計、FT-IR、ラマン分光光度計を用いて得られた両者のスペクトルにはそれぞれ差が見られるため、カバンサイトとペンタゴナイトの識別は可能であることが分かった。 参考文献 Evans,H.T., Jr. (1973) The crystal structures of cavansite and pentagonite. American Mineralogist, Vol. 58, pp. 412-424. Ishida, N., Kimata, M., Nishida, N., Hatta, T., Shimizu, M. and Akasaka, T. (2009) Polymorphic relation between cavansite and pentagonite: Genetic implications of oxonium in cavansite. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, Vol. 104, pp. 241-252. Powar, K. B. and Byrappa, K. (2001) X-ray, thermal and infrared studies of cavansite form Wagholi western Maharashtra, India. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, Vol. 96, pp. 1-6. Staples, L. W., Evans, H. T., Jr. and Lindsay, J. R. (1973) Cavansite and pentagonite, New dimorphous calcium vanadium silicate minerals from Oregon. American Mineralogist, Vol. 58, pp. 405-411. |
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