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4.標準的な宝石鑑別手法
◇内包物

 天然ダイヤモンドは成長時にマントル鉱物であるパイロープ・ガーネット、クロムダイオプサイド、エンスタタイト、オリビンなどを内包物として取り込むことがある(図-1)。また、方向性を持った針状内包物の存在は天然起源の証となる。これに対してHPHT法合成ダイヤモンドは、しばしば溶媒である金属を内包する(図-2)。特にカラーレスやブルーの合成では窒素ゲッターを使用するため、金属内包物を取り込む可能性が高い。また、HPHT法合成ダイヤモンドには特有のパン屑状内包物やピンポイント状の微小内包物が見られ、起源を知る手がかりとなる。CVD合成法では金属溶媒由来の内包物等は認められず、稀に非ダイヤモンド構造炭素と思われる黒褐色の粒状内包物が見られる(図-3)。

図-1:
天然ダイヤモンドは成長時にマントル鉱物であるパイロープ・ガーネット、クロムダイオプサイド、エンスタタイト、オリビンなどを内包物として取り込むことがある
図-2:
HPHT法合成ダイヤモンドは、しばしば溶媒である金属を内包する
図-3:
CVD合成法では金属溶媒由来の内包物等は認められず、稀に非ダイヤモンド構造炭素と思われる黒褐色の粒状内包物が見られる

◇歪複屈折
 天然ダイヤモンドに観察される歪複屈折は、成長時によるものと塑性変形によるものに大別され、特に後者は天然の鑑別特徴となる。塑性変形による歪み複屈折の典型が、タイプIIのいわゆる“タタミ”構造である。これに対して、HPHT法合成ダイヤモンドはセクター(分域)に沿った歪複屈折が見られる程度である。CVD法合成ダイヤモンドには、結晶の成長方向と平行に伸張した特徴的な筋模様の歪複屈折が観察された。これらは一見“タタミ”風に見えるので注意が必要である。

◇紫外線蛍光
 天然ダイヤモンドは紫外線に対して様々な蛍光色を発することが知られている。最も普遍的なものはN3センタに起因する青白色であり、これは天然ダイヤモンドの特徴となる。タイプIIのカラーレスのHPHT法合成ダイヤモンドでは、短波紫外線下で黄白色の燐光を示し、ピンクではNVセンタによるオレンジ色の発光が観察される。HPHT法合成ダイヤモンドの特徴として、地色に関係なくセクター・ゾーニングに伴う十字状の蛍光むらが観察されることがある。CVD法合成ダイヤモンドの多くはNVセンタによるオレンジ色の発光を示すが、H3による黄色味の蛍光を発するものもある。また、短波紫外線下で黄白色の燐光を示すものもあり、これも鑑別特徴となる。

◇カラー・ゾーニング
 天然ダイヤモンドは、成長時の不純物元素(主に窒素)の取り込み具合の相違によってカラー・ゾーニング(色むら)が形成される。これらは通常八面体面に平行である。また、結晶生成後の塑性変形によってもブラウンやピンクのカラー・ゾーニングが形成される。これらは八面体面に平行で互いに交差しており、天然の鑑別特徴となる。HPHT法合成ダイヤモンドでは、六面体面や八面体面などのセクターごとに不純物元素の取り込み具合が異なるため、通常はセクター・ゾーニングに対応した明瞭なカラー・ゾーニングが認められる。

5.ラボラトリーの技術による鑑別
◇分光分析
 紫外-可視領域の分光分析において、天然と合成の識別の手がかりになるのはN3センタ(415nm)である。N3センタは天然ダイヤモンドのほとんどに見られるが、量産を目的とした合成法では生成しないとされている。一部の合成ダイヤモンドにはNi-Nに関連した欠陥が検出されることがある。
 FT-IR(赤外領域)による分析では、ダイヤモンドのタイプを知ることができる。天然ダイヤモンド中の窒素不純物は、地質学的な時間の経過の中で凝集体を形成する。合成ダイヤモンドでは製法に関わらず、含有する窒素濃度は相対的に低く、窒素も凝集体を形成しない。したがって、BセンタやB2センタなどの存在は天然起源を示唆する。

◇蛍光X線分析
 蛍光X線分析法では、ダイヤモンドの内包物の組成分析が鑑別の有効な手がかりとなる。蛍光X線分析法は分析対象物の表面しか測定できないため、内包物が研磨面に達していることが必要である。合成ダイヤモンドは、しばしば金属溶媒に用いられた金属内包物が研磨面に達している。このようなケースではFe、Ni、Coなどが検出され、合成起源であることが明らかとなる。

◇CL(カソード・ルミネッセンス)分析
 天然ダイヤモンドのCL像には種々のものがあり、個体識別にさえ応用できる(図-4)。HPHT法合成ダイヤモンドはセクター・ゾーニングが明瞭で、成長温度によって晶相が異なることが知られている(図-5)。すなわち合成温度が高いほど六面体から八面体に変化していく。CVD法合成ダイヤモンドは、特有の積層成長に由来する湾曲した線状模様が特徴的である(図-6)。

図-4:
天然ダイヤモンドのCL像には種々のものがあり、個体識別にさえ応用できる
図-5:
HPHT法合成ダイヤモンドはセクター・ゾーニングが明瞭で、成長温度によって晶相が異なることが知られている
図-6:
CVD法合成ダイヤモンドは、特有の積層成長に由来する湾曲した線状模様が特徴的である

◇PL(フォト・ルミネッセンス)分析
 天然ダイヤモンドには、塑性変形や点欠陥に由来すると考えられるピークが検出されることが多く、HPHT法合成ダイヤモンドにはNiなどの金属溶媒に関連すると考えられるピークが検出されることがある。CVD法合成ダイヤモンドにはNVセンタ637nm,575nm、H3センタ503nmが普遍的に検出される。さらに、ほとんどのものに737nmのピークが検出され、CVD法合成ダイヤモンドの鑑別特徴となる。

6.まとめ
 HPHT法およびCVD合成法による各色の合成ダイヤモンドが宝石市場に流通している。これらを識別するためには天然と合成の生い立ちの違いを理解し、その違いによる結晶形態や内部構造の特徴を検知することが重要である。これらの理解を基礎として標準的な鑑別手法にラボラトリーの技術を組み合わせることで、合成ダイヤモンドの看破が可能となる。

ジェモロジィ誌関連情報
「ダイヤモンド合成技術の最先端 Vol.1:大阪大学工学研究科伊藤研究室から」2009年8月号
「ダイヤモンド合成技術の最先端 Vol.2:大阪大学伊藤研究室で合成されたCVDダイヤモンドの分析」2009年10月号
「最新のDTC-DiamondViewTMを用いたダイヤモンドの観察」2008年10月号
「合成ダイヤモンド鑑別の現状(1)」2007年9月号
「合成ダイヤモンド鑑別の現状(2)」2007年10月号
「CVD合成ダイヤモンドの鑑別(1)」2005年3月号
「CVD合成ダイヤモンドの鑑別(2)」2005年4月号
「“センター・クロス"ダイヤモンドの観察〜天然と合成の識別」2005年5月号


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