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◇赤外分光分析 典型的なモザンビーク産ルビーの赤外分光スペクトルには、図−9に示すような3081 cm-1と3309 cm-1の吸収がペアになったブロードな吸収バンドが現れる。前者は、フラクチャー中に存在するゲーサイトに起因する可能性があり、高温で加熱されたルビーにはこのような吸収バンドは現れない。顕著な3161cm-1の吸収ピークがタンザニア Winza産のルビーの赤外吸収スペクトルに特徴的に現れるように、このようなペアになった赤外吸収スペクトルは非加熱のモザンビーク産ルビーの識別に役立つと思われる。さらに、ダイアスポアに起因すると考えられる2074と1980 cm-1の弱い吸収が付随する場合もある。
また、モザンビーク産ルビーの中には3309 cm-1にOH基(水酸基)に起因する弱い吸収ピークを示すだけのものや、そのピークも現れないもの、さらにSi4+ (ケイ素イオン)またはMg2+(マグネシウムイオン)とOH基との結合振動によるものと考えられている3161cm-1の吸収が弱く現れるものもある。 ◇蛍光X線組成分析 蛍光X線分析により化学組成を分析した結果、主元素であるAl2O3のほか、酸化物として0.3〜0.8 wt%程度のCr (クロム)と0.2〜0.5 wt%程度のFe (鉄)が検出された。このようなFeの含有量は、ミャンマー産やマダガスカル産などの非玄武岩起源のものよりも高く、タイ産のような玄武岩起源のものよりは低い。さらに、ごく微量のTi (チタン)あるいはGa (ガリウム)が検出される他、V (バナジウム)は検出下限以下のものが多い。これらの特徴はタンザニアWinza産のルビーに類似しているが、鑑別のルーティンで遭遇するWinza産のルビーの大多数がTiをほとんど含有しないのに対し、モザンビーク産のルビーはわずかにTiを含有する(酸化物にして0.008wt%程度以上)傾向が認められる。 |
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■加熱処理 モザンビーク産のルビーは、ほとんどのものが色調の改善および向上を目的に加熱が行われている。この際、加熱の効果を高めるために多種の触媒(ボラックスなど)が用いられているようで、最近見かけるものにはこれらの残留物が顕著に見られる。ルビーに隙間(フィシャーおよびフラクチャー)、割れ目(クラック)や空洞(キャビティ)などが存在した場合、加熱時の触媒が浸入し残留する。石の内部に浸入し残留したものは“透明物質”(図-10)、研磨面の空洞に残留したものは“充填物”と呼ばれている(図-11)。後者はHF(フッ化水素)などの強い酸で除去することが可能だが、前者は不可能である。これらの残留物質について、LMHC(ラボマニュアル調整委員会)などの国際ラボではその程度を「Minor(少量)」、「Moderate (中量)」、「Significant(多量)」と表記するが、日本国内ではこのような程度の表記は行われていない。充填物については、確認されればその旨が表記されるが、透明物質では海外宝石ラボのSignificant(多量)程度であれば記載されているのが現状である。
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■まとめ 2008年〜2009年の初めに新しく発見されたモザンビーク産ルビーは、宝石品質で1ct以上の大粒のものがある。多くのものが加熱されている中、非加熱のものも市場に流通しており、ルビーの新しい供給源として期待されている。地理的地域が近接していることもあり、タンザニアのWinza産ルビーと共通した宝石学的特徴を有している。それでも、特有のシルク様の針状インクルージョンの存在や、赤外分光分析における3081 cm-1と3309 cm-1がペアになったブロードな吸収バンドは、モザンビーク産を暗示する特徴といえる。 引用文献
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