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◆カラーグレードの信頼性
 今回測定を行った約14,000個のうち、当ラボにおいてDカラーにグレードされたラウンド・ブリリアントのダイヤモンドは1,649個、Eカラーは1.656個、Fカラーは2,364個、Gカラーは2,220個、Hカラーは1,525個であり、それより低いカラーグレードのものはそれぞれ1,000ピース以下であった(表-1)。今回は、1,000ピース以上のサンプル数があるHカラー以上のグレード結果となったものを、統計処理をするのに十分な数であるとみなして解析を行った。ただし、今回解析に用いたダイヤモンドは、すべてI型であることが確認されている。
 日常のルーティンでグレーディングを行ったダイヤモンドで最も一般的なものは、1 ct未満でカットがGood以上のラウンド・ブリリアントであり、今回の統計では全体の75%を占める。このうち、最も理想的な測定が可能であると期待できるケープ系の色相(カラーグレードのルーティンにおいてケープ系と判断されたもの)で、蛍光をもたない(ルーティンにおいて蛍光なしと判断されたもの)ダイヤモンド4,268個について、Colibri™で測定してその信頼性を検討した。その中で、当社においてDカラーにグレードされたものは748個(Dカラーにグレードされたもの全体に対して約45%)、Eカラーは756個(同45%)、Fカラーは1,164個(同49%)、Gカラーは1,006個(同45%)、Hカラーは594個(同39%)であった(表-1)。
 測定は、当社においてカラーグレードを行ったダイヤモンドのうち、同一のカラーにグレードされたものごとに行い、測定値を0.5刻みでヒストグラムに表した(図-6)。ヒストグラムとは頻度分布のことを言い、ある範囲の値をもつサンプルの数をグラフで表したものである。図中、横軸はColibri™で測定した数値、縦軸はその範囲の数値を示したサンプルの数である。当ラボでFカラーにグレードされたものを例にとると、総数1,164個のうち、Colibri™の測定値が3.01~3.50のものが367個、3.51~4.00までのものが337個あったことを表し、計704個がプログラミングされたGIAのカラーグレードでF(3.01~4.00の測定値)と測定されたことを示している。
 図に示されたように、今回当ラボで同じカラーにグレードされたダイヤモンドの結果の分布は、ひとつのピークをもつなだらかな曲線となる。それぞれの分布の山のピークはプログラミングされたGIAシステムで表記したカラーの数値範囲の中にあり、測定したもののうち55~70%がこの範囲に含まれている。Colibri™の誤差を±1/2グレードと見積もり、有効な測定値の幅を本来のものより±1/2広げると、測定したダイヤモンドのうち80~90%以上がこの範囲に入る。例えば、Fカラーにグレードされたダイヤモンド(総数1,164個)では、約60%(704個)が3.01~4.00の値の範囲に入り、約90%(1,047個)が2.51~4.50の範囲の値を示す。本質的にそれぞれのカラーは幅をもったものであり、天然のダイヤモンドの場合、完全なケープ系ではなくわずかに他の色味を含んでいる可能性が高いことなどを考えると、この結果は十分に実用的な精度であると評価できる。

表-1:
Colibri™にて測定を行ったラウンド・ブリリアントのダイヤモンドの数
  青色の背景はColibri™が有効に使用可能なもの
  黄色の背景はColibri™の測定値に補正をすれば使用できるもの
  赤色の背景はColibri™の測定値が補正可能な範囲を超えるもの
  * サンプル数が少ないため、解析には使用していない

図-6:
1 ct 未満・Excellent~Good・ケープ系・蛍光なしのダイヤモンドの測定結果。当ラボでD~HにカラーグレードされたダイヤモンドをColibri™で測定した場合、どのような数値を示すかを表している。横軸はColibri™で測定される数値、縦軸はその範囲の結果をもつものの個数を示す。背景はColibri™ で測定した際に示されるGIAシステムの表記で色分けしてある。

◆測定するダイヤモンドの特性による差異
 ダイヤモンドのカラーを測定する場合、その大きさやカットの違いによって光の通り方が変わるはずであり、測定結果に影響を与える可能性がある。また、Colibri™は、ケープ系のダイヤモンドに特化したものであるとされており、測定するダイヤモンドの色相や蛍光の違いが測定値に影響を及ぼすことが予想される。ここでは、実際に重量やカットグレード、色相あるいは蛍光が異なる場合、結果にどのような差異が現れるかを調べた。

①重量
 Colibri™は、大きさによらず測定できるとされている。前項では1 ct未満のものを一括して扱ったが、ここでは0.25 ctより小さいもの、0.25 ct以上0.50 ct 未満のもの、0.50 ct以上0.75 ct未満のもの、0.75 ct以上1.00未満のものに分けてヒストグラムを作成し、重量の違いによってどのように結果に差異が現れるかを確認した。さらにケープ系で蛍光を持たない1 ct以上のダイヤモンドも同様に測定し、ヒストグラムを作成した。 その結果、1 ct未満のダイヤモンドに関しては、重量によって差異は見られなかった(図-7)。一方、1 ct以上のダイヤモンドの場合、EカラーやFカラーではほぼ1 ct 未満の場合と同様の傾向を示すが、GカラーやHカラーのものは、現在までのデータではわずかに(0.5程度)小さい値を示す傾向にある(よいグレードを示す)。ただし、Colibri™の誤差を±1/2とした場合、このずれは誤差の範囲内ととらえることもできるかもしれない。

図-7:
ダイヤモンドの重量の違いによる測定結果の差異。当ラボでD~Hカラーにグレーディングされたダイヤモンドのうち、Excellent~Good・ケープ系・蛍光なしのものを、重量の差異でわけて測定した結果。ただし、0.75 ct 以上1.00 ct未満のものは、どのカラーグレードにおいても数が少なくなる(10個未満)ため、省略してある。

②カットグレード
 ラウンド・ブリリアントのダイヤモンドについて、前項では一括で扱ったGood以上のカットグレードをもつものを、カットグレード別に分けてヒストグラムをまとめた結果、カットグレードがExcellentからGoodのものまで、ほとんど結果に差異は見られなかった(図-8)。カットがFairにグレードされるものの中にはこのような傾向がくずれるものがあるが、グレーディングに持ち込まれることが少ない(約1%程度)ことを考えると、ラウンド・ブリリアントのダイヤモンドに関しては、Colibri™の使用価値は高いと考えられる。

図-8:
ラウンド・ブリリアントのダイヤモンドのカットグレードの違いによる測定結果の差異。当ラボでD~Hカラーにグレーディングされたダイヤモンドのうち、1 ct未満・ケープ系・蛍光なしのものを、カットグレードの差異でわけて測定した結果。

③色相
  カットグレードがGood以上・1 ct未満のラウンド・ブリリアントで、蛍光をもたないが、色相が通常のケープ系ではないダイヤモンドについて測定し、同様のヒストグラムを作成した。測定したのは、グレーダーによりブラウンを含む色相であると判断されたダイヤモンド(Fカラーにグレードされたもの16個、G:44個、H:55個)およびグレーを含む色相をもつダイヤモンド(F:14個、G:15個、H:12個)である(表-1)。ただしこのような色相をもつダイヤモンドで、DやEカラーにグレードされるものは10個未満であったので、今回の考察対象からは除外している。
 測定の結果、ブラウンを含む色相をもつダイヤモンドは、ケープ系の色相のものと比べてよいグレードを示す傾向が見られた(図-9)。この結果は、Colibri™はそのダイヤモンドがもつ色味のうち、主にケープの色の濃さを検知しているためであると解釈できる。得られたヒストグラムを詳細に見ると、F以下のカラーグレードの場合、ピークの山の位置が1.5~2だけ数値の小さい側にずれている。そのため、ブラウニッシュ系のカラーをもつダイヤモンドの場合、Colibri™の測定値に1.5~2加えて補正をしたものが、本来の値に近い数値であると推定できる。また、グレーイッシュ系の色相をもつダイヤモンドも同様に、Colibri™による測定値は当ラボにおけるカラーグレードから期待されるよりも1.5~2だけ小さい値となる傾向を示す結果となった。

図-9:
色相によるColibri測定値の変化 (左)ケープ系 (右)ブラウニッシュ系。当ラボでF~Hカラーにグレーディングされたダイヤモンドのうち、1 ct 未満・Excellent~Good・蛍光なしのものを、色相でわけて測定した結果。

④蛍光
 カットがGood以上・1 ct未満のケープ系の色相をもつラウンド・ブリリアントで、紫外線蛍光を発するダイヤモンドについて測定し、同様のヒストグラムを得た。ただしここで言う紫外線蛍光の強さは、Colibri™で検知したものではなく、グレーダーにより判断されたものである。測定および解析に用いたダイヤモンドの数を、表-1に示す。この結果、Faint BlueおよびMedium Blueの蛍光を示すものに関しては蛍光なしのものとほぼ同等であった。ただし、当ラボにおいて良いカラーにグレードされたダイヤモンドほど蛍光の影響を受けやすい傾向にある。特にEカラーにグレードされたダイヤモンドの場合、Faint Blue やMedium Blue の蛍光をもつものは、本来の2.0~3.0の位置のほかに1.5付近の値をもつものが多くなる結果となった(図-10)。さらに、Strong Blueの蛍光を示すものに関しては、すべてのカラーグレードのダイヤモンドのヒストグラムの山が、著しく数値の小さい側に寄ることが確認された。この場合、カラーグレードによらず1.5を示すものが多くなるため、補正により適正な値を推定することも不可能である。ただし、Colibri™では1.5より小さい値はないため、当ラボでDカラーにグレードされたダイヤモンドについては、蛍光の影響を受けて値が小さい側にシフトしても、プログラミングされたGIAのカラーグレードでDカラーの数値範囲にヒストグラムの山の中心がくることに変わりはない。
 また、Faint yellowの蛍光を示すものは、当ラボでE~Hカラーにグレードされたものの場合、ラボでのグレーディングの結果と比べて1~1.5小さい値を示す傾向があることが明らかになった。すなわち、実際よりもよいグレード結果となるため、Colibri™での測定値に1~1.5加える補正をすることにより、本来の値に近い数値が得られると考えられる。ただしこの場合もStrong Blueの蛍光をもつものと同様、当ラボでDカラーにグレードされたダイヤモンドに関しては、Colibri™の測定においても、プログラミングされたGIAのカラーグレードでDカラーの数値範囲にヒストグラムの山の中心がくる。

図-10:
蛍光の差異によるColibri測定値の変化。当ラボでD~Hカラーにグレーディングされたダイヤモンドのうち、1 ct 未満・Excellent~Good・ケープ系の色相をもつものを、蛍光の差異でわけて測定した結果。

◆まとめ
 以上の結果から、Colibri™は、ダイヤモンドのカラーに関して再現性のある測定が可能であることが確認された。さらに、約14,000ピースのダイヤモンドをColibri™により測定した結果、① 1 ct 未満で②カットがGood以上のラウンド・ブリリアントで、③ケープ系の色相をもち、④蛍光をもたないか、Medium Blueまでの弱い蛍光をもつものに関しては、有効な測定が期待できる。特に蛍光をもたないものに関しては、誤差±1/2の範囲に80%以上が含まれ、より精度のよい測定が可能である。今回解析した約14,000ピースのダイヤモンドのうち、上記の条件①~④を満たすものは約70%に達する。このことから、Colibri™による測定値は、カラーグレーディングの際のひとつの客観的な目安となりうると考えられる。
 さらに通常のケープ系の色相をもつもの以外でも、ブラウンやグレー味を含む色相をもつものは、Colibri™の測定値に1.5~2.0加えて補正することで、カラーグレードを推定できる可能性がある。Strong Blueの蛍光をもつダイヤモンドに関しては、測定値が補正可能な限度を超えて著しく小さい値を示すためColibri™は使用できないが、全体的にColibri™が有効に使用できる範囲は非常に広いといえる。ただし、同じカラーグレードを示すダイヤモンドでも測定値が示す範囲に幅があることから、測定にあたっては上に述べたようなColibri™の特性を十分に把握した上で適正に使用する必要がある。当ラボでは、今後も継続的にデータを蓄積し、ラウンド以外のカット形状をもつものや、1 ct以上のもの、あるいはカラーグレードの低いものなどを含めた多様なダイヤモンドにも対応できるよう、より正確なColibri™の特性を調査していく予定である。

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