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今月の鑑別室から 2009.08.10
Sarin社製ダイヤモンド・カラーグレーディング装置「Colibri™」 の実用性
(株)?全国宝石学協会 技術研究室:川野 潤(理学博士)
ダイヤモンド・グレーディング部 西京 邦浩 (FGA, GIA. G.G., CGJ)

 Sarin社が開発した「Colibri™」は、ケープ系のダイヤモンドのカラーグレードを自動的に測定できる装置である。GAAJ-ZENHOKYO Laboratoryでは、通常のルーティンでグレーディングされた約14,000ピースのダイヤモンドを、Colibri™を用いて測定を行い、その特性と実用性を検証した。その結果、大部分のケープ系のダイヤモンドに関して、適切に使用した場合、客観的なカラーグレードの目安として十分に使用可能であることが確認された。以下に詳細を報告する。

◆はじめに
 ダイヤモンドのカラーグレーディングには、カラーをD-Zで表記するGIAのグレーディングシステムが広く用いられている。ここでのカラーグレーディングは、熟練したグレーダーがマスターストーンとテストストーンのカラーを比較することにより行われるが、再現性のよい結果を得るためにはグレーディング環境を厳密に整えることが必要であり、最新のGems & Gemology でも詳細な記述がなされている(Gems & Gemology, 2008 winter)。日本国内では、1996年からJJA/AGLにより認定マスターストーン制度が導入され、AGL加盟宝石検査機関は認定マスターセットを用いたカラーグレーディングを行っている。
 一方、客観的な結果を得る一つの方法として、装置による自動的なグレーディングの可能性がGIAなど先端的なラボにおいて検討されてきた。色を測る一般的な装置は測色計(カラリメーター)と呼ばれるものであるが、このタイプはすべての色範囲を測定できる一方で、ダイヤモンドのような透明の素材の場合、測定の再現性に問題があるとされている。当ラボにおいても、①カルニュー光学社製ジェムカラーIIおよび②浜松ホトニクス社製マルチ分光測色計C-5940を用い、装置による自動的なカラーグレーディングの試みを行ってきたが、再現性と実用性の点で、ルーティンワークの使用には適さなかった。
 ダイヤモンドのカットグレーディング装置DiaMension™など、ダイヤモンドに関する多くの測定装置を開発および製造・販売しているSarin社は、カラーグレーディング装置の開発にも注力しており、2006年には新たな自動ダイヤモンド・カラーグレーディング装置「Colibri™」を発表し、販売を始めた。イスラエルZENHOKYOでは、初代機の開発当初から実用性の検証を行い、継続的に Sarin社にその検証情報を提供してきた。その結果、「Colibri™」は数回にわたってバージョンアップが行われ、実用性が高まったと期待されるため、今回日本のGAAJ-ZENHOKYO laboratoryにおいても2008年製の装置を入手し、さらなる詳細な分析を行った。
 Colibri™は、ケープ系の色相をもつ、Ia型のカットされたダイヤモンドのカラーグレーディングに特化しており、新たな測定システムを導入することにより精度や再現性が向上しているとうたっている。GAAJ-ZENHOKYO Laboratoryで通常カラーグレーディングを行っているダイヤモンドのうち、約90%がケープ系の色相をもつ。そのため、Colibri™の特性を把握できれば、通常のグレーディングの際の目安として活用できる可能性がある。
 今回、ルーティンワークでカラーグレーディングを行ったダイヤモンドのうち無作為に選別した約14,000ピースに関して、Sarin社によって調整された3台のColibri™で測定を行い、その特性と有効性を検討した。測定にあたっては、ラウンド・ブリリアントにカットされたダイヤモンドを対象とした。予備的な測定によると、ラウンド・ブリリアント以外のカット形状のダイヤモンドの中には、光の通り方の差異により、異なる傾向を示すものがある可能性が認められたが、サンプル数がまだ少ないために明確な傾向は得られていない。そのため、より正確な傾向を把握するためにはさらに多くの測定を行うことが必要である。

図-1:
Colibri™の外観

◆Colibri™の概要
 Colibri™の外観を図-1に示す。本機はラボでの使用に耐えうる性能をもつだけでなく、小売店におけるセールスツールとしての利用も期待されている。そのため重量は1.2 kgと小型で、設置のためのスペースも狭くすみ、持ち運びも容易である。電源は家庭用100V電源のほか、連続10時間作動する充電可能なバッテリーも使用できる。さらに操作はタッチパネルに触れることにより行うため非常に操作性がよい。
 試料はルースおよびマウントされたダイヤモンドの両方に対応しており、0.2 から 270 カラットまで測定できる。上部の蓋を開けた部分が試料室であり、中央の小円の窓上にテーブル面を下にしてダイヤモンドを置き、測定を行う(図-2)。測定時には、周囲にある6つの発光窓から発光した光が上蓋裏のドームで乱反射されて測定するダイヤモンドの位置に集まり、パビリオンから入ってテーブル面から抜けた光を受光するようになっている。さらに可視光と紫外光を交互に照射することで、カラーと同時に紫外線蛍光の強さも測定できる。
 本機によるカラーグレーディングにはマスターストーンを必要とせず、試料室に何も置かない場合との比較によってグレーディングを行っている。測定結果は、1.50~12.50程度までの数値(0.01刻み・小数点2桁目まで)と、それに対応するプログラミングされた複数のグレーディングシステム(GIA, AGS, HRDなど)の表記によって表される。GIAシステムによるDからZのグレーディング表記を選んだ場合、大まかに言うと1.5から2以下のものがDカラー、2より大きく3以下のものがEカラー、3より大きく4以下のものがFカラーに対応し、以下数値が1.00ずつ大きくなるにつれ、G~Oカラーとなる。すなわち値が小さいほど、よいグレードであることを意味している。実際の測定結果の表記は、同じグレード内でも数値の小さいものは+(プラス)、大きいものは-(マイナス)を付加して表記され、2つのグレードのボーダー付近は両方のグレードが併記される。例えば、1.88~2.12が"DE"、2.23~2.37が"E+"、2.38~2.62が"E"、2.63~2.87が"E-"、2.87~3.12が"EF"となる(図-3)。今回は、より明確にするため各カラーグレードの範囲を1.00刻みに取って解析した。測定に要する時間は5秒以下と非常に短時間であり、ダイヤモンドのセッティング時間を含めても1個あたり15秒程度ですむため、ルーティンワークにも適していると言える。

図-2:
試料室の様子。(左)上蓋をあけてダイヤモンドをセットしたところ。(右)外周の6個の窓から発光し、中央の小窓上に置いたダイヤモンドを通った光を測定する。

図-3a:
(左)測定結果の表示画面。(右)測定値とプログラミングされたGIAのグレード

◆測定の再現性
 測定の再現性を確認するため、以下の要領で測定を行った。
① 同一のサンプルを装置にセットしたまま複数回測定した場合。
 この場合、値は全く同じであることが確認された。
② 同一のサンプルを、測定ごとに装置から取り外し、朝、昼、夕などと異なる時刻に複数回測定した場合。
 D~Jカラーの12個のダイヤモンドを6回ずつ測定した結果、平均値からのずれは数値にして±0.4の範囲に収まった(図-4)。Sarin社の発表によるとColibri™の誤差は±1/2グレードとされているが、今回の測定結果はそれとほぼ同等である。
③ 同一のサンプルを、異なるColibri™で測定した場合。
 ②で測定したのと同じ12個の石を3台の別々の装置で測定すると、測定結果はほとんど変わらず、装置による誤差はほとんどないと言ってもよい。
④ 同一のサンプルを測定窓上で少しずつずらしながら測定した場合。
 同一のサンプルの測定位置を、中央からわずかにずらしたのみではほとんど結果は変わらないが、ある一定のずれ幅を超えると急激に測定値は減少した(図-5)。この結果は、テーブル面が測定窓全体を覆っている限り再現性のある測定値が得られるが、そうでない場合は実際よりも小さい値が出ると解釈できる。このため、特に小さい石の場合、テーブル面が測定窓全体を覆うように十分注意してセッティングする必要がある。
 
図-4:
同一のダイヤモンドを複数回測定した際の結果。測定した12個のサンプルのうち、2個の例を示す。サンプル1および2を、3台のColibri™にて6回ずつ測定した。

図-5:
ダイヤモンドを置く位置による測定値のずれ。黄色の背景で示されたような、中央付近に置いた場合はほぼ一定の値を示すが、それ以上にずれた場合は値が急激に減少する。

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