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今月の鑑別室から 2009.07.03
X線CTで見る真珠の内部構造
(株)?全国宝石学協会 技術研究室:川野 潤(理学博士)

 X線CT装置は、X線透視画像をさまざまな角度から撮影し、それらをコンピューターにより再構築することで、物質の3次元的な内部構造を知ることのできる装置である。当ラボでは、X線CTによりさまざまな真珠の内部構造を撮影する試みを行った結果、非常に鮮明な3次元像を得ることができた。以下に詳細を報告する。

[はじめに]
 有核・無核の判別など、真珠の内部構造を調べるには、透視X線検査(レントゲン検査)が一般に行われてきた。この検査は非常に簡便で有効な検査であるが、得られるイメージは3次元的な構造を2次元平面に投影したものであるため、情報は限られてくる。それに対してX線CT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)装置は、さまざまな角度から撮影した多数のX線透視画像をコンピューターによりソフト的に計算して再構築することにより、3次元的な内部構造をそのままイメージとして得ることができる。そのためこの手法を用いれば、従来のX線透視検査では判別困難な内部構造をとらえることができる可能性がある。
 最近、The Journal of Gemmologyに養殖真珠の内部構造をX線CTで撮影した論文が発表された (Wehrmeister et al., The Journal of Gemmology, 2008, Vol. 31, No.1/2, pp. 15-21)。掲載されたイメージは非常に高精細な3次元像であるが、撮影には10時間以上要したと記載されており、ここで用いられている装置はラボでのルーティンワークで使用するには適さない。筆者の知る限り、日本国内の宝石検査ラボで真珠のX線CT撮影を行った報告例はないが、当ラボでは、市販されている汎用的なX線CT装置を用いて標準的な条件でさまざまな真珠のCT撮影を行い、その内部構造を観察した。今回撮影に用いたのは、東芝ITコントロールシステム社製マイクロCTスキャン装置TOSCANER -30900μC3(図-1)である。


図-1:
東芝ITコントロールシステム社製マイクロCTスキャン装置TOSCANER -30900μC3

[X線CTの原理]
 X線CTと聞いて一般になじみがあるのは、医療用に用いられる大型の装置であろう。この場合、X線カメラが被験者である人間の周りを回転する構造になっているが、今回用いたような工業用のX線CT装置の場合は、図-2に示す通り、X線の入射方向と垂直な方向を軸に、試料をごくわずかずつ回転させながらX線写真をデジタル撮影し、一周360度分のX線透視画像を収集する(通常数100枚程度)。その後、収集した画像をコンピューターで再構築計算することにより、図-3bに見られるような、断層写真が得られる。さらに専用のソフトを用いれば、3次元的なイメージやムービーデータに変換することもできる(図-3c)。通常用いられる設定の場合、真珠1個のデータを収集するのに10分程度かかり、コンピューターで画像を再構築計算するのにさらに10分程度必要である。
 また、今回使用した東芝ITコントロールシステム社製マイクロCTスキャン装置TOSCANERシリーズの場合、マイクロフォーカスタイプのX線源を採用しているために空間分解能は約5μmと非常に高く、カメラの位置を前後することで幾何学的に像を拡大縮小することも可能である。


図-2:
工業用のX線CT装置を用いた断層画像撮影の原理(東芝ITコントロールシステム社カタログより)

図-3a:
X線CT撮影サンプル/無核淡水養殖真珠(7.621 ct)
図-3b:
図-3a〈無核淡水養殖真珠〉の断層写真
図-3c:
図-3a〈無核淡水養殖真珠〉の3次元イメージ写真


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