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◆照射処理による色の改変についての検証
 今回は、実際に当社に持ち込まれた淡青緑色のアンブリゴナイトのファセット石と、ブラジルおよびタイで人為的に照射されたとされる彩度の高い緑色のアンブリゴナイトのカット石について検証を行った。
 これらの宝石を分光光度計にて紫外-可視領域の透過スペクトルを測定したところ、いずれの石においても概ね360nm付近に吸収端がみられ、580nm付近に弱い吸収バンドがみられる。チェルシー・カラー・フィルターにおいては、いずれも赤色の反応を示した。
 並行して、淡黄色のアンブリゴナイトの原石(図-3左)を2回に渡って照射処理を施し、それに伴う色の変化についての検証を行った。淡黄色の原石はブラジル産のもので、1回目は吸収線量100kGy、2回目は150kGyのコバルト60を線源とするγ線を各24時間ずつ照射し、各実験が完了したたびに色相および可視スペクトルの検証および比較を行った。
 淡黄色の原石の場合は、照射処理を施すにつれて緑色に改変し(図-3右:マンセル色相10Y8.5/3→5GY8.5/3→7.5GY8.5/3)、チェルシー・カラー・フィルターにおいても、処理を進めるにつれて徐々に赤色の反応が顕著に現れた。分光光度計による可視スペクトルでは、処理前には存在しなかった580nm付近を中心とした幅広い吸収が顕著になり、短波長側の吸収端の位置も徐々に長波長側(約360nm)にシフトするのが明らかになった(図-6)。ただし紫外線下での蛍光反応は処理前後ともに不活性であり、処理による変化は見られなかった。

図-3:
アンブリゴナイトの原石。左/照射処理前、右/照射処理後

図-6:
照射処理に伴うアンブリゴナイトの可視光スペクトルの変化

◆検証
 アンブリゴナイトの屈折率は、結晶構造中のOH(水酸基)がF(フッ素)原子に置換されるたびに著しく低下する(表-1)。端成分のアンブリゴナイトの屈折率はおよそ1.58-1.61、モンテブラサイトの屈折率はおよそ1.60-1.63となる。(Greiner et al.,1987)今回のサンプルの屈折率はおおよそ1.605-1.630の範囲内にあることから、これらは鉱物学的にはすべてモンテブラサイトに相当すると考えられる。
 またラマン分光スペクトルによる検証においても従来の研究(Rondeau et al., 2002 etc.)と同様の結果が得られたことから、FT-IR反射スペクトルならびにラマン分光スペクトルの検証にて鉱物学的にアンブリゴナイトとモンテブラサイトの区別は可能である。
 また、着色要因が天然であるか人為的であるかについての検証を行うべく、照射処理の施されていない天然による緑色のアンブリゴナイトが存在するかを調査する予定である。
表-1:
アンブリゴナイトとモンテブラサイトの特性比較

◆まとめ
 今回の検証で用いられたファセット石のアンブリゴナイトは、屈折率の測定の結果、いずれもモンテブラサイトに相当すると考えられる。このことから、市場にて「アンブリゴナイト」という名称で取り扱われている宝石のほとんどは、鉱物学的にモンテブラサイトに属する可能性が高い。また、FT-IRならびにラマン分光分析によって鉱物学的にアンブリゴナイトとモンテブラサイトの区別は可能である。
 照射実験による検証においては、γ線による照射処理によってアンブリゴナイトの色が淡黄色から緑色に変化することが可能であり、このことから、緑色から青緑色のアンブリゴナイトの中には人為的に照射されている可能性があることを念頭におくべきであることが分かった。
参考文献
Greiner,D.J. and Bloss,F.D. (1987)Amblygonite-montebrasite optics: Response to (OH-)orientation and rapid estimation of F from 2V.American Mineralogist,72,617-624.
Groat,L.A.,Raudsepp,M.,Hawthorne,F.C.,Ercit,T.S.,Sherriff,B.L.and Hartman,J.S. (1990)The amblybonite-montebrasite series: Characterization by single-crystal structure refinement, infrared spectroscopy, and multinuclear MAS-NMR spectroscopy.American Mineralogist,75,992-1008.
Koivula,J.I. and Misiorowski, E. (1986)Amblygonite treatment.(from Gem News)Gems & Gemology,22(4),246.
Rondeau,B.,Fritsch,E.,Lefevre,P.,Guiraud,M.,Fransolet,A. and Lulzak,Y.(2006)A Raman
investigation of the Amblygonite-montebrasite siries, The Canadian Mineralogist,44,1109-1117.
Williams,B.(2009)The Bear Facts.(from Hands-on Gemmology)Gems & Jewellery,18(1)8-9.


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