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今月の鑑別室から 2009.05.31
天然アンブリゴナイト
株式会社全国宝石学協会 技術研究室
小林泰介(FGA、GIA.GG)、阿依アヒマディ(理学博士、FGA)、北脇裕士(FGA、CGJ)

 最近、淡青緑色のアンブリゴナイトを使ったジュエリーが販売されるようになり、注目されている。これらの宝石には照射処理が施されているという情報もあり、その詳細を確かめるべく、照射処理実験による色の変化についての検証を行った。以下にアンブリゴナイトの宝石学的特性と宝石業界におけるその現状について報告する。

 アンブリゴナイトは、おもにリチウムを含有するペグマタイトに産出される燐酸塩鉱物グループの一つであり、一般的に無色から黄色を呈する。アンブリゴナイト・グループに属する鉱物の代表としてアンブリゴナイト(Amblygonite LiAl(PO4)F 和名:アンブリゴ石)とモンテブラサイト(Montebrasite LiAl(PO4)(OH)和名:モンブラ石、またはモンテブラ石)があり、これらは結晶構造中のF(フッ素)原子とOH(水酸基)が置換しあうことにより、連続固溶体を形成する。
 最近、「ミント・カラー」と銘打った淡い青緑色のアンブリゴナイトを使ったジュエリーが売り出されるようになってきたことにより、徐々に注目されてきた。これらの宝石は当初より“ナチュラル・カラー"とされてきたが、最近の情報では,ブラジルやタイなどで照射処理が施された可能性が指摘されている。これらの宝石の地色が照射処理によってイエローからグリーンに改変される可能性があると言う報告がGems & Gemology(Koivula et al.,1986)においてもなされ、今年のGems&Jewellery(Williams,2009)においても同様の処理の可能性について言及している。
 また、市場ではこれらの宝石を「アンブリゴナイト」という鉱物グループ名で称されることが多かったが、これらの一部に「モンテブラサイト」という鉱物名が使用されている。以上の状況を踏まえて、今回、改めてアンブリゴナイトの宝石学的特性、ならびに照射による色の改変についての検証を行うことにした。

◆アンブリゴナイトの宝石学的特性
 今回の検証では、以前よりナチュラル・カラーとされる淡い緑青色のカット石(図-1)と、ブラジルおよびタイで人為的に照射されたとされる彩度の高い緑色のカット石(図-2)を使用した。これらのファセット石の屈折率を測定した結果、屈折率はいずれもおよそ1.605-1.630の範囲内の数値に集中している。
 また、フランスのナント大学(Université de Nantes)のB.Rondeau氏の協力を得て、諸分析によって鉱物学的にアンブリゴナイトおよびモンテブラサイトとあらかじめ同定されている原石サンプルを拝借し、蛍光X線装置、FT-IRおよびラマン分光装置を用いてそれぞれのスペクトル測定を試みた。
 蛍光X線装置による分析では、アンブリゴナイトおよびモンテブラサイトは、ともに主成分のAl(アルミニウム)とP(燐)が検出されたが、本装置では元素番号の小さいF (フッ素)の検出が不可能であるため両者の分析結果に明瞭な差は見られなかった。
 FT-IRによる反射スペクトルを測定したところ、両者のスペクトルには1100cm-1付近を中心としたピークが現れ、1020、820cm-1付近の弱いピークを伴う。さらに1100cm-1付近のピークを精査すると、モンテブラサイトの場合は1100cm-1のピークのほかに1160、1210cm-1付近のピークが見られた。それに対し、アンブリゴナイトの場合は1100cm-1のピークのほかに1210cm-1付近にピークが見られたものの、1160cm-1付近のピークは明瞭に現れなかった(図-4)。
 ラマン分光分析では両者のスペクトルのうち、1060、3360cm-1付近のピークにわずかな差が認められた。モンテブラサイトの場合は3380cm-1付近に鋭いピークが現れた。このピークは、結晶構造中のOH(水酸基)の伸縮による吸収に由来していると考えられる。これに対し、アンブリゴナイトの場合は、ピークの位置が3350cm-1付近にまでシフトし、ピークの形も幅広くなった(図-5)。

図-1:
ミント・カラーを呈するアンブリゴナイト
図-2:
ブラジルおよびタイで人為的に照射されたとされる彩度の高い緑色のアンブリゴナイト

図-4:
アンブリゴナイトとモンテブラサイトのFT-IR反射スペクトル

図-5:
アンブリゴナイトとモンテブラサイトのラマン分光スペクトル

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