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◆蛍光X線分析(JSX-3600)
 ジェイダイトとオンファサイトに対して、蛍光X線分析を行った(図-7)。
 純粋なジェイダイトはNa、Al、Si(珪素)の主元素で構成される。しかし、宝飾に供されるジェイダイトは微細な結晶の集合体であり、他種鉱物を微量ながら含有している。以前、我々がEPMA(X線マイクロアナライザー)で行った分析では、いわゆる“琅?(ルビ/ろうかん)”タイプのジェイダイトであっても、結晶粒間に少量のオンファサイトが混在していることを確認している。そのため、Mg、Ca、Feといった元素を微量成分として数百ppm~数%含むことが多い。
 宝飾に供されるオンファサイトはジェイダイトに比べるとMgO、CaOの含有が高く、Na2Oのmol%と同程度含まれている。今回測定したジェイダイトのNa/(Na+Ca)のmol%比は0.9前後、オンファサイトは0.6~0.7の範囲内であった。

図-7J:
蛍光X線分析結果/ジェイダイト(左)とオンファサイト(右)

◆赤外分光分析(IR Prestige-21)
 ジェイダイトとオンファサイトに対して、FT-IR(フーリエ変換赤外分光)装置による分析を行った。透過による中~長波長領域のデータでは、ジェイダイトとオンファサイトの両者に違いは見られなかった。そのため、表面反射にて1500cm-1以下の短波長側のデータを得て比較を行った(図-8)。
 ジェイダイトは長波長側の吸収端が約1250cm-1であり、990、860、680、650、550、490、440、410cm-1付近に鋭い吸収ピークが見られる。
 これに対し、オンファサイトでは長波長側の吸収端が約1220cm-1であり、1020、905、670、630、540、470、420cm-1付近に鋭い吸収ピークが見られ、これらのピークの位置はいずれもジェイダイトとは異なる。

図-8:
赤外分光分析結果/ジェイダイト(緑)とオンファサイト(赤)

◆顕微ラマン分光分析(Renishaw-1000)
 ジェイダイトとオンファサイトに対して、顕微ラマン分光装置による分析を行った(図-9)。
 ジェイダイトは700cm-1がメインピークであり、若干弱いピークとして1035、985、370cm-1のピークが見られる。
 これに対し、オンファサイトは680cm-1がメインピークであり、若干弱いピークとして1020、560cm-1のピークが見られる。これらのピークはいずれもジェイダイトとは異なる。また、400、375、345cm-1を中心としたブロードなピークは、オンファサイトのみに見られる特徴である。

図-9
顕微ラマン分光分析結果/ジェイダイト(緑)とオンファサイト(赤)

◆オンファサイトの鑑別表記
 “ヒスイ”の主要な消費国である中国や香港の宝石鑑別機関では、ダイヤモンドやジェイダイトなどに関する統一的な鑑別基準がなく、各ラボにおいてそれぞれ独自の鑑別手法や表記標語が使用されてきた。結果的に宝石業界では少なからぬ混乱が生じてきた。2006年8月に、香港の主要鑑別機関6社の協議と協力により、香港宝石学協会から“Standard Methods for Testing Jadeite Jade for Hong Kong”が発行され、Hong Kong Laboratory Accreditation Scheme (HOKLAS)の参考マニュアルにISO/IEC 17025:1999として登録された。
 ジェイダイトはオンファサイトやコスモクロアと固溶体の関係にあり、またそれぞれが共存、集合して岩石を構成する。これらを色や外観からだけで識別するのは困難であるため、香港宝石学協会は、オンファサイトとコスモクロアも総称した名称としてジェイダイトの中国称名である“FeiCui”を提案した。したがって、香港のラボが発行する鑑別書の結果覧には宝石名として“FeiCui”と記載されるが、ジェイダイトかオンファサイト、あるいはコスモクロアの三つのうちどのサブ・タイプに分類されるかについては備考欄に記載することが義務付けられている。
 また、LMHCに加盟しているアメリカ、スイス、イタリア、タイなどの国際的な宝石鑑別ラボにおいては、ジェイダイトとオンファサイトは宝石名として明確に区別されている。したがって、これらのラボが発行する鑑別書にはオンファサイトであれば鑑別の結果欄にオンファサイトと明確に記述される。日本国内においても国際的な鑑別ラボと同様で、オンファサイトは以下のように表記されている。

鉱物名 天然オンファサイト
宝石名 オンファサイト

◆まとめ
 ここ数年、香港や中国の宝石市場に濃緑色~黒色の“ヒスイ”が流行するようになり、日本国内でも見られるようになった。これらはしばしば“ジェイダイト”と称されているが、鉱物学的にはオンファサイトである。オンファサイトは、輝石グループに属する鉱物であり、ジェイダイト、コスモクロアなどと固溶体の関係にある。これらを識別するには蛍光X線分析による組成分析が必要であるが、赤外分光分析やラマン分光分析においてもおおよその区別が可能である。国際的な宝石鑑別ラボにおいてはオンファサイトとジェイダイトは明確に識別され、鑑別書上に表記されている。(おわり)

参考文献
1)福島秀明 (2000) ジェダイトに関する諸問題. ジェモロジィVol.XXXI, No.375. 15-17.
2) Ou Yang Chiu Mei, Li Jian Qi, Li Hansheng and Bonita Kwok (2003) Recent studies on inky black omphacite jade, a new variety of pyroxene jade. The journal of Gemmology, Vol.28. No.6. 337-344.
3) Caley and Richards (1956) Theophrastus On stones. Pp51, 120-121.
4) Clark and Papike (1968) Crystal chemistry of Omphacites, American Mineralogist, 53, 840-846



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