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緊急レポート 2008.8.27
ブラック・モアッサナイト
(株)全国宝石学協会 技術研究室
北脇裕士(FGA, CGJ)

 最近になってブラック・ダイヤモンドのジュエリーに、合成モアッサナイトが混入する事例が増加している。これらは宝石顕微鏡を用いた拡大検査で識別可能であるが、多数個がセッティングされている場合は、レントゲンX線透過性(X線透過性レントゲン)検査が有用である。また、個々の疑わしい石を確実に同定するためには、蛍光X線分析や顕微ラマン分光分析など等のラボラトリーの技術が必要である。
■背景
 1990年代後半から“ブラック・ダイヤモンド”がジュエリー素材として使用され始め、小粒石が多数個セッティングされたデザインものの流行は現在まで継続している。この“ブラック・ダイヤモンド”には1.ナチュラル・カラー、2.照射処理されたもの、3.高温で加熱処理されたものが知られているが(詳細は本誌2000年9月号、2004年11月号をご参照ください)、現在の主流は3.の高温加熱処理がなされたものである。
 高温加熱処理は、クラリティの著しく低い単結晶や白〜灰色の多結晶の天然ダイヤモンドを還元雰囲気(酸素の乏しい条件)での高温(HT)加熱することによって、一部をグラファイト化させ黒色化したものである。最近の“ブラック・ダイヤモンド”のジュエリーは、ほとんどがこの高温加熱処理がなされたものであるが、一部に照射処理されたものもが混在している。また、まれにブラック・キュービックジルコニア(CZ)がも混入していることもあり(詳細は本誌2003年5月号をご参照ください)、“ブラック・ダイヤモンド”の鑑別は一筋縄では行かない。さらに最近になって、これらの“ブラック・ダイヤモンド”・ジュエリーに合成モアッサナイトが混入する事例が急増しており(写真-1)、その鑑別をますます困難なものにしている。

写真-1:
モアッサナイトが混入した“ブラック・ダイヤモンド”ジュエリーの例。赤丸印がモアッサナイト、緑丸印が照射処理ダイヤモンド、その他は高温加熱処理ダイヤモンド
■拡大検査
 “ブラック・ダイヤモンド”の鑑別には拡大検査による所見が重要である。ブラック系の宝石は不透明なため内包物の観察が困難である。したがって、強いファイバー光源を使用し、たひと粒ひと粒の丹念な検査が不可欠である。天然のブラック・ダイヤモンドは針状の黒色内包物や(写真-2)や、石の内部に点在した不定形黒色内包物が特徴である(写真-3)。高温加熱処理されたブラック・ダイヤモンドは微細なグラファイトが密集し、拡大下においても完全に黒色化したものが多い。しかし、グラファイトの密集の密度の相違がダイヤモンドの結晶構造に沿った濃淡として現れたり(写真-4)、研磨面に達したフラクチャーにグラファイト化が集中している様子が見られる(写真-5)。

写真-2:
天然ブラック・ダイヤモンドの黒色針状インクルージョン
写真-3:
天然ブラック・ダイヤモンドの黒色不定形インクルージョン
写真-4:
高温加熱処理ダイヤモンドの結晶構造に沿って密集するグラファイトの濃淡
写真-5:
高温加熱処理ダイヤモンドの研磨面に達したフラクチャーに集中するグラファイト

 一方、ブラック・モアッサナイトは完全に不透明で、高温加熱処理されたダイヤモンドに特有な微細なグラファイトの密集は確認できない(写真-6)。また、表面が粗く研磨されたモアッサナイトものでは、ファセット面の粗さがグラファイトが密集したように見えることがあり(写真-7)、不用意な観察では高温加熱処理されたダイヤモンドと誤認する恐れがある(写真-7)。さらにモアッサナイトは硬度が高いため、キュービックジルコニア(CZ)のようなファセットエッジの鈍さは認められず、透明なモアッサナイトに特有のなダブリングや針状内包物も確認できない(詳細は本誌1999年2月号をご参照ください)。

写真-6:
ブラック・モアッサナイトには、グラファイトの密集は確認できない
写真-7:
ブラック・モアッサナイト(左)と高温加熱処理ダイヤモンド(右)のファセット面の比較。ファセット面の粗さがグラファイトが密集したように見えるため、誤認する恐れがある

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