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2.紫外−可視−近赤外分光分析
 図-1に非玄武岩および玄武岩起源の代表的なルビーのUV-Vis-NIR分光スペクトルを示す。前述した非玄武岩起源の各産地のルビーと同様に、860-700nmにかけて吸収がなく、Cr(クロム)元素に起因する700〜650nmあたりのシャープな吸収と、550および410nmを中心としたブローなど吸収が認められる。紫外領域においては、325nmにショルダーな吸収が検出され、タイ産ルビーと同様にFe(鉄)元素が多く含まれていることが分かる。このような吸収特徴はミャンマー産ルビーにほとんど見られない。
図-1:
非玄武岩および玄武岩起源の代表的な産地のルビーのUV-Vis-NIR分光スペクトル
3.赤外分光分析
 図-2にWinza産ルビーの典型的な赤外分光スペクトルを示す。20個の検査石すべてに3394 cm-1と3228 cm-1を伴い、3161cm-1を中心とした非常に強い吸収が検出された。これらは Si+4(ケイ素イオン)またはMg+2 (マグネシウムイオン)と水酸基であるOHとの結合振動による吸収と考えられている(Smith, Full 2006. Gems & Gemology)。このような吸収は非加熱のスリランカ産イエロー・サファイアやパパラチャ・サファイアやブルー・サファイアなどにしばしば観察されることがある。この特徴は他の非玄武岩起源のルビーとの識別に役に立つと思われる。
図-2:
Winza産ルビーの典型的な赤外分光スペクトル
4.蛍光X線及びLA-ICP-MS組成分析
 蛍光X線組成分析では、主元素のAl2O3 (酸化アルミニウム)のほかに、CrとFeと Ga(ガリウム)が検出された。しかし、Ti (チタン)やV (バナジウム)などの微量元素は検出下限であった。Cr2O3 (酸化クロム)と Fe2O3(酸化鉄)はそれぞれ2000~5000ppm、3000〜4500ppm、Ga2O3 (酸化ガリウム)は20~60ppm程度が検出された。Winza産ルビーのFeの含有量は、はるかに非玄武岩起源の各産地(ミャンマー産(モゴック、モンスー)、カシミール産、タジキスタン産、マダガスカル産、ベトナム産)のルビーより高い値を示し、玄武岩起源のタイ産ルビーよりは若干低めであった。一方、Ti、V、Gaなどの含有量を比較すると、非玄武岩起源ルビーのほうがWinza産ルビーより多く含まれていることが分かった。また、5個の石においてLA-ICP-MSによる微量元素分析を行った結果、主元素であるAl以外に、 Mg, Ti, V, Cr, Fe, Ni(ニッケル), Gaなどの微量元素も検出された。含有量の高低順にFe (2000-3000ppm)、 Cr (1100-1400ppm)、Mg (30-70ppm)、Ti (20-40ppm)、Ga(10-25ppm)、NiとVは4ppm以下であった(ただし、1pcからはVが検出されなかった)。遷移着色元素であるFeは、非玄武岩起源であるWinza産ルビーに最も多く含まれることに対して、Tiは非常に低濃度であったため、橙色味が強く表れたと考えられる。Winza産ルビーに見られる組成特徴は、交代作用によって産出したタンザニアのUmba産ルビーに類似しており、同様な高Fe低Vの分布が見られる。しかし、Ti、V、Gaなどの濃度はUmba産ルビーに比較的高い値が検出される。
■まとめ
 今年の初めに新しく発見されたタンザニアのWinza産ルビーは、宝石品質でかつ大粒のものがある。色調は一般的なルビーに比較すると、青味が少ない赤色で、非加熱ということもあり今後の宝石市場での期待が高い。地質背景は不明であるが、特有なインクルージョンや、UV-Vis-NIR分光スペクトルのパターンやFT-IRによる特徴的な分光吸収、微量元素の組み合わせなどから、Winza産ルビーは非玄武岩起源であるといえる。また、以上の検査手法を用いて、Winza産ルビーの産地特徴を同定することが可能であると思われる。

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