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今月の鑑別室から 2008.8.7
新産地:タンザニアWinza産のルビー
(株)全国宝石学協会 技術研究室
阿依アヒマディ(理学博士, FGA)、北脇裕士(FGA, CGJ)

 最近、非加熱のタンザニア産と称されるルビーを検査する機会が増えている。これらの多くには特徴的な弯曲した針状インクルージョンが見られた。また、紫外-可視領域の分光パターンおよび赤外領域の吸収パターンにも他の産地のルビーと識別できる特徴が得られた。以下にその内容を報告する。
■はじめに
 海外の情報誌によると、2008年4月のバーゼル・フェアにおいて “タンザニアのWinza産ルビー”が新しいトピックとして取り上げられている。この“Winzaルビー”は非加熱ということもあり、高値で取引され、宝石市場での評価は極めて高く、10ctに達する大粒サイズも見られるとのことである。
 タンザニアはアフリカ大陸の東部に位置し、タンザナイトを始めとする多種多様な宝石を産出する国として有名である。ルビーやサファイアは、数十年前からケニアとの国境付近にあるArusha地域や南部のSongea地域から産出しており、これらは色が濃く、他の産地に劣らないほどの人気があったが、近年では残念ながら上質の石が見られなくなっていた。
  全国宝石学協会技術研究室において、2008年の4月初旬頃から、タンザニアの新鉱山から産出されたとされる宝石品質の大粒のルビーを検査する機会が増えてきた。奇しくも時期を同じくしてバンコクのGRSラボによるタンザニア産ルビーについての報告がリリースされた(Peretti, 2008. http://www.gemresearch.ch/)。GRSの現地調査のレポートによると、今回発見された鉱区はタンザニアの中部にあるDodoma省のWinza地域に分布するVicinity村にある。この地において二次鉱床にルビーのほか、ブルー・サファイア、パパラチャ・サファイアやカラーチェンジ・タイプのサファイアなども産出している。ルビーの正確な埋蔵量は把握できていないが、10ct以上の大粒結晶がよく採掘されているようである。その後、同産地のWinzaルビーについてGÜbelinラボやSSEFラボによる調査が継続され、ラボ・ニュースやJewellery News Asia (June, 2008)、ICA InColor (Spring 2008) などに報告されている。
■サンプルおよび分析方法
1〜4ctの計20個のタンザニアWinza産ルビーを検査した。これらはすべてファセット・カットが施されていた。すべてのサンプルについて一般鑑別検査、UV-Vis-NIR (紫外−可視−近赤外分光分析)、 FT-IR (赤外分光分析)、 EDXRF(蛍光X線組成分析)およびLA-ICP-MS(レーザーアブレーション質量分析)による微量元素分析を行った。
 これらの検査結果を非玄武岩起源であるミャンマー産(Mogok、Mong Hsu)、カシミール産、タジキスタン産、マダガスカル産、ベトナム産ルビーおよび玄武岩起源のタイ産ルビーの既知の資料と比較検討した。
■検査結果
1.一般鑑別結果
 検査したWinza産ルビーは、青味をほとんど含まない彩度の高い赤色が特徴的である(写真-1)。一般的なルビーは、マンセルの色表では7.5RP〜10RPにプロットされるが、Winza産ルビーの多くは2.5R〜5Rにプロットされた。
 紫外線下では長波・短波とも鮮赤色を示し、タイ産ルビーより強い蛍光を発したが、非玄武岩起源のルビーの発光強度よりやや弱めであった(写真-2)。
写真-1:
タンザニアWinza産ルビー(1.049ct)/青味をほとんど含まない彩度の高い赤色が特徴

写真-2:
非玄武岩および玄武岩起源の代表的な産地のルビーの長波紫外線蛍光/左からミャンマー(Mogok)、ミャンマー(Mong Hsu)、カシミール、タジキスタン、マダガスカル、ベトナム、タンザニア(Winza) 、タイ
 屈折率、比重などの物理特性値は上述した各産地のルビーと同様の範疇であった。
 拡大検査では、弯曲した針状インクルージョン、液体−液膜インクルージョン、微小インクルージョン、結晶およびネガティブ・クリスタル、青色色帯、成長縞などが観察された(写真-3a〜h)。このような多様なインクルージョンは、GRSおよびSSEFラボの観察した結果に一致する。特に半円状または弯曲した針状インクルージョンは、タンザニア以外の産地からの天然ルビーや合成ルビーに観察された例がなく、タンザニアのWinza産ルビーの特徴で、産地識別の手がかりになると思われる。ミャンマーのモンスー産ルビーに見られる青色色帯はWinza産ルビーにもしばしば観察されるが、マダガスカル産ルビーのような“ざらめ”状のジルコンクラスターや、タイ産ルビーに見られる特徴ある平面的な形態を示す液体はほとんど認められない。
写真-3a:
弯曲した針状インクルージョン
写真-3b:
液体インクルージョン
写真-3c:
液膜インクルージョン
写真-3d:
微小インクルージョン
写真-3e:
結晶インクルージョン
写真-3f:
ネガティブ・クリスタル
写真-3g:
青色色帯
写真-3h:
成長縞
タンザニアWinza産ルビーの拡大特徴
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