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Be拡散処理ブルー・サファイアの鑑別特徴
 GAAJラボで確認したBe拡散処理ブルー・サファイアにはすべて結晶構造に沿った色帯が観察されたが、外縁部に沿った色の分布(いわゆるカラード・リム)は認められなかった。また、高温もしくは長時間加熱されたブルー・サファイアに一般的なドット状になったシルクや融解した結晶インクルージョンが認められた。さらに特筆すべきは円形〜らせん状(毛髪状あるいはクモの巣状)インクルージョンで、観察したすべてのBe拡散処理ブルー・サファイアに認められた(写真-2〜7)。このようなインクルージョンは非加熱あるいは一般的な加熱には通常見られないもので標準的な鑑別検査における重要な手がかりとなる。

写真-2〜7:
Be拡散処理ブルー・サファイアの特徴である、円形〜らせん状(毛髪あるいはクモの巣状)のインクルージョン

これらを観察するには宝石顕微鏡に内蔵されている暗視野照明ではほぼ不可能で(写真-8a)、強いファイバー光源による補助照明が必要不可欠である(写真-8b)

写真-8a:
Be拡散処理ブルー・サファイアの特徴である、円形〜らせん状(毛髪あるいはクモの巣状)のインクルージョン
写真-8b:
Be拡強いファイバー光源を用いたピンポイント照明法による観察例

 ブルー・サファイアの鑑別には紫外―可視領域分光分析、赤外領域分光分析も有効な手法である。加熱により紫外−可視領域、赤外領域の分光スペクトルに変化が見られる。一般に非加熱のスリランカ産、ミャンマー産およびマダガスカル産等の非玄武岩起源のブルー・サファイアは赤外領域に特徴的な吸収は示さない。これらが還元雰囲気(特に水素ガスを用いるケース)で加熱された場合には非加熱の状態にはなかったOHに起因する吸収が加熱後に出現する。したがって、ギウダなどが加熱された特徴が見られるにもかかわらず、OHのピークが認められないものは酸化雰囲気での加熱、すなわちBe拡散処理の危険性が高い。

Beの検出方法と検出限界
 標準的な鑑別手法においてBe拡散処理を断定できるのは外縁部に沿った色の分布が認められた場合のみである。残念ながら、Be拡散処理されたブルー・サファイアには通常これらは認められない。円形状の特異なインクルージョンの存在もかなりの確率でその危険性を暗示するが、断定することはできない。
 Beを検出するには高度な分析技術が必要で、現在先端的な鑑別ラボではLIBSやLA-ICP-MSが利用されている。LIBSはおよそ1〜2ppmの検出限界であるため、それ以下であれば検出不可能である。研究者の間ではBeがサファイアの色変化に関与するためには2ppm以上が必要と考えられており(今後のさらなる研究と議論を要する)、意図的なBe拡散処理の看破にはLIBSの分析で十分検出可能と思われる。LA-ICP-MSは0.1ppm程度の検出限界があり、偶発的に混入したBeの検出も可能である。しかしながら、低濃度の場合は分析箇所において多少のバラツキが生じるため、複数個所の分析が必要である。また、Be拡散処理の判定のためのBe含有量の基準や測定に用いる標準資料など今後議論されるべき問題点は少なくない。

参考文献:
Scarratt K. (2002) Orange-pink sapphire alert. American Gem Trade Association, http://www.agta.org/consumer/gtclab/orangesappirealert.htm.

Emmett J.L., Scarratt K., McClure S.F., Moses T., Douthit T.R., Hughes R., Novak S., Shigley J.E., Wang W., Bordelon O., Kane R.E. (2003) Beryllium diffusion of ruby and sapphire. Gems & Gemology, Vol. 39, No. 2, pp. 84-135.

Shida J., Kitawaki H, Abduriyim A. (2002) Investigation of corundum heat-treated by a new technique. Journal of the Gemmological Society of Japan, Vol. 24, No. 1-4, pp.13-23.

Pisutha-Arnond V., H_ger T., Watanakul P., Atichat W. (2002) Lab News:A brief summary on a cause of color in pink-orange, orange and yellow sapphires produced by the new heating technique.
http://www.git.or.th/eng/eng_lab/eng_lab_news/eng_news_on_22_november_2002.htm.
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