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ある産地のアメシストには適切な条件で加熱するとグリーンに変化するものがある。これらは一般に“プラシオライト“もしくは“グリーンド・アメシスト”と呼ばれている。昨年の上半期から同様の色調をした大量のグリーン・クォーツが宝石市場に現れ、安価で販売されている。これらは研究の結果、いわゆる“グリーンド・アメシスト”ではなく、照射処理が施されたものであることがわかった。また、少量ではあるが、合成グリーン・クォーツも市販されており、昨今のグリーン・クォーツの鑑別をさらに複雑にしている。
緑色の天然クォーツ アメシストを加熱すると色が変化することは良く知られている。350℃〜550℃で加熱すると、たいていの場合、黄色〜帯褐黄色になる。いわゆるアメシストを加熱してシトリンを得る方法である。さらに、シトリンを600℃以上で加熱すると、無色あるいは乳白色になる。しかし、加熱の効果は常に予測できるものではなく、個体、結晶の分域あるいは産地の相違は結果に与える影響が大きい。1950年代にブラジルのミナス・ジェライス州のMontezuma産のアメシストは、400℃〜500℃で加熱するとグリーンになることが報告されており、“プラシオライト”あるいは“グリーンド・アメシスト”と呼ばれてきた(写真-1)。この地の他にアメリカのアリゾナ州Four Peaks、ジンバブエ、カリフォルニア州とネバダ州の境界付近で産出するものは、同様にグリーンに変化することが知られている。特にカリフォルニア州とネバダ州境界付近は、ナチュラル・カラーのグリーン・クォーツが産出する極めて稀な地域として興味深い。
カリフォルニア州とネバダ州の境界付近には、およそ1億4千万年前のジュラ紀に噴出した玄武岩〜安山岩が分布している。これらの火山岩に伴ってロック・クリスタル、ナチュラル・カラーのアメシスト、シトリンおよびグリーン・クォーツが産出する。文献によると、わずかに鉄を含有した無色のクォーツは、地質学的なタイム・スケールで大地からの緩やかな自然照射を受けて着色中心が形成されてアメシスト・カラーが生じた。その後、新生代第三期漸新世に流紋岩溶岩のマグマが貫入する際に、自然の加熱をこうむってシトリンに、そしてあるものはグリーンに変化したとされている。しかし、現状では、この地の天然グリーンとMontezuma産を初めとする人工的な加熱によるグリーンの色の原因を区別することは残念ながらできない。 ナチュラル・カラーのグリーン・クォーツは言うまでもなく、アメシストを加熱して得られた“グリーンド・アメシスト”も、アメシストやシトリンに比較すると量的にはるかに少ない。しかしながら、昨年になってグリーンのクォーツが突如として流通し始めた。香港ジェムショーにおいても安価なグリーンのクォーツが“プラシオライト”として大量に販売されていた。これらは調査の結果、人為的に照射(+加熱?)されたもので“プラシオライト”あるいは“グリーンド・アメシスト”と呼ぶのは妥当ではないことがわかった。 この照射によって得られたグリーンのクォーツは、チェルシー・カラー・フィルターで赤みを帯びて見える。アメシストを加熱して得られたいわゆる“グリーンド・アメシスト”は、このカラー・フィルターでは緑に見える(変化なし)のでその違いは明らかである。 チェルシー・カラー・フィルターはもともとエメラルドの鑑別用に作られたもので、エメラルド・フィルターとも呼ばれている。コロンビア産を初めとする多くのエメラルドはこのフィルターを通して見ると赤色〜微赤色に見えるが、エメラルドを模倣した緑色ガラスや多くの類似石は緑色に見える。これはこのフィルターがスペクトルの濃赤色部と黄緑色部のみを透過して、あとはすべて吸収するように作られていることによる。図-1に示すように、いわゆる“グリーンド・アメシスト”は黄緑色部の透過率の方が、濃赤色部の透過率よりも高いためカラー・フィルターでは緑色に見える。これに対して人為的な照射によるグリーン・クォーツは黄緑色部の透過率よりも濃赤色部の透過率の方が高いためカラー・フィルターでは赤く見える。
鑑別書における表記は次のとおり 従来のタイプ(アメシストを加熱して得られたグリーンのクォーツ)
照射して得られたグリーンのクォーツ
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