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●レインボー・ガーネットの内部組織●
 当地のアンドラダイトが虹色を呈するのは、ラブラドライトがラブラドレッセンスを発する原理と同様に、屈折率の違った2種類の薄層の積み重なりによって起こる光の干渉によるもの[図-4]と予想される。そこで、ガーネットの薄片を作製して内部構造を調べた。用いた試料は、大きさ10_程度の12面体結晶で、軸([001]方向)に垂直な方向で切断した。なお、この試料の平均化学組成はアンドラダイト成分96%-グロッシュラー成分3%で、ほぼアンドラダイト端成分に近いものであった。

図-4: 多層膜干渉の原理。入射光の波長をλとしたとき、2(nAdAcosθAnBdBcosθB)=mλ(mは整数)が成り立つときに光は干渉して強めあう

 光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡での観察により、{110}面に平行に成長バンドがあり、一面に波状のラメラ構造(wavy lamellae:10〜20μm周期)が発達していることがわかった[図-5]。このwavy lamellaeには組成差があり、太い方がAlが少なく(グロッシュラー成分2%)、数μm幅の細い方がAlが多い(グロッシュラー成分8%)[図-5b]。また光学的には、後者のラメラに光学異常(すなわち、立方晶系からの対称の低下)があるように思われる。

図-5: (a)レインボー・ガーネットの偏光顕微鏡像(クロスニコル像)/(b)波長分散型電子線マイクロプローブ[EPMA]による(a)中の白枠内のAlの濃度分布マップ

 結晶面の表面観察により、成長外形に平行な形状をしたwavy la-mellaeに対応したラメラ組織が観察された[図-6]。このことからwavy lamellaeは成長中に形成される組織であると考えられる。

図-6: (110)結晶面に平行な薄片における後方散乱電子像

 このwavy lamellaeは、アデレード産のレインボー・ガーネットにも見られることから、レインボー・ガーネット特有の組織のようにも思われるが、ソノーラ産のレインボー・ガーネットではwavy lamellaeは顕著でない。また光の波長に比べて大きすぎることから、イリデッセンスの原因とは考えにくい。
 軸に垂直な薄片で観察される{110}成長セクターの中で{110}面が薄片面に対して45°に斜交するセクター(図-7の下の写真中の(101),(011),(011),(101)の各セクター)では、非常に強いイリデッセンスがみられるが、{110}面が薄片面に直交する-すなわち入射光が{110}面に平行となっている-セクター(図-7中の(110),(110),(110),(110)の各セクター)では、イリデッセンスは観察されない。したがって、イリデッセンスの原因は{110}面に平行な薄膜の重なりを光が通過する際に起こる多層膜干渉による構造色と考えられる。すなわち、光の波長程度の厚さに相当する数百nm程度の周期をもった{110}面に平行な層構造が存在することを示唆する。
 そこで、高分解能電子顕微鏡による観察を行なった。その結果、wavy lamellaeの間に{110}に平行な非常に規則正しい周期をもったfine lamellaeが存在することが明らかになった[図-8a]。さらに、日立超薄膜評価装置HD-2300(日立サイエンスシステムズ那珂カスタマーセンタのご協力による)を用いた組成マッピング[図-8b、c]によって、両層間にAl/Feの組成差がみられることがわかり、両層間に屈折率の差異があることが示唆された。すなわち、このfine la-mellaeによる光の多層膜干渉がイリデッセンスの原因であると考えられる。
 このfine lamellaeは成長時にできたwavy lamellaeを横切って連続していることから、成長後に発生した組織と判断できる。両層の組成差が明瞭で、界面もシャープであることなどから、fine lamellaeはガーネットの成長後の離溶によって生じた可能性が高いと思われる。

図-7: レインボー・ガーネットの薄片写真(⊥c軸:クロスニコル像)/(上)の写真はガーネットの中心を通って切断した薄片で、(下)の写真は中心を外れて切断した薄片
図-8: fine lamellaeの電子顕微鏡像(a)/(b)、(c)はラメラ部の一部を拡大した箇所のAlとFeの組成分布マップ

●おわりに●
 世界的にも稀少なレインボー・ガーネットが国内で大量に見つかったことは驚きである。発見後しばらくは主に鉱物愛好家の間に口コミで広まっただけであったが、2005年6月の第18回東京国際ミネラルフェア(新宿)で特別展示されたり、8月2日の朝日新聞にカラー写真入りで掲載されたりで、いまや全国的に話題の石となっているようである。そのため、採集禁止にもかかわらず盗掘する者がおり、9月にはとうとう検挙者が出る始末である。現地は国立公園内であり、世界遺産リストにも登録された静かな山間の地である。おまけにレインボー・ガーネットの良質なものは既にほとんどが採り尽くされており、少なくとも宝石級の品質のものは残されていない。くれぐれも盗掘等で現場の自然を荒らさないように自制されることを望みたい。
(おわり)

注)“レインボー・ガーネット”は、宝石鑑別書においては「アンドラダイト・ガーネット」と表記されます。

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