2012年9月19日 2012年9月20日 奈良県天川村産レインボー・ガーネットについて1
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2005.12.01
奈良県天川村産レインボー・ガーネットについて
京都大学大学院理学研究科 下林典正/三宅亮/瀬戸雄介
●はじめに●
 ガーネットは1月の誕生石として知られているが、実際にはごくありふれた造岩鉱物(岩石を構成する基本的な鉱物)のグループ名である。ガーネット族には15種ほどの鉱物種が含まれているが、表-1に代表的な6種の成分を示した。元素が連続的に置き換わって幅広い組成範囲を示すことがあり(固溶体という)、例えばグロッシュラーとアンドラダイトとの間には、AlとFe3+の置換による連続的な固溶体系列(グランダイトと呼ばれる)がある。
 レインボー・ガーネット[図-1]はイリデッセンスによって虹色に輝くグランダイトの変種である。レインボー・ガーネットは産出が非常に稀で、世界的にもこれまで数例しか報告がなかった。1934年に米国ネバダ州のアデレード鉱区で最初に発見され、その遊色の原因に関して研究が進められた。しかし、宝石級ではなかったために市場には出回らなかったようである。市場に出回ったものとしてはメキシコのソノーラ産のものが有名であるが、もともと産出量が少なく、1980年代後半から数年間流通しただけで、すぐに市場から姿を消してしまった。

鉱物名 化学式 密度 屈折率
パイロープ(pyrope) Mg3Al2Si3O12 3.582 1.714
アルマンディン(Almandine) Fe2+3Al2Si3O12 4.318 1.830
スペサルティン(Spessartine) Mn2+3Al2Si3O12 4.190 1.800
グロッシュラー(Grossular) Ca3Al2Si3O12 3.594 1.734
アンドラダイト(Andradite) Ca3Fe3+2Si3O12 3.859 1.887
ウバローバイト(Uvarovite) Ca3Cr3+2Si3O12 3.83 1.865
表-1: 代表的なガーネット[X3Y2(SiO4)3

図-1: 天川村産レインボー・ガーネット(左:原石/右:11.15ct、右:表面を研磨13.14ct)/(スケールはいずれも1cm)/右側写真撮影:小林正明

 日本でも秩父の大滝鉱山や岐阜県の遠ヶ根鉱山、山口県豊浦郡の上保木などからレインボー・ガーネットと呼べるものが産出したとの報告があるようだが、いずれも量は微々たるものであった。ところが最近、奈良県吉野郡天川村より膨大な量のレインボー・ガーネットが見つかった。しかも、かつて流通したメキシコ産のものに比べてもまったく遜色がなく、むしろ凌駕しているといっても過言ではないくらいである。
 本稿では、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて観察を行なった天川村産レインボー・ガーネットの微細組織について紹介し、イリデッセンスの原因について考察する。

●産地の概略●
 奈良県吉野郡天川村は、日本三弁天の一つである天河大弁財天社(小説「天河伝説殺人事件」の舞台)があることで知られ、“修験道の本場”である大峯参詣の拠点でもあることから、夏には登山客や修行者らで賑わいをみせる。この大峯山系一帯を含む「紀伊山地の霊場と参詣道」は、2004年7月に世界遺産リストに登録された。
 地質的には、天川村の北東部には主として秩父累帯の三畳紀からジュラ紀の地層が、南西部には四万十帯に属する白亜紀の日高川層群が分布している。中新世の大峯花崗岩類がこれらの堆積岩をほぼ南北に断続的に迸入し、かなり広範囲にわたってスカルン化やホルンフェルス化を及ぼしている。花崗岩体の周囲には接触交代鉱床も点在しており、かつては鉄の採掘を目的に稼動していた鉱山もあった。その中の某鉱山跡付近を探索していた鉱物愛好家のグループによって、数年前にレインボー・ガーネットと呼んでも差し支えない程度のイリデッセンスを発するアンドラダイトが発見された。さらに2004年9月にはそれを上回る品質のレインボー・ガーネット脈が発見され、区別のため“スーパー・レインボー・ガーネット”と呼称された(それに倣って“宝石学会(日本)”での講演の際のタイトルでは「スーパー・レインボー・ガーネット」としていたが、いわば愛好家内での呼称であり、学術的には用いない方が良いとのご指摘を受けたので、本稿では“スーパー”の冠を外させていただいた)。
 ガーネット脈は斜面の中腹にあったとのことであるが、地表に露出していた箇所はすぐに採り尽くされてしまい、
現在では脈に沿って掘り込まれた採掘坑と斜面の下にまで続くおびただしい量の捨石が残されているだけである。それでも採集に訪れる人が絶えず、地元とのトラブルが発生したこともあったようである。6月中旬には地元の警察署と村役場によって看板が掲示され、現在では鉱物等の採集は全面的に禁止されている[図-2]。

図-2: 産地の状況

●天川村産レインボー・ガーネット●
 本産地のガーネットは自形性が強く、{110}面が発達した菱形12面体が大半である[図-3a]。大きさは数・〜1・前後で、最大でも2-3・である。色は赤褐色〜茶褐色で不透明からやや透明感のあるものが多いが、黒褐色不透明のもの、表面がメタリック風にぎらついた感じのものなどもある[図-3b]。
 虹色は結晶面がやや凹んだ箇所や割断面などで条線が発達した箇所に顕著なことが多いが、平坦な結晶面自体に虹色を帯びて見えることもある。結晶面は{110}面が{211}面に対して圧倒的に優勢で、多くのものが{110}面のみに囲まれた12面体の外形を示している。たまに細長く発達した{211}面を伴った結晶も見受けられる[図-3c]。このような結晶には半透明なものが多く、{211}面の方が虹色が鮮やかなことが多い。ごく稀に{211}面のほうが{110}面よりも卓越した結晶が見られるが[図-3d]、頻度は非常に少ないようである。
 なお、当地のガーネットにはクラックが入ったものが多く、割れやすいのがまさに“玉に瑕”である。群晶でも結晶と結晶の隙き間が粘土化したものが多く、非常に脆くて手に持っただけでもボロボロと崩れるほどである。

図-3: 天川村産レインボー・ガーネットの結晶形(スケールはいずれも1cm)

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