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◆クロチョウ真珠の可視分光特性とフォト・ルミネッセンス◆
 クロチョウ真珠は黒色からグリーン、ブラウン、ゴールド、ホワイトまでの様々な地色に孔雀の羽根のようなピーコック・グリーンやピンク色の鮮やかな干渉色が加わることによってさらに魅力的な色調を呈する。クロチョウ真珠の豊富なカラー・バラエティはクロチョウガイ固有の赤色、褐色、緑色の3種のポルフィリン系色素がブレンドされて発現するためと考えられる(写真−3)。
 これらの色素は、400、500、700nmの特性吸収スペクトルとして検出され、クロチョウ真珠の母貝鑑別にも広く利用されている(図−4)。地色が白色系以外の全てのクロチョウ真珠に700nmの吸収が認められるが、黄色系では400nm、赤色系では500nm、緑色系では700nmの吸収が優位を示す。また、黒色系では400nmと500nmの吸収がほぼ同程度のため、結果的に黒色に見えることになる。

写真-3: クロチョウ真珠各色
図−4: クロチョウ真珠の分光反射スペクトル

 さて、あるクロチョウガイのブラック・リップ部を長波紫外線下で観察すると緑色部には赤色蛍光が認められたが、黄色部ならびに白色部、稜柱層には認められなかった(写真−4)。

写真-4: クロチョウガイのブラック・リップの色調と蛍光特性(左:人工光下/右:長波紫外線下)

 また、マベの真珠ならびに貝殻真珠層のピンク色部あるいは褐色部には500nmに吸収が認められ、紫外線下の赤色蛍光はマベの識別特徴となることが知られている。これらについて325nm紫外線フォト・ルミネッセンス法で分析した。その結果、長波紫外線下で赤色蛍光を示す黒蝶ならびにマベの貝殻真珠層にのみ共通して600〜700nmに3つの発光ピークが検出された(図−5)。中でも620nm付近の発光ピークはマベならびにクロチョウガイ固有の赤色蛍光で、微量に含まれるPbまたはZnが関連しているとの説がある。また、これらの発光はクロチョウガイとマベに共通する500nmに特性吸収を持つ色素との関連性が示唆される。一方、紫外線下で赤色蛍光を示さないアコヤガイ、シロチョウガイの真珠層黄色部には一連の発光ピークは見られず、これらはFeまたはCuを含むポルフィリンによる着色との説がある。含有される微量金属元素の蛍光特性や強度への影響は無機宝石ばかりでなく有機宝石にも見られる。

図-5: 天然ブラック・ダイヤモンド(左)と加熱処理ダイヤモンド(右)の拡大写真

 次に、上記の試料について、同法で励起光を633nmへ変更して比較検討を行った結果、長波紫外線下で赤色蛍光を示した試料のみが700〜900nmにかけての蛍光強度が高く、クロチョウガイとマベでは異なるパターンが現われ、母貝間の違いが明確になった(図−6)。

図-6: 天然ブラック・ダイヤモンド(左)と加熱処理ダイヤモンド(右)の拡大写真

 今回、顕微ラマン分光法及びフォト・ルミネッセンス分析法を有機宝石へ適用し、真珠の母貝鑑別や色素の蛍光性、蛍光強度の定量化などの有効なデータを得ることができた。また、今回の研究では当初期待していた紫外部325nmの励起光よりも、むしろ可視部赤色光633nmを励起光として採用することによって真珠鑑別上の手がかりが得られたことは非常に興味深い。今後は真珠以外の有機宝石にも新たな手法として同法を積極的に取り入れ有効利用の可能性をさらに広げていきたい。(おわり)
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