>>Topへ戻る >>「Research Lab. Report」タイトルリストへ戻る |
◆加熱の履歴に関する鑑別の正確性 2004年9月の鑑別表記ルール改定に伴い、AGL(宝石鑑別団体協議会)ではコランダムの加熱について個別表示するようになりました。従来は“○○には一般にエンハンスメントが行われています”とのコメントを備考欄等に付記して、個別に加熱の履歴に関する鑑別は行われていませんでした。したがって、ルール改定はAGL会員鑑別機関により多くのタスクを与える結果となっています。 加熱されたコランダムの鑑別には詳細な内部特徴の観察が重要となります。多くの結晶インクルージョンはコランダムより低い融点のため、加熱により融解したり、変色したりします。また、液体インクルージョンは癒着し、加熱に使用される触媒等がフラクチャーに残留物として見られることもあります。また、加熱により紫外−可視領域、赤外領域の分光スペクトルに変化が見られます。還元雰囲気で加熱されたブルー・サファイアには非加熱の状態にはなかった OHに起因する吸収が加熱後に出現します(図-1)。特にレーザー・トモグラフィは加熱によるディスロケーションの発達や蛍光色の変化を鋭敏に捉えることができ、加熱の履歴に関する判断には極めて有効な手法といえます。
数年前からミャンマーのMong Hsu地区に産出したルビーに行われている比較的低い温度(実際の温度を見積もることは困難ですが1000℃未満と推定されます)の加熱、いわゆる低温加熱処理が問題となっています。時を同じくして、ある海外の鑑別ラボの“No indications of heating”(加熱の痕跡は認められません)との結果が記載されたレポートが付けられたミャンマー産のルビーが大量に日本国内に持ち込まれました。Mong Hsu地区産ルビーは中心に青色の色帯を有していることから、当時は、この特徴があれば非加熱と考えられていたからです(写真-8左)。しかし、実際には低温(1000℃未満)加熱された石では全体の色調は改善されるものの、この青色の中心部が消滅しないことがわかってきました。 ギュベリン宝石ラボではこのような低温熱処理の識別には赤外分光(FTIR)分析が有効であることにいち早く気付きルーティン・ワークに導入するようになりました。その後のGAAJ技術研究室の研究では赤外分光(FTIR)分析により、摂氏約500〜600℃以上の熱に晒されたMong Hsu産ルビーの鑑別が可能であることが証明されました。さらにレーザー・トモグラフィの観察では、このような検出限界に近い、またはそれ以下での低温加熱処理についても看破できる可能性があります(写真-8右)。現在、ギュベリン宝石ラボからマダガスカル産のピンク・サファイアの提供を受け、お互いのラボにある機器やノウハウで処理前後の分析を行い、より精度の高い鑑別技術の確立を目標として研究を行っています。 また、現在ラボ・マニュアル調整委員会(LMHC)ではラボにおける用語の調整を行っておりますが、コランダムの加熱・非加熱の看破についてもガイドラインを決め、異なる鑑別結果が生じないよう努めています。 宝石の産地や処理などを鑑別する目的で、国際宝石鑑別ラボ同士の技術共同研究や情報交換などの相互交流はますます必要とされ、宝石業界や消費者に科学的な確証と信頼性を与えるべく努力が不可欠です。
※1. IGCは現在世界33カ国の著名な鉱物学者・ジェモロジストなどで構成される宝石学の発展と研究者の交流を目的とした国際会議である。全国宝石学協会は積極的に参加し、継続的に会議をサポートしている。 ※2. LMHCは次の7つのラボにより構成されている:AGTA-Gem Testing Centre (アメリカ)、CISGEM(イタリア)、GAAJ(全国宝石学協会)-Laboratory(日本)、GIA-Gem Trade Laboratory (アメリカ)、GIT-Gem Testing Laboratory (タイ)、Gübelin Gem Lab (スイス)、SSEF Swiss Gemmological Institute (スイス) |
||||||||||||||||||||||||||||||
|