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◇レーザー・トモグラフによる特徴◇
 レーザー・トモグラフは細く絞ったレーザー・ビームをサンプル中の一定のレベルでゆっくりと走査しながら、内部の断層写真(トモグラフィ)を撮影するもので、結晶の不均一性を三次元的に捉えることが出来る
(写真-6)。レーザー源には各種の波長を選択することが可能で、このトモグラフィには波長488nmのアルゴンイオン・レーザー(青色)が適している。トモグラフィによって結晶欠陥などの散乱像が明瞭に捉えられるだけではなく、アルゴン・レーザーにより励起される蛍光像の観察も期待できる。我々が行ってきた加熱実験の結果やこれまでの実務経験から、加熱することによって発生したディスロケーション(線状欠陥)が、レーザー・トモグラフィでは容易に捕らえることが可能で、またブルー・サファイアは加熱によって赤色蛍光の強度が増す傾向にある。

写真-6: レーザー・トモグラフ(全国宝石学協会オリジナル)

◆加熱された合成ルビー
 天然コランダム同様、合成ルビーにも加熱が施されることがあり、特に内部特徴が変化することから鑑別上注意を要する。
 1990年代初頭、ベトナム産ルビーの市場への登場と同時期に大量の加熱されたベルヌイ法合成ルビーが市場に投入された。それまで、ベルヌイ合成ルビーと言えば拡大検査で“カーブライン”を容易に発見でき、鑑別上特に問題はなかった。加熱が施されることによって、カーブラインのレリーフが見え難くなり、さらに液体様のフェザーが入るようになり
(写真-7)、拡大検査での識別が一筋縄では行かなくなった。
 1990年代半ばには加熱されたカシャン合成ルビーが出現した
(写真-8)。これらは得てして1ct以上の大粒の結晶で国際的な知名度のある鑑別ラボでも誤鑑別が生じるなど看破の難しさが問題となった。カシャン合成ルビーはペイント・スプラッシュと呼ばれるフラックス・インクルージョンやコメット状と呼ばれる微小インクルージョンが鑑別特徴であるが、加熱によってこれらが劇的に変化する。カシャン合成ルビーに用いられているフラックス(クリオライト)は融点が低く、視覚的特徴が天然の結晶インクルージョンが融解したものに酷似している(写真-9)。その上、コメット状インクルージョンは加熱により、天然の微小インクルージョンと識別が極めて困難となる(写真-10)(詳細は、ジェモロジィ1996年11月号参照)。
 最近ではラモラ・ルビーの特徴を有する合成ルビーが加熱されており、ルビー鑑別に新たな問題を提議している。ラモラ(RamauraTM)は1983年に販売が開始されたフラックス法の合成ルビーである。販売当初は天然との識別が困難であるため、メーカー側がラモラの指標になるようにあえて合成時に希土類元素を添加したと言われている。今年になってこの識別困難なラモラ・ルビーが加熱され、さらに鑑別が難しくなったものを見かけるようになった。拡大検査において融解したオレンジ・フラックスが観察されれば、加熱されたラモラ・ルビーの識別特徴になるが、微小インクルージョン、色むら、成長線などは天然ルビーに酷似しているため注意が必要である(ジェモロジィ2005年6月号参照)。

写真-7: 液体様のフェザーが入ったベルヌイ合成ルビー
写真-8: カシャン合成ルビーのリング
写真-9: 加熱されたカシャン合成ルビーの“ペイント・スプラッシュ”
写真-10: 加熱されたカシャン合成ルビーの“コメット状インクルージョン”

◆まとめ
 2004年9月の鑑別表記ルール改定に伴いコランダムの加熱について個別表示するようになった。加熱されたコランダムの鑑別には詳細な内部特徴の観察が重要となる。多くの結晶インクルージョンはコランダムより低い融点のため、加熱により融解したり、変色したりする。また、紫外-可視領域、赤外領域の分光分析もコランダムの加熱・非加熱に重要な情報を提供してくれる。特に赤外分光ではコランダムの産地によってその特徴が異なるため、産地情報やオペレーターの解析能力が不可欠である。さらに、近年では合成コランダムも加熱されることが珍しくない。ベルヌイ合成ルビーに始まり、カシャン合成ルビー、チャザム合成ルビー、最近ではラモラ合成ルビーが加熱されており、コランダムの鑑別をますます複雑にしている。
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