◇X線分析顕微鏡観察:
 X線分析顕微鏡とは
 岩石・鉱物や宝石などの組織を観察するための最も広く用いられているものに光学顕微鏡や偏光顕微鏡がある。通常、光学顕微鏡では光学的異方体に関しては結晶の方位の変化などを観察することは容易であるが、ダイヤモンド、ガーネットやスピネルなどの光学的等方体(等軸晶系)ではその方位などの決定は困難である。
 X線分析顕微鏡では、試料から発生した蛍光X線をエネルギー分散型検出器で検出することで、物質の構成成分や組成マッピング像が得られる
(図-12a)。また、結晶質の試料から発生する回折X線を利用し、結晶方位のマッピング像を得ることができる。このような回折X線を得るにあたっては、入射X線に対して試料を360°水平回転と?30°の傾斜ができる特殊試料ステージを取り込み、注目する結晶粒を回折条件に合わせることによって結晶方位のマッピング像も得られる(図-12b)。本研究に用いた装置は、京都大学理学研究科と理学相原精機株式会社とが共同開発したものである(Shimobayashi et al, 1999)。

図-12a: X線顕微鏡全体写真[HORIBA XGT2000, 京大地質学鉱物学教室]
図-12b: 同装置の試料室に設置した傾斜・回転ステージ

観察結果
 
図-13は、X線分析顕微鏡による試料Aの分析スペクトルである。ステージを回転させることにより得られた試料Aの111反射、222反射、333反射、444反射と555反射の回折X線ピークをそれぞれR1,R2,R3,R4,R5で示した。

図-13: X線分析顕微鏡による試料Aの回折X線スペクトル。R1,R2,R3,R4,R5は試料Aの111反射、222反射、333反射、444反射と555反射の回折X線ピークである

図-14(a,b,c)はR2、R3、R4反射の回折X線に合わせた結晶方位マッピング画像である。マッピング像の画素数は256×256を選択した。R2の222反射を用いた回折X線マッピング像(図-14a)では、コントラストの明暗差に相当する分域境界部が検出され、これはルミネスコープで緑黄色を発光した領域、またはSEM-CLでも観察されたスムーズな{111}界面に対応する。R3とR4は最も強い回折強度を持ち、励起域が格段に深くなっている。そのため深さ方向でのマッピングは鮮明になり、その結果、スムーズな{111}の界面境界部は試料テーブル面の深さ方向に向かってそろっておらず、界面面積が広がっていることが分かった。このような結晶方位マッピングの画像から、結晶全体の成長分域が変化していることが推定でき、単調に成長したものではないことが分かる。また、結晶方位のマッピング画像はある断面での情報であり、結晶面を深さ方向に研磨することによって、成長分域の三次元的な変化を捕らえることができる。

図-14: R2、R3、R4反射の回折X線に合わせた結晶方位マッピング画像

 試料Bの333反射の回折X線によるR2のマッピング像を
図-15に、400反射と800反射によるR1,R2のマッピング像を図-16(a,b)に示す。

図-15: 333反射の回折X線による試料Bのマッピング像
図-16: 400反射と800反射によるR1,R2のマッピング像

図-17は400反射と800反射の分析スペクトルである。個体の333反射と400反射、800反射を用いた回折X線マッピング像は、結晶全体に同じ明るさを示し、{111}と{100}の結晶面の界面はスムーズであり、それぞれの結晶方位がそろっており、成長分域の境界部は捕らえることができなかった。この合成ダイヤモンドの結晶方位マッピングは試料Aの天然ダイヤモンドと比べ、かなり異なった印象を与える。{111}面と{100}面の組み合わせからなる成長形は、直接成長条件(過飽和度)に制御され、結晶形態の違いを生じる原因となる。

図-17: 試料Bの400反射と800反射の回折X線スペクトル

◆まとめ
 ダイヤモンドの天然と合成を判断するための基本的な考え方に両者のモルフォロジーの相違がある。しかし、天然ダイヤモンドにもセンター・クロスと呼ばれる合成ダイヤモンドに類似した結晶形態を持つものがある。これらを識別する際に宝石顕微鏡下におけるカラーゾーニングや紫外線蛍光検査による観察等の標準的な宝石鑑別検査では両者を明確に区別することは困難で、重大なミスジャッジを引き起こす可能性を秘めている。なぜなら、天然・合成ともセクター・ゾーニングに伴う色むらが見られ、同様に紫外線下ではセクターに依存する十字の蛍光むらが観察されるためである。しかしこれらをカソード・ルミネッセンスで観察すると、両者には明確な成長履歴の相違がビジュアルなパターンとして確認できる。また、X線分析顕微鏡による観察では詳細な結晶面方位の分布をマッピングすることができ、両者の識別が可能となる。

謝辞
京都大学理学研究科地質学鉱物学教室には、X線分析顕微鏡分析に機会を与えていただきました。また、物質材料研究機構の神田久生博士には、電子顕微鏡によるCL観察にご協力いただきました。ここで謹んで感謝申し上げます。

参考文献:
F.C. Frank: Proc. Int. Ind. Diamond Connf.Oxford, 1996, J.Burls(ed.), 1, ‘science’, Industrial Diamond Information Bureau, London, pp. (1967) 119-135.
S.Tolansky and I.Sunagawa: Nature, 184 (1959) 1526-1527.
N. Shimobayashi., J .Minato., M. Kitamura. (1999): Earth and Planetary Science using Synchroton Radiation, KEK proceedings. 99-14, 83-86.
北村 雅夫、下林 典正. (1993). New Diamond. No.3, Vol.9, 8-13.
前のページ 最初のページ


Copyright ©2005 Zenhokyo Co., Ltd. All Rights Reserved.