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要旨 天然ダイヤモンドに稀に見られる六−八面体のセクター・ゾーニングと、高温高圧法合成ダイヤモンドに一般的なセクター・ゾーニングの観察上の相違について検討した。標準的な宝石鑑別に用いる紫外線蛍光検査では天然・合成ともセクター・ゾーニングは単なる十字型の蛍光むらとして観察される。また、このような成長分域、分域のドメインなどは宝石顕微鏡下では観察しにくく、X線トポグラフィやカソード・ルミネッセンスなどの手法を用いることによって明瞭に天然及び合成のセクター・ゾニングの相違が観察できる。さらにX線分析顕微鏡を用いると、天然及び合成のセンター・クロスダイヤモンドの内部組織を観察することができる。 ◆はじめに ダイヤモンドの天然と合成を識別するための基本的な考え方に両者のモルフォロジーの違いが挙げられる。天然は通常八面体の結晶形態となり、高温高圧合成では六−八面体となる。しかし、まれに天然ダイヤモンドにも六面体面と八面体面で囲まれたMixed-habit Growthを示すことがあり (Frank. 1996)、センター・クロスダイヤモンドと呼ばれている。天然ダイヤモンドが珪酸塩溶液相に相当するマグマ中で成長するとき、スムーズな{111}結晶面の成長速度より{100}面の成長速度が相対的に遅れると、結晶学的に平らな{100}面でなく、湾曲したラフな面が{111}面と共存し、異なる二つの成長セクターによる十字型パターンが形成される(図-1)。
このようなセンター・クロス構造は、結晶成長段階で過飽和度が変化したためという解釈が与えられている(Kitamura, 1993)。 これに対して高温高圧法合成ダイヤモンドは、{111}と{100}面は鉄やニッケル等の金属溶媒中で常にスムーズな結晶面として成長するため六―八面体の結晶となる(Tolansky and Sunagawa. 1959)。 本研究では、セクター・ゾーニングを示す天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドを比較対照して観察することにより、両者の類似点および相違点を見出し、より精度の高いダイヤモンドの天然・合成の鑑別手法を検討した。 ◆試料及び測定方法 本研究ではMixed-habit growthを示す天然ダイヤモンド(試料A)とチャザム製合成ダイヤモンド(試料B)の計2個を分析対象にした(図-2)。これらはブリリアント・カットされており、それぞれ0.105c,0.213ct、色はレッド及びオレンジ・レッドである。宝石顕微鏡による拡大検査、紫外線蛍光検査、カソード・ルミネセンス(CL)分析(ルミノスコープおよび走査型電子顕微鏡に装着したSEM-CL)及びX線分析顕微鏡による分析等を行った。 走査型電子顕微鏡の観察では試料の導電性を防ぐため、金コーティングを施し、電子線ビームに対してテーブル面を垂直に設置した。電子線の加速電圧は20 kvとした。X線分析顕微鏡分析では前処理は行わず、テーブル面にほぼ垂直な方向から分析を行った。
◆結果及び考察 ◇拡大検査及び紫外線蛍光観察: 図-3aに示すように、試料Aの中心に微小インクルージョンが分布し、強いファイバー光の照射において、ピンキッシュ・レッドの可視蛍光を示す。沃化メチレンに浸積して観察すると、結晶中心から外縁部に向かって四方向のカラー・ゾーニングが確認され、この分域に微小インクルージョンが密集し、<111>結晶方向に伸びている(図-3b)。また、八面体面に平行な薄いカラー・ゾーニングも観察され、キューレットには照射によると考えられる色溜まりも認められる(この試料は電子線を用いた照射処理を受け、アニールの工程を経ていると推定される)。長波紫外線下に暗赤色の蛍光を発し、特にセンター・クロス・ゾーニング(成長分域)に依存した十字状の蛍光むらが認められる(図-4)。
試料Bは、合成ダイヤモンドの特徴的な溶媒起源の金属インクルージョンと結晶中心部に微小インクルージョンが内包されている(図-5)。これも試料Aと同様に電子線照射とアニールが施されたものと考えられる。長波及び短波紫外線下において六―八面体のセクター・ゾーニングによる合成ダイヤモンド特有の十字型の蛍光むらが観察される(図-6)。
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