化学組成分析 蛍光X線及びLA-ICP-MS装置 カルセドニーはメノウと同様、内部に微細な空孔が多数存在するため、着色剤を使って、人工的に着色することが容易である。今回検査したこのカルセドニーは珍しい色調であるため、その着色原因を確かめるために蛍光X線分析を行った。表−2に示すように、カルセドニーの主元素Si以外に、微量元素としてFe、Caなどが検出され、Fe2O3は0.04〜0.16%の含有量を示す。LA-ICP-MSによる微量元素を測定した結果、数十ppmから数ppmオーダーのTi、Ba、B、Mn、Sn、Ga、Be(少ない順)の超微量元素が検出されたが、一般的な着色剤であるCr、V、Co、Niは検出限界以下であった。したがって、このカルセドニーのバイオレットの色調は主として鉄によるものと考えられ、若干のTiとMnが影響を与えているかもしれない。 一方、カルセドニーを含む母岩は黒色で、風化作用による浸蝕が一部に見られる(写真−4)。顕微鏡観察では自形のカンラン石、輝石および斜長石などが確認できる。また、蛍光X線分析により母岩の平均化学組成はSiO2が47%、Al2O3、CaO、Fe2O3(FeO)などが十数%となり、Na2O、MgOとTiO2は数%を示す(表−2)。また、微量元素としてK、Zn、Srなども検出され、岩石学的にはアルカリ玄武岩に分類される。
退色テストおよび照射実験 一般に、カルセドニーは光や熱によって退色する場合があるため、退色テストを行った。150Wのハロゲン光をおよそ10pの距離から100℃を保つように十数時間当て続けた。鑑別時よりも見た目にもかなり淡色となった(写真−5)。 さらに、退色したカルセドニーにγ腺照射を行った。照射は東京都立産業技術研究所のコバルト照射室1(ホットセル)で線源からおよそ5pの距離で18時間行った。 総線量は、1.7×107レントゲンである。照射後は退色前と同様のバイオレットに復元した(写真−6)。 このような退色・復元のサイクルはアメシストに見られるものと酷似している。化学分析や母岩の状態などから、このバイオレット・カルセドニーの着色原因はアメシストと同様に鉄に関連する着色中心であると推定できる。
まとめ 微小石英集合体からなるインドネシア産バイオレット・カルセドニーは母岩であるアルカリ玄武岩中に塊状および脈状に産出し、鉄が主にこのバイオレットの色調を形成している(Max:0.16% Fe2O3)。結晶全体に不純物などが少なく均質な組織で、一部にメノウ型の色帯が分布していることが特徴である。LA-ICP-MSによる微量元素の分析は、Ti、Ba、B、Mn、Sn、Ga、Beなどが数十から数ppmオーダー程度に検出され、一般的な着色材は認められなかった。 このバイオレット・カルセドニーは十分な供給量があれば、今後、宝飾品としてのカルセドニーに新しい色の展開が期待できる。(終) |
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