最近、写真に示す紫色半透明石を鑑別する機会を得た。これは検査の結果、鉄を含有する新種のナチュラル・カラーのカルセドニーであることが分かった。以下にその背景と宝石学的特徴を報告する。
はじめに
α(低温型)石英の微小結晶で構成された、潜晶質石英であるカルセドニーには多くの色変種が知られており、白色カルセドニー、赤色カルセドニー(カーネリアン)そして緑色カルセドニー(クリソプレーズ、ムトロライト)などと呼ばれている。しかし、紫色の変種は珍しく、ナチュラル・カラーのものはたいてい紫色を帯びた青色である。また、アメシスティン・カルセドニーの名称で知られる変種も紫色ではあるが、透明度や彩度が低いものが一般的である。
カルセドニーの名称はギリシャのChalceton町に産出されたことに因んでいる。和名は玉髄といい、帯状や同心円状に色が配列するものはメノウ(瑪瑙)と呼ばれている。
カルセドニーはメノウとともに世界の各地から産出しており、ブラジル、オーストラリア、マダガスカル、インド、ポーランドなどの産地が良く知られている。日本国内でも、北海道、福井、石川、父島などの沿岸で産出する。一般に塊状(葡萄状)タイプ、脈状と球状〜半放射状のタイプとして形成し、火成岩(玄武岩、粗粒玄武岩)などの空洞に産するほか、変成岩や花崗岩ぺグマタイトの岩脈や熱水鉱脈などの幅広い産状を持つ。
今回、ご紹介するバイオレット・カルセドニーの詳しい産地は不明であるが、サンプルをご提供いただいた(株)ミユキの亀山実氏によると、東南アジアのインドネシアに新しく産出したものらしい。
宝石学的特徴
今回、研究に使用したカルセドニーを写真−1に示す。黒色母岩の空洞に内張りするように充填した微小な網目状のカルセドニーが見られる。たいてい“葡萄状”の微小石英集合体から成り、一見アメシストやバイオレット・サファイアを思わせる濃いバイオレットである。色や透明度の美しい部分が宝石用にカボション・カットされている。
バイオレット・カルセドニーの宝石学的特性値を表−1に示す。
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特性 |
色 |
バイオレット |
透過率 |
半透明 |
硬度 |
7 |
屈折率(RI) |
1.540−1.543 |
複屈折量 |
0−0.003 |
比重(SG) |
2.62 |
長波紫外線(LWUV) |
青白色蛍光 |
短波紫外線(SWUV) |
不活性 |
カラー・フィルター |
暗赤色 |
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写真-1: |
インドネシア産バイオレット・カルセドニー |
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表-1: |
インドネシア産バイオレット・カルセドニーの宝石学特性値 |
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RIは1.540−1.543で、僅かに複屈折量(0.003)を持ち、SGは2.62であった。多結晶であるため多色性は見られず、カラー・フィルター下では暗赤色を示した。長波紫外線下では、青白色蛍光を示したが、短波紫外線下では、不活性であった。ハンディ・タイプの分光器では、特徴的な吸収は認められなかった。拡大下では写真−2に示すように、明瞭なメノウ・タイプの色むらが観察された(先述のアメシスティン・カルセドニーにはこのような色むらは観察されない)。水に浸漬して交差偏光下で観察しても特徴的な歪みは見られなかった。また、カルセドニーと母岩境界周辺部に白色球状の結晶の集合体が観察され(写真−3)、ラマン分光光度計では、463cm−1にSi-O-Si分子振動によるピークが確認された。微小領域蛍光X線分析の結果、主成分はSiO2であり、Fe、Ca、Mg、Mnなどの不純物を含有することが分かった。後述する母岩の性質などを考え合わせると、この白色球状結晶はクリストバライトではないかと推定できる。
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写真-2:カルセドニーに分布するメノウ型の成長色帯 |
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写真-3:白色球状結晶集合体(クリストバライト) |
可視〜紫外領域の分光測定を行ったところ(図−1)、鉄に起因すると思われる540nmを中心としたスペクトルの黄色から緑色領域にかけてのブロードな吸収と、紫外領域には360nmを中心とした小さな吸収が認められた。ブルーから紫色領域にかけては透過領域となり、バイオレット・カルセドニーの色調を特徴づけている。これに対して、ブルー・カルセドニーでは590nmを中心とした吸収が見られ、淡褐色、淡緑色、淡白色カルセドニーには赤外領域から紫外領域にかけて単調な透過率の降下しか認められない。近赤外(NIR)スペクトル解析では典型的なカルセドニーの分光パターンが得られた(図−2)。すなわち、2254nmにSi-OHによる振動吸収、1924nmに分子水(H2O)による振動吸収と1426nmに水酸基(OH)による吸収が検出された。
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図-1: |
各色カルセドニーの紫外―可視における透過スペクトル |
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図-2: |
バイオレット・カルセドニーの近赤外領域における 反射スペクトル |
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