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平成16年度“宝石学会(日本)”講演会から 2004.12.06
円形ブリリアント・カットのシンメトリーについて
−測定値と観察パターンによる判定−
技術研究室 顧問 矢野 晴也
◇はじめに
 円形ブリリアント・カットの“カット”の良否の判定は、その二次元的なプロポーションパラメーターが示す外形形状はもちろんのこと、立体的な構造体であるがゆえの三次元的なシンメトリーも判定対象にされなければならない。ブリリアンシー、ファイアやシンチレーションなどの光学的効果が重要な評価要素であり、これらは三次元構造に由来しているからである。
 しかしながら、その三次元的な計測や表現法がやや困難なこともあり、従来から主として、テーブル径、クラウン高さ(角度)、パビリオン探さ(角度)とガードル厚さの二次元的な要素のみで円形ブリリアントの形状を表現し、評価してきたのが現実である。例えば、写真−1のハート・キューピット(H&C)・パターンA、Bは従来の二次元的な判別基準では共にエクセレント・カットと判定されている石の映像である。この両者の違いは、三次元的なシンメトリーの良否による。もちろん、Aがほば完璧な三次元的シンメトリーを持つ石である。
 最近のより進んだ三次元的な計測技術では、笹目数値やパビリオン面、スター面、上下ガードル面の角度やその方位のより詳細な計測が可能となってきており、これらの結果を用いれば、より客観的なシンメトリーの判定ができるのではないかと考え、以下のように予備的な考察を行った。


◆◇三次元的構造と光の経路
 角度方位について
 円形ブリリアント・カットの三次元構造を、ワイヤーフレーム図(図-1)で示し、この図面上にテーブル面、ベゼル面から垂直上方に射出してくる光の経路を記入しておいた。このそれぞれの光の入射、反射及び射出に関係する面は、一定の関係の方向性、すなわち角度方位(azimuth)を持っていないと、上方からの観察パターンは歪んだものとなってしまうであろう。角度方位とはその角度の真傾斜の方向、方位のことであり、光の反射や屈折などの方向がこれにより支配され、変化させられることになるからである。前掲の写真-1(B)はこの角度方位の関係が狂っている端的な例である。
写真-1:H&Cパターン 図-1:ワイヤーフレーム構造
 円形ブリリアントにおいては、一般に各面は石の中心方向、テーブル中心とキューレットを結ぶ石の軸方向に向かってカットされている。即ち、通常では角度方位は石の軸方向である。パビリオン面、ベゼル面とスター面それぞれの隣接面間のこの方位差は、これらの面が8面で構成されているため45°で、上下ガードル面(UG面、LG面)は16面で構成されているため22.5°であるべきである。結論的に言えば、隣接する同種の面の角度方位差がこの基準方位差より乖離していればいるほど、三次元的なシンメトリーの狂いが生じていることになる。
 この角度方位の狂いの主な原因はガードルの厚さの不揃いである。例えば図-2のごとくパビリオン側の一部のガードルが厚くなり、この部分のLG面の角度方位と隣接のパビリオン面角度方位との差が本来の11.25°からμ°になったとすると、そのLG面角度τ°は笹目数値がzの場合、


 今、ガードルの厚さが1%厚くなる(珍しい事ではない)とμ°は8.3°となり(計算省略)、β°=40.75°、z=80%ならば、τ°は41.84°から41.58°と0.26°減少することになる。すなわちガードル厚さの一部の変動は一部のLG面角度の変化をもたらし、H&Cパターンなどの反射パターンの乱れをもたらすことになる。
図-2:ガードル厚さと方位の変化

◆◇計測結果の一例
 図-3は、Excellentと判定されている石の計測結果である。従来のデータに加え、UG、LG面の角度、笹目数値、更には最も重要であるクラウン、パビリオン各面の角度方位が計測表示されている。
重要とした理由は、前述のごとく、これを角度数値と組み合わせることで、最も端的に立体構造を表現することになると考えるからである。図−3の円周の外側に表示した数字は、ベゼル面とパビリオン面の各面相互間の角度方位の差である。これらは前述のごとく本来45°でなければならない。ところが、現実には図のごとくかなり乱れている。特にクラウン側のベゼル面の乱れが大きいようである。
Excellentにもかからずである。省略したが、UG、LG面についても計算可能であり、一般的にLG面の方位の乱れが小さいようである。
前項で述べたように、LG面は反射パターンに大きく影響するため、この均一化に注意が払われているからであろうか。
図-3:計測結果
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