>>Topへ戻る >>「Research Lab. Report」タイトルリストへ戻る

◇カソード・ルミネッセンス・スペクトル◇
 天然のII型ブラウン・ダイヤモンドのCLスペクトルでは図-7のような2BD(F)、2BD(G)とよばれる発光ピーク群が見られる。これらは260-290nmの間に、数本のピークからなる。このうち、260nm、272nm、286nmが2BD(F)、264nm、276nm、290nmが2BD(G)である。この発光ピーク群は、ブラウンの着色が消えるようなHPHT処理をすると、小さくなったり、消滅したりする。特に、2BD(G)はより低い温度で消滅する。
したがって、2BD(F)、2BD(G)という発光ピーク群はブラウン着色と同様に、歪みによって形成されるものと期待される。
 いままで、いくつかのブラウン結晶をHPHT処理して2BD(F)、2BD(G)が消滅することを確認したが、そのとき、2BD(F)、2BD(G)が消えてもそのスペクトルの一部の260nmに鋭いピークが残ることがあった(図-8)。ゆえにこの260nmピークも歪みと関係するものであろうか、という疑問も生じた。いままで、HPHT処理は歪みを除去する方向で考えていたが、HPHT処理自身、高圧下で行われるため、歪みを加える効果も考えられる。そこで、今回は、歪みを加えるという視点で、歪みのない高圧合成ダイヤモンドを用いてHPHT処理をおこない、次の問題を調べたわけである。
1.2BD(F)、2BD(G)という発光が現れるか?
2.260nmピークは現れるか?
 合成結晶AのCLを測定すると、図-9のスペクトルが得られた。
HPHT処理前後のスペクトルを(a)、(b)に示す。このスペクトルを比較すると、260nmピークが、HPHT処理により出現したことがわかる。電子線は1ミクロン程度の微細なスポットに照射されるため、照射のポイントごとに異なったスペクトルが得られるが、歪みの大きい、結晶のエッジ近くから、この260nmピークが見られ、このピークは歪みに関係するものであることが実験的に確認された。
 合成結晶BについてHPHT処理後のスペクトルを図-10に示す。
260〜290nmの間に、のこぎりの歯のような無数のピークが認められる。図-7と比べると、このピークは2BD(F)ということができる。このピークもHPHT処理で現れたもので、歪みに関係することが証明された。図-7に比べて、ピークの形が顕著で、図-10では微細なピークが無数に見られる。微細なピークそれぞれの波長は測定点ごとに異なっており、なぜこのような微細なピーク群として観察されるかは明らかでない。また、図-10では2BD(G)が見られないが、これは比較的低い温度で消滅してしまうので、今回のHPHT処理温度では消えてしまったと考えられる。
 以上、2個の結晶をHPHT処理して歪みを加えることで、260nmピークと2BD(F)のピークが発生することを実験的に確認することができた。このことから、天然のブラウン・ダイヤモンド結晶にみられる2BDピーク、260nmピークは歪みに関係すると結論できる。
結晶AとBとでは異なるスペクトルが得られたが、これは処理温度が異なったためと考えられる。結晶Aの方がより高温での処理だったと思われる。今後、HPHT処理において、温度の値自身を考慮したより詳細な実験が必要である。
図−7: 天然ブラウン・ダイヤモンド結晶のカソード・ルミネッセンス・スペクトル
図−8: 天然ブラウン・ダイヤモンドのカソード・ルミネッセンス・スペクトル。HPHT処理後
図−9: 高圧合成ダイヤモンドのHPHT処理前後のカソード・ルミネッセンス・スペクトル
図−10: 高圧合成ダイヤモンドのHPHT処理後のカソード・ルミネッセンス・スペクトル

◆◇結論
 天然ブラウン・ダイヤモンドのHPHT処理による脱色の問題に関連して、HPHT処理によるカソード・ルミネッセンス(CL)・スペクトルの変化を調べた。2BD発光、260nm発光ピークは歪みによって形成されることが実験的に確認された。しかし、これらのピークの生成・消滅挙動は異なり、2BD発光ピークは低温で形成されるが、高温では消失する。260nm発光ピークは高温で形成される。
(おわり)
前のページ


Copyright ©2004 Zenhokyo Co., Ltd. All Rights Reserved.