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平成16年度宝石学会(日本)講演会が6月12日(土)、京都市国際交流協会で行われ、筆者らは「LA-ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)法の宝石学分野への応用」の題目で講演を行った。以下にその内容をご紹介する。 1. はじめに 近年、宝石鑑別ラボは解決困難なさまざまな問題を抱えており、多くのジェモロジストは混迷のさなかにいる。その主な命題として以下のものがあげられる。 その1;宝石の地理的地域の産地鑑別 その2;多様化する処理法の看破 その3;高感度分析 宝石の地理的地域の産地鑑別はそれを行うそれぞれの鑑別ラボの意見であり、その宝石の品質や価値を示唆するものではない。このことはCIBJOのルールにおいても基本理念となっている。とはいっても同鉱物種同産状の宝石の産地鑑別は最も困難であり、検査するラボごとに異なる見解が出るようでは顧客は混乱することになり、宝石鑑別ラボの信用を落とす結果となる。産地鑑別を行う以上はより精度の高い科学的根拠の下に行われなければならない。 宝石の色の改善や改変を目的とした加熱処理方法は、ギウダ等の伝統的な手法より革新しており、加熱環境(酸化-還元雰囲気、各種ガス導入の制御)の多様な変化による低〜高温加熱プロセスや人為的な外部からの添加物による拡散加熱プロセス等が新たに開発されている。一般的な鑑別手法ではこのような複雑な加熱プロセスを看破するのは極めて困難といえる。 主に岩石・鉱物である宝石の構成成分を分析することは宝石鑑別に欠かせない項目である。宝石鑑別ラボにおける元素分析には通常、蛍光X線分析 (XRF)が用いられている。XRF分析は操作性に優れており、主元素と微量元素を同時に分析できる手法であるが、軽元素の分析や検出限界に問題点があり、さらに高感度な元素分析が必要となる(Fig.1)。
以上のような宝石鑑別における諸問題の解決にはいくつかのラボラトリーの分析が行われる。すなわち、異なる波長 (UV-Vis-IR)による分光 分析、ラマン分光分析などである。しかし、これらの分析手法にもまたそれぞれの限界があり、問題解決には至らない場合がある。そこで当技術研究室ではICP-MSの高感度を維持しつつ固体試料で局所分析が行えるレーザー・アブレーション(LA)-ICP-MS分析法に着目し、宝石鉱物の化学組成及び微量元素〜極微量元素分析への応用を開始し、以上の諸問題を打開するための研究を取り込んだ。筆者らのこれまでの研究成果を(一部他の研究者による成果も含めて)以下にご紹介する。 2.分析方法 LA-ICP-MS分析では、レーザー・アブレーション・システムはNEW WAVE RESEACH社製MODEL UP-213A/Fを、ICP-MSはAGILENT社製7500Aを用いた(Fig.2)。
レーザーはビーム径16μm、20Hz、レーザーエネルギー0.038mJ、積算時間0.1sec、測定時間40secとし、測定回数は3回とした。また、レーザーの照射により宝石の美観を損なわないよう、石のガードル上に、“GAAJ”のレーザーマークが刻印される方法を採用した。 3.産地鑑別 産地鑑別とは宝石鉱物の産出した地理的地域、地質的産状を指すものであり、決してその商品価値を示唆することが目的ではない。しかし、正確な原産地の把握によって宝石のより詳細な情報を提供することが可能となる。 筆者らは極微量に含有される不純物元素の分析を行うことにより、ダイヤモンド、サファイアおよびエメラルド等の地理的産地鑑別について検討した。 ●ダイヤモンド 1990年代、アフリカのシェラレオネやアンゴラ、コンゴから不法に流出するダイヤモンドの大半は、ダイヤ貿易の中心地であるベルギーのアントワープかイスラエルのテルアビブに運ばれていた(Fig.3)。規制されていないダイヤモンド貿易による利益は、武器を手に入れるため、そして武装闘争の資金として使用されている。近年、このような“紛争ダイヤモンド”を一掃することを目指す国際会議が開かれ、ダイヤモンドの国際認証制度を設立する方針が示されたが、締め出しの根本的な解決には至っていない。世界の研究・鑑別機関に“紛争ダイヤモンド”の識別、すなわちダイヤモンドの産地鑑別というこれまでにない新たな要求がつきつけられている。 ダイヤモンドは主に上部マントル、およそ100〜400km深さの環境で形成されている。ダイヤモンドは不純物の極めて少ない炭素の結晶であり、複雑な化学組成をもつ他の宝石鉱物―ルビー、サファイアやエメラルド等よりも多様性が少ない。したがって、従来知られている蛍光X線分析等による微量分析の精度で産地鑑別を行うのは現実的ではない。 そこでより高感度な分析が可能なLA-ICP-MS分析法がダイヤモンドの産地鑑別への応用に期待できる。 「Rapaport Diamond Report, September, 2003」によると、結晶の中心が無色、表層付近に薄い灰緑色を持つコンゴ産ダイヤモンド原石をLA-ICP-MSを用いて分析した結果、数ppmから十数ppmオーダーのSr,Zn,Ba,La,Ceといった極微量元素が検出されている(Table-1)。また、「M. Resano et al., 2003」には、南アフリカ-Premier、ボツワナのOrapa、ロシアのUdachnaya そしてカナダのPanda 鉱山からのダイヤモンドの分析を行い、9種の微量元素Al, Hg, Na, Ni, Pb, Sb, Sn, Ti ,Znを指針にした各々の産地特徴が紹介されている。
●コランダム 世界各地から産出されているルビーやサファイアの地質産状、光学、分光及び化学組成特徴などが長年に渡って多くの文献で紹介されている。しかし、同成因同産状のルビーやサファイアの内部特徴や分光検査では、産地鑑別が困難であり、時にラボによって異なる結論が提示されるケースがある。筆者らは、LA-ICP-MS分析法を用いたブルー・サファイアの産地同定の研究を行った。従来の手法(内部特徴の観察、分光学的手法、蛍光X線分析による微量元素の分析等)では玄武岩起源(タイ、オーストラリア、中国等)と非玄武岩起源(スリランカ、ミャンマー、マダガスカル等)の識別は可能であったが、同産状での産地識別は困難であった。LA-ICP-MS分析法による微量分析ではCr2O3%/Ga2O3%とFe2O3%/TiO2%を取った“Chemical Finger Print”において玄武岩と非玄武岩起源のサファイアが明瞭に区別でき、さらに極微量元素Zn, Sn, Ba, Ta, Pbの含有量との組み合わせから、非玄武岩起源のスリランカ、ミャンマー、マダガスカル産がそれぞれ識別可能である (Fig.4 Ahmadjan.A and H.Kitawaki, 2004)。
ベリル族の中でも特に希少価値の高いエメラルドは非常に複雑な地質学的な環境下で結晶化し、アクワマリン等の他のベリル鉱物が比較的穏やかな環境下で成長するのに対して、急激な地質環境の変化や力学的応力などの環境を反映する。エメラルドの鉱床は世界五大陸に分布し、南アメリカのコロンビアやブラジル、アジアのウラル山脈、パキスタン、アフガニスタン、アフリカのエジプト、ザンビア、ジンバブエ、マダガスカルが良く知られている。筆者らは現在、ペグマタイトに関連したナイジェリア-カドゥナ州、ザンビア、ジンバブエ、ブラジル-カルナイーバーソコト州のエメラルド、そしてペグマタイトに関連しないコロンビア-オリエンタル州、ブラジル-ゴイアス州、バイア州、パキスタン-スワート州のエメラルドを測定し、Cr, V, Fe, Mg, Na, Ga, Mn, Co, Rb, Sr, Sn, Ce, Hg, Tl, Pb等の微量元素によるフィンガー・プリントを追求している。 |
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