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◆ラボラトリーの技術による鑑別
◇分光分析
 紫外-可視領域の分光分析において、天然と合成の識別の手がかりになるのはN3センタ(415nm)である。N3センタは窒素が3個凝集した欠陥で天然ダイヤモンドのほとんどに見られるが、量産を目的とした合成法では生成しないとされている。すなわちN3センタを形成させるためにはかなりの高温と高圧が必要でプレス装置のアンビルが破損してしまう可能性がある。合成ダイヤモンドにはNi―Nに関連した欠陥が検出されることがある(Fig.-1)。
Fig.-1:紫外-可視分光分析(Ni―Nに関連した欠陥が検出)。合成ダイヤモンド(ロシア製)/HPHT処理された黄色。
これはHPHT処理された彩度の高いイエローに見られることが多い。
 FT-IRによる分析ではダイヤモンドのタイプを知ることができる。しかし、タイプが分かるだけでは天然と合成の区別はできない。天然の鑑別特徴となるのは水素に関連した欠陥やB2センタ等の存在である。
◇蛍光X線分析
 蛍光X線分析法ではダイヤモンドに内包されるインクルージョンの組成分析が鑑別の有効な手がかりとなる。蛍光X線分析法は分析対象物の表面しか測定できないため、インクルージョンが研磨面に達していることが必要である。天然ダイヤモンドの研磨面に結晶インクルージョンが存在することは稀であるが、仮にそのようなケースであれば正確に鉱物の同定を行うことができる。合成ダイヤモンドはしばしば金属溶媒に用いられた金属インクルージョンが研磨面に達している。このようなケースではFe,Ni,Co等が検出され、合成であることが明らかとなる(Fig.-2)。
Fig.-2:紫外-可視分光分析(Ni―Nに関連した欠陥が検出)。合成ダイヤモンド(ロシア製)/HPHT処理された黄色。

◇カソード・ルミネッセンス(CL)分析
 ダイヤモンドの成長履歴を観察できるカソード・ルミネッセンス法はダイヤモンドの天然・合成の鑑別には最も有効な手法である。デ・ビアス社が開発したダイヤモンド・ビューはCL法の電子線の代わりに紫外線を用いたもので、原理は非常に近いものである。ダイヤモンド・ビューは操作性に優れているが、蛍光像のイメージはCL法が優れている。天然ダイヤモンドのCL像には種々のものがあり、個体識別にさえ応用できる。合成ダイヤモンドはセクター・ゾーニングが明瞭で、熟練したオペレーターにとっては結晶原石の形態が容易に想像できる(Photo.-9,10)。
Photo-9:合成ダイヤモンドのCL像
Photo-10:合成ダイヤモンドのCL像
合成ダイヤモンドは成長温度によって晶癖が異なることが知られている。すなわち合成温度が高いほど六面体から八面体に変化していく。最近の観察では、ロシアの技術で製造されたイエロー系の合成ダイヤモンドは八面体に近く、チャザム製のものは六面体がやや優勢で、後者がより低温で成長したと推定できる。
◇フォト・ルミネッセンス(PL)分析
 ダイヤモンドの原子レベルの欠陥を捉えるのに最も鋭敏な分析手法である。ダイヤモンドのHPHT処理の鑑別には早くからその有効性が指摘されている。
これまでの研究において天然・合成の識別においてもこのPL法は極めて有効な手法であることが分かっている。天然ダイヤモンドには、塑性変形や点欠陥に由来すると考えられるピークが検出されることが多い。合成ダイヤモンドにはNi等の金属溶媒に関連すると考えられるピークが検出されることがある(Fig.-3)。
Fig.-3:フォト・ルミネッセンス分析(合成ダイヤモンドの例)。
合成ダイヤモンド(ロシア製)
Niを溶媒に用いた合成ダイヤモンドに見られる特徴的なピーク。
859,844,836,822,812,808,800,793,774,747,615,598

◆結論
 高温高圧法による合成ダイヤモンドは金属溶媒を用いることから、天然とは異なった晶癖を有している。また、溶媒金属を内包物として含有することがあり、天然との識別の根拠となる。
一般鑑別においては、内包物、紫外線蛍光、カラー・ゾーニング、歪み複屈折の観察が重要である。
ラボラトリーの技術においては、
1.FT-IRによる分光分析において窒素の含有量と   
存在の仕方を知るのが鑑別上重要な指針となる。
2.紫外-可視分光分析においてNi-N関連の吸収が見られることがある。
3.EDXRFによる元素分析においてFe,Ni,Coなどの金属フラックスを検出できることがある。
4.CL法による観察では成長履歴の相違から天然と合成を識別可能である。
5.PL分析においてある種の金属フラックスや天然特有の蛍光ピークを捉えることが出来る。
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