>>Topへ戻る >>「Research Lab. Report」タイトルリストへ戻る


組成マッピング
 図-1にAl、Si、K、Cr、Fe、Ti、Rb、Srの8元素について測定した7×7mm範囲の組成マッピング像を示す。特に主元素であるAl、Si、Kにおいて大きな差があることが認められる。また、図-2にAl、Si、K、Crの元素を任意方向から観察した三次元組成マッピング像を示す。マトリクスからルビー・インクルージョンに向かって、AlとCrの分布量が増加し、SiとKは減少している。ルチル・インクルージョンはサンプル中の全領域に渡って点在している。
図-1.組成マッピンク像(Al、Si、K、Cr、Fe、Ti、Rb、Srの8元素)

図-2.三次元組成マッピンク像(Al、Si、K、Crの4元素)

光学顕微鏡観察
 
カボションまたは丸玉に研磨されたこの結晶集合体は透明から半透明の灰緑色、青緑色、明るい緑色などの雲母から成るマトリクスと、無色または白色の雲母、石英から成るマトリクスで構成されている(写真-3)。前者の灰緑色の雲母は試料の最も多くの領域を占め、不純物をより多く取り込んでいる。特に細小な褐色ルチル・インクルージョンを多く伴っている。流紋状となるこの灰緑色の雲母の領域内に、月面に見られるクレーターのような青緑色〜明るい緑色の円形状結晶質部が認められる。これらもまた雲母である。この灰緑部と青緑〜明るい緑色部の一部の境界に無色〜白色の雲母-石英のマトリクスがリング状に存在している。{0001}(basal pinacoids)面からできた六角平板状や短柱状のルビーの結晶がこの青緑色部にさらに取り込まれており(写真-4)、試料の各所に数個から数十個露出している。{1011}からできた聚片双晶も発達している。結晶サイズの大きな短柱状ルチル・インクルージョンはこのクレーター内に分布している。
写真-3.
灰緑色−青緑色の雲母または無色−白色の雲母、
石英から成るマトリクスで構成されている部分
写真-4.
ルビー結晶が青緑色部のマトリクスに取り込まれている

結論
 
化学分析の結果から、この結晶集合体は主に灰緑色―緑色透明〜半透明の高濃度のCrを含有する雲母(ファクサイト)と無色透明から白色半透明の微小質雲母・石英などから構成されており、ルビーやルチルなどの結晶を取り込まれていることが分かった。残念ながら現時点においてこのルビーを含むファクサイトの具体的な地質背景が把握できていない。一般に、ルビーは接触変成作用を受けた結晶質石灰岩(大理石岩)、角閃石―アノーサイト岩、片麻岩などの三種類の変成岩中に産する(Karl.Schmetzer, 2003)。特にロシア、グリーンランドなどに分布する角閃石―アノーサイト変成岩中からルビーが発見され、アノーサイトやパーガサイトや雲母などと共存していることを報告されているが(Grygoriev,2000)、ファクサイトと共出した例は少なく、筆者らの知る限りこれまでにインド地域からこのような宝飾用の素材となるファクサイト中のルビーの産出報告は無いと思われる。

参考文献
Elisabeth, Strack., 1993. Gemstone Association (ICA) Laboratory Alert No.70.
Grygoriev, V.I., 2000 Rubinovoje: Die rotten Korunde von Rai-Iz im Polar-Ural. Lapis,25(9)
Karl Schmetzer, Heinz-Jurgen Bernhardt and Edward J. Gubelin., 2003. An anorthite-ruby-pargasite-picotite assemblage. Journal of Gemmology, 28(7).
前のページ


Copyright ©2004 Zenhokyo Co., Ltd. All Rights Reserved.