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Research Lab. Report 2004.04.25
ルビー・イン・ファクサイト
技術研究室  阿依 アヒマディ(理学博士)/北脇 裕士(FGA,CGJ)
 岩石中にルビーが含まれている宝飾用素材としてルビー・イン・ゾイサイトがよく知られている。その他にもミャンマー産のアノーサイト―パガサイト―ピコタイト中のルビー(Karl Schmetzer., 2003)、シベリア産の長石―雲母中のルビー(Grygoriev, 2000)、カヤナイト中のルビー(Elisabeth,Strack, 1993)などの報告例がある。
最近、写真に示す半透明から不透明の岩石中のルビーを検査する機会が得た。
分析の結果、これらは高濃度のCrを含有する白雲母(ファクサイト)中のルビーであることが分かった。以下にその内容を報告する。
写真-1.ルビー・イン・ファクサイト

● 試料および分析法
 
本研究では丸玉(47.57g)、カボション・カット(7.079ct)の2ピースの分析を行った。試料をご提供いただいた(株)ミユキの亀山 実氏によると、これらはインド南部のMYSORE地域から新しく産出されたものらしい。
 鉱物相を区別するために、X線分析顕微鏡(JSX-3600)、X線粉末回折装置(XRD-6000)及びラマン分光分析装置(RENISHAW1000)を用いて分析を行った。X線分析顕微鏡では試料の表面を微小コリメータが採用した50μmに収束したX線ビームで、マトリクスの白い部分90点、緑色部200点、赤部50点、褐色部10点の総計350点を測定した。また、7×7mmの広範囲の二次元組成マッピングを行い、任意方向から観察できる三次元組成マッピング図も作成した。X線粉末回折装置を用いて、色の異なる部分を粉末にし、回折データによってその鉱物種を検索した。顕微ラマン分光分析装置では、488nmのArレーザを用いて外観上、色の異なる部分の分析を行った。

● 分析結果
蛍光X線分析及びX-線粉末回折分析
 外観上、色の異なる鉱物相をX-線分析顕微鏡で分析した領域を写真-2に示す。

◇ 灰緑色―緑色透明から半透明のマトリクス:Cr含有白雲母(ファクサイト)
◇ 無色透明から白色半透明のマトリクス:白雲母と石英
◇ 赤色透明から半透明のインクルージョン:ルビー
◇ 褐色透明から半透明のインクルージョン:ルチル
写真-2.
X線分析顕微鏡で分析した領域及び組成マッピング領域(□)
 
表-1の分析結果から分かるように、結晶集合体のマトリクスは灰緑色―緑色と無色―白色の二種の鉱物相で構成されている。その多くの領域は灰緑色―緑色透明から半透明の高濃度のCr含有する白雲母(ファクサイト)で、全測定値範囲内において、Al2O3:35.59〜42.73wt%、SiO2:47.4〜54.0wt%、K2O: 8.89〜11.12wt%、Na2O:0.09〜2.02wt%の組成を有している。微量元素としてFe、Ti、Cr、Rb、Srなどを含み、Cr2O3の含有量は0.22〜0.29wt%に達する。褐色の微小ルチル・インクルージョンがこのマトリクスに多量に含まれているため、高濃度のTiO2:0.28〜2.55wt%を示す。緑色部の領域では色調が鮮やかになるにつれ、Crの含有量が増し、Tiが減少する傾向にある。 表-1の組成分析結果より、化学分子式はK0.9Na0.1(Al,Cr)3Si3O10(OH)2で表せる。このようなCr含有量の多い白雲母の変種はファクサイトとも呼ばれ、宝石品質のものはヒスイ類似石にもなり、ブラジルの南東地域のMinas Gerais鉱山やアメリカMaine州のWolfe’s Neck 変成帯等から産出されている。
 また、マトリクスの一部を構成している白色部分はSiに富む白雲母からなり、SiO2は51.89〜80.89wt%と広範囲の値を示している。このマトリクスには微小の石英が混晶しており、X線粉末回折データからも確認できる。Siが富むにつれ、AlとKの含有量は減少する傾向にある。不純物としては1wt%以下のFe、Tiが含有されているが、Crの含有量は少なく、ほとんど検出されていない場合もある。また、少量のBaが検出された。
 赤色部はコランダムすなわちルビーで、比較的幅広いCr2O3の含有量:0.25〜0.6wt%を有し、Fe2O3:0.15wt%、Ga2O3:0.002wt%以下の低い値を示す。他の遷移金属元素であるTiやVやMnなどは非検出であった。
 褐色結晶はルチルであり、不純物として少量のVとFeを有する。
 以上述べた各種マトリクス及びインクルージョンは顕微ラマン分光分析でも確認できている。緑色マトリクスは微小質結晶集合体から構成されているため、ラマン分光の強度は比較的弱く、白雲母の確定は困難であった。

表-1. 蛍光X線分析による色の異なる部分の組成測定結果例。(−)未検出
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