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今月の鑑別室から 2002.11.25
放射能を帯びた宝石
<Radioactive Gemstones>
技術研究室  北脇 裕士
エカナイトやトリアナイトは主成分にウラン(U)やトリウム(Th)を含有する放射能を帯びた天然宝石として知られている。以下に放射能を帯びた宝石について紹介する。
Ekanite and thorianite are known as radioactive natural gemstones which contain uranium (U) or thorium (Th) in their main components. Radioactive gemstones including these two stones are introduced in this report.

 ある種の宝石(ダイヤモンド、トパーズ、水晶など)にγ線や電子線あるいは中性子線を照射し、宝石本来が有する色を改変する処理が施されることがある。これらは通常、ナチュラル・カラーとの識別が可能で、人工的に着色されたものは“処理石”として宝石取引の間では明確にされている。人工着色によって色は改変されても、宝石自体が放射化し、それが一般市場に流通することは通常ありえない。極めて希なケースとしてラジウム処理されたグリーン・ダイヤモンドはわずかに放射能を帯びていることがある(本誌1999年11月号参照)。また、原子炉を用いて中性子線を照射した場合には本来宝石が含有する元素の種類によっては放射化する可能性がある。記憶に新しいところでは、1997年9月頃問題となったクリソベリル・キャッツアイが思い起こされる。これは“放射能を帯びたキャッツ・アイ”としてマスコミにも取り上げられ話題になった。インドのオリッサを起源とするクリソベリル・キャッツアイが、アジアのどこかの国において中性子照射が行われ、一部が違法に市場に流通したというものである。

当時、全宝協でも数個の放射化したクリソベリル・キャッツアイを鑑別しており、詳しい分析も試みた。その結果、46Scおよび59Feが検出され、明らかに人工的に中性子照射を行ったことが分かった。しかし、この種の放射化したクリソベリル・キャッツアイはその後まったく流通していないと思われる。
 さて、このように人工的な照射によって放射化した石とは別に放射能を帯びた天然宝石が存在する。ジルコン、エカナイト、ウラニナイトやトリアナイトなどはウラン(U)
やトリウム(Th)を含有する鉱物で個体差はあるものの放射能を帯びている。ジルコンはしばしば宝石として用いられるが、ウラン、トリウムを不純物元素として含有するに過ぎず、その放射能が問題となることはない。トリアナイトはコレクター用の希少宝石であるが、主元素にトリウムを含みジルコンより放射能は強い。日本国内では、天然の放射性鉱物について1gあたり370Bq以上の放射性同位元素の濃度があり、数百グラム以上というオーダーの絶対量があれば届出が必要とされている。したがって、宝石用にカットされた放射性天然宝石を所有することには問題がない。しかし、トリアナイトのような強い放射性鉱物を皮膚に密着して使用した場合、皮膚の組織等価線量が問題になるかも知れないので常時着用は避けた方がよさそうである。

※全国宝石学協会ではご依頼いただいた商品すべてについてガイガー・カウンター等で放射能のチェックを行っております。



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