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今月の鑑別室から 2008.11.25
天然シャッタカイトと天然プランシェアイト
株式会社 全国宝石学協会 技術研究室
小林泰介(FGA, GIA.GG)、阿依アヒマディ(理学博士, FGA)
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図-1:
シャッタカイトの原石(左)とカット石(右)
図-2:
プランシェアイトの原石(左)とカット石(右)

 シャッタカイト(和名:シャッツク石、またはシャッタック石/Shattuckite)Cu5(SiO3)4(OH)2とプランシェアイト(和名:プランへ石/Plancheite)Cu8(Si4O11)2(OH)4・H2Oは、ともに青色から濃青色を呈する半透明から不透明の鉱物であり、最近では宝飾品としても利用されている。
 シャッタカイトとプランシェアイトはともに、主に銅鉱床の二次鉱物としてクリソコーラ、マラカイト、ダイオプテーズなどの含銅鉱物とともに産出される。一般的には塊状に集合した形、あるいは微細な繊維状結晶が放射状に集合した形として産出されるが、大きな単結晶として産出される例はほとんどない。また硬度が低いためファセットカットには適さないが、多結晶の集合体になっているものはカボションカット、または不定形にカットされるのが一般的である。
 シャッタカイトは1915年、プランシェアイトは1908年にそれぞれ初めて存在が報告され(Schaller, 1915; Lacroix, 1908)、1960年代には結晶構造や化学組成の分析などによって両者の特徴が徐々に解明されてきた(Morse and Vlisidis, 1966; Evans and Morce,1966, etc.)が、長きにわたってシャッタカイトとプランシェアイトは混同され続けてきた。Websterの「Gems」第3版(1975)、第4版(1983)および第5版(1994)において「シャッタカイトはプランシェアイトと同じ意味である」と記載されていることから、宝石学の世界では「プランシェアイト」という名称が、シャッタカイトの「別名」としてかつて使用されていたことが窺える。おそらく両者の外観が酷似していることに加え、「プランシェアイト」という名称が「シャッタカイト」に比べて知られていなかったためと推測される。しかし、現在では両者は鉱物学的に別の種類であることが判明しているため両者は区別されるべきであり、シャッタカイトに「プランシェアイト」という名称を使用するのは適当ではない。
 両者はともに珪酸塩(イノ珪酸塩)鉱物に属し、SiO4四面体が鎖状に結合する基本構造を有している。シャッタカイトは一本、プランシェアイトは二本の鎖状構造がそれぞれの結晶構造の基本をなし、その間隙にCu(銅)原子とOH(水酸基)が配置されている構造になっている。このような結晶構造上の類似点は、宝石学的特性にも少なからず反映されている。

 両者は色、光沢および透明度にいずれも明確な差がないために一般的な鑑別手法のみでは識別は困難である。屈折率こそ両者にはっきりとした違いがある(表-1)が、宝石材として利用されるシャッタカイトやプランシェアイトには、一般的にクォーツおよびその他の含銅鉱物が混在しているため、正確な屈折率を測定することは難しい。

表-1:
シャッタカイトとプランシェアイトの特性比較

 蛍光X線による化学組成の分析では、ともに検出される主な元素はSi(珪素)とCu(銅)のみであり、検出元素の種類と比率のみでは識別は困難である。確実な識別方法は、粉末X線回折法を用いた結晶構造による同定であるが、この方法は破壊検査であるため、宝石鑑別として有効な手段とはいえない。そこで今回はFTIR(赤外分光)およびラマン分光による分析でシャッタカイトとプランシェアイトの識別が可能であるか検証してみることにした。
 今回の試料として、粉末X線回折法による分析にて、予めシャッタカイトおよびプランシェアイトと判明している原石試料各1点を利用した(図-1、2)。これらの試料は、ともに青色から濃青色の繊維状の微細な結晶が放射状に集合されており、クォーツなどの他鉱物が共存している。試料の結晶が非常に微細であるため、FTIR分析の際には顕微FTIR装置を採用し、反射スペクトルを測定した。
 シャッタカイトとプランシェアイトのFTIR反射スペクトルを分析したところ、650〜1150cm-1付近に1050cm-1付近をピークとした、ほぼ同範囲のスペクトルパターンが出現する。両者のスペクトルは類似しているが、スペクトルのピークを詳細に検証すると、シャッタカイトには860、960cm-1付近に強いピークが現れ、920、1000cm-1付近の弱いピークを伴う。これに対しプランシェアイトの場合はシャッタカイトの場合のような強いピークは出現せず、840、870、960、1010cm-1付近に弱いピークが出現する(図-3)。

図-3:
シャッタカイトとプランシェアイトのFTIR反射スペクトル

 ラマン分光分析の結果では,シャッタカイトには333、397、450、476、508、561、661、780、850、948cm-1のラマンスペクトルが現れたのに対し、プランシェアイトには338、397、442、508、671cm-1のラマンスペクトルが現れた。プランシェアイトのデータに現れるピークは、シャッタカイトのデータの一部に類似しているが、最も強い671cm-1のピークはシャッタカイトのデータには見られなかった(図-4)。

図-4:
シャッタカイトとプランシェアイトのラマン分光スペクトル

 より正確な鑑別を行うため、クリソコーラ(Chrysocolla)、アホーアイト(Ajoite)、ギラライト(Gilalite)などの同様の外観をなす含銅鉱物との比較検証を今後行う予定であるが、少なくとも今回の検証において、顕微FTIRおよびラマン分光による分析でシャッタカイトとプランシェアイトの識別は可能であり、それぞれの鉱物名で記載されるべきであることが分かった。


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